第四十六話 懺悔と訪問
あのことから、凛奈は必死に頑張った。誰よりも多くの時間を使い、練習をして少しでもみんなの役に立てるように頑張った。
だけど、現実はどこまでも残酷であった。
凛奈は才能がある方だが、春野に比べると凡人と言っていいレベルだった。
才能の差は残酷だ。
長い時間、必死に努力をしていれば逆転することができるかもしれないが、数週間程度の努力でひっくり返るようなものではなかった。
合唱コンクールの練習が上手くいく度に凛奈は弱り傷ついていく。
それでも凛奈は必死に耐えていた。だけど、弱っていく凛奈の姿を見る親友達は耐えられなかった。
「どうして・・・・・・どうして・・・・・・そんなことをしたの?」
それは合唱コンクールまであと2週間ぐらいの時だった。練習が終わったあと、春野との打ち合わせが終わった後に真美達を探しに誰もいなくなった教室へ向かった時だった。
明るく元気な声ではなく、泣き崩れるような凛奈の声が聞こえてくる。
「これ以上、凛奈さんの傷付く姿を見たくないからです」
真美の覚悟を決めた強い声が聞こえてくる。
「私を思ってくれるのは嬉しいけど、春野さんを脅して私が活躍できるようにレベルを下げるように言って、私が喜ぶと思うの!」
「喜ばないことぐらい知っています」
凛奈の悲痛の訴えを一刀両断するように断言する真美。
「ならどうして!」
「凛奈さんが今よりも傷つかないからです」
「!!」
真美の言葉に凛奈もドア越しにいる私も何も言えなくなる。
「私は凛奈さんや智子さんの為なら、悪役にでも凜奈さんや智子さんから恨まれても構いません。元からこの地位は凛奈さん達に与えてもらったものです。惜しくはありません。」
そう断言をする真美に何も言えなくなる。
「凜奈ち、私たちも真美ちと同じ気持ちだよ。もうこれ以上凜奈ちが傷つく姿を見たくないし、見られない」
「私も同じ」
綾香も安奈も真美に賛同している。
「みんな……」
自分を大切に思っているからこそ、凶行に出た。
「……ごめんなさい」
凜奈は涙を流しながら教室から出ていく。その時、私の存在に気が付くが一瞬見ただけでそのまま出ていく。
「真美……」
「智子さん……」
私は、凜奈の変わるように入る。
「これ以外に方法はなかったのかな……」
「私には思いつくことができませんでした」
きっぱりと言う真美。
「智子ち、行動をしようと言い出したのは私だから、恨むなら私にしてよ」
綾香が真美を庇うように私に言う。
「それはダメ、みんなで決めたこと。一人だけが恨まれるのはおかしい」
安奈がみんなで決めたことだと言いなおす。
「もう少し……我慢することは出来なかったのかな……」
「あと二週間も凜奈さんが傷つくところを我慢するのは無理です、弱くなるならまだしも、これからより強く傷付くことになります」
真美は淡々と事実を述べていく。
「だけど、こんなやり方じゃ誰も幸せにならない」
「そんなこと分かっています!そんなこと分かっているんです……。だけど、みんなを救う、そんなハッピーエンドになれる方法が思いつけなかった!!あるなら、教えてください!」
泣きながらこちらに詰めよる真美。
そんな真美に私は何も言えなかった。
みんながハッピーエンドになる方法なんて、私にも分からなかったから。
「強く当たってしまって、ごめんなさい。そんな都合のいいことがないことなんて分かっているんです。智子さん、私たちから離れてください。もう私たちは止めれない」
真美たちはそう言い残して私のところから立ち去る。
(私はどうすればよかったの?)
分からない、ただ分からない。
私が途方に暮れながら家に帰ろうとした時、前から春野が現れる。
「ごめんなさい、支えられなかった」
「謝る必要はないわ。これも私の実力不足が悪いわ。なら、その失態を私が受けるのは当然のことでしょ。」
春野は何処までも真っ直ぐだった。こんなことでも怯みもしなかった。
「ただ、これは私の実力がなかったことが悪いの。だから、他のみんなまで被害が及ぶことが無いようにしないといけない。藤井さん、もし、あの子たちが他人に危害を加えるなら私は容赦ができなくなる。だから、暴走しないように止めて欲しいわ」
「春野……」
「私から言えることは、それだけ。それじゃあ」
春野はそう言い残して私から去っていく。
真美たちが春野以外に攻撃の対象を向けることになったら、春野は再起不能になるまで追い込むだろう。
(私が止めないといけない・・・・・・)
だけどもう、真美達は私から離れてしまった。
(私はどうすればいいの・・・・・・)
私には分からなかった。
どう考えても親友も私が愛したグループも帰ってこない。
もう、修正ができないほど私達は粉々になっているのだから。
私は何もできない日を一日、また一日と過ごしていく。
そして、凛奈が折れた。
私と凛奈しかいなく、弱音を吐いても大丈夫だったことがトドメだった。
「もう無理だよ・・・・・・私、頑張ってるんだよ?食事も睡眠も削って頑張ったんだよ?なのに全く追いつかない。直樹もここ最近話すのは春野さんのことばかりだし、困ったことがあっても頼るのは私じゃなくて春野さん!もう、私には何も残っていないよ・・・・・・」
悲痛な叫びと、全てをなくして絶望した表情をして、泣き崩れる凛奈を私はただ抱きついて安心させようとすることしかできなかった。
全てを無くした凜奈は、その元凶である春野を真美たちと一緒にイジメるようになり始めていた。
堕ちて狂い始める親友たちとそれに耐える春野を私はただ見ていることしかできなかった。
表面上では何事も問題がないように進むが、裏では凜奈中心とする熾烈ないじめが行われていた。
そんな歪すぎるほどの日常が私を包み込んでいた。
私はただ見る事しかできなかった。凜奈たちを止める事が出来なかった。今の彼女から復讐の火を消しってしまったら残るのは抜け殻しか残らないと思ったから。
私はただ見る事しかできなかった。
だけど、現実はそんなことを許してはくれなかった。
一向に崩れない春野に業を煮やした凜奈たちは、ついてにそれ以外の人に手を出そうとしている会話を私は聞いてしまった。
その話を聞いた時、春野さんの言葉を思い出す。
「もし、あの子たちが他人に危害を加えるなら私は容赦ができなくなる。だから、暴走しないように止めて欲しいわ」
(マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ)
私は明確に想像できてしまった。春野が凜奈たちを打ちのめす姿を想像できてしまった。
このままでは全てを失う。
どうにかしなければいけない。
(けど、どうすればいいの?)
無理に止めても決して凛奈達が止まることはない。そんな領域まで凛奈達は狂ってしまったのだ。
少なくとも春野が何かしらのことで、傷つかないといけない。そうしなければ、凛奈達は止まらない。
だけど、そんなことをすれば春野によって打ちのめされる。
どうすれば、どうすれば、悩みに悩んだ私は一つの方法を思いついた。
(全ての罪を私が背負えば、凛奈達を救える!)
全てを救うことはできない。
ならば、私は親友達を生かす。そのために私は全ての罪を被らないといけない。
凛奈が満足するかつ、春野の攻撃対象がこちらになるようにしなければいけない。
だから、私は赤菜さんを怪我をさせた。
そして、気がついた。
親友を救うためと言って、自分何やった行いが二人の人間を壊したことに、その罪深い行為の重さに。
春野は私に何もしてこなかった。
私を見なかった。
その後のことはよく覚えていない。
ただ、覚えているのは赤菜さんの悲痛な叫びと、春野の全てを絶望した姿、そしてこの世の理不尽を恨むような美しい演奏だけだった。
(私はどうすればよかったの・・・・・・)
なんども振り返っても分からない。
あの時、どうすれば親友を春野を全てを救えたのだろうか。
私には分からない。
だけど、今の私には苦しむことが必要だ。
苦しまなければ、犠牲にした赤菜さんにも春野にも報いることができない。
だから、今日も学校を休んで、一日中振り返って、考え続け、苦しみ続ける、その筈だった。
ピンポン
高校なら1時間目ぐらいの時間の時だった。
チャイムがわたしの家に響く。
私は、二階の窓から誰か来たのか、こっそりと確認する。
もし、赤菜さんが春野が来たならば私は出なければいけない。罰を受けるために、だけどいたのは、赤菜さんでも春野でもなかった。
私の家の前にいたのは、私の高校では知らない人はいない、雄大生徒会長と佐紀副生徒会長だった。
それだけでも私が驚くのに十分なことだが、そんな二人に紛れる人物がもう一人いた。
その人物は、二人に比べて容姿も覇気もないのに、自然と二人に混じっていた。
そんな異様な存在感を放つ男子生徒の3人が私の家に訪れた。