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第三十四話 天才美少女は怒らせると怖い

「別に自殺するつもりはないから、椿君が休む必要はなかったのよ」


 休みの連絡を入れた僕に対して、春野は不満そうな声で聞いてきた。


「監視をするために休むんじゃないよ、一人でずっとここにいるなんて退屈でしょ?それは嫌だなと思ったから、休んだんだ。それにやってもらいたいこともあるし」

「ふーん、まあいいわ」


 多少納得がいっていないような表情を見せたが、ここは退いてくれるらしい。


「それで、私にやらせたいことって何?」

「これなんだけどね」


 僕は春野に一台のノーパソコンと資料を渡す。春野はそれを素早く読んで一瞬考えた後に言った。


「なるほどね。確かにこの仕事は私にしかできないことね」

「ああ、この頼みは春野の実力あってこそだからね。だけど、無理する必要なはないよ。出来なかったら別の方法があるから」

「心配しなくても、ここまでの資料が集まっているなら二時間ぐらいあればできるわ」


 そういって春野は僕の頼みごとをするためにヘアゴムを取り出して、美しい黒髪を後ろに一つでまとめ、作業しやすい恰好になる。


 普段、春野に対してはクールな美少女といった印象を持っていただけだったが、髪を結わえる仕草を見て、今まで意識していなかった可愛らしさとカッコよさにまで認識させられ、不覚にも一瞬、その魅力的な姿に見惚れてしまった。


「どうしたの?こっちなんてみて」

「いや、仕事できる人みたいでカッコいいなと」

「そうかしら。まあ、どちらでもいいわ。一応、褒めてくれてありがとう」


 春野はそういうと、ノートPCに向き合い黙々と作業を始める。


 僕は春野が作業をしているうちに、朝の掃除や洗濯などや今日休んだ分の授業内容を振り返るなどをして時間を潰した。


「出来たわよ」


 宣言通り、二時間で作業を終わらせる春野。流石の腕前である。


「お疲れ様、昨日のケーキと紅茶いる?」

「お願いしようかしら」

「分かった。少し待って」


 僕は冷蔵庫に向かい昨日余ったケーキを器にのせて、ティカップに紅茶をいれる。昨日の春野は紅茶を一から作っていたが僕にはそんな実力はないので、春野が事前に作ってくれたものを使う。


 紅茶などは僕も好きなので、またタイミングがあるなら一人で作って飲んでみたいと思う。


 後はフォークとナイフも用意して、僕は春野のいるダイニングテーブルまで持っていき、そっと置く。


 ノートパソコンの方は、もしもの場合が起きないようにリビングのテーブルの上に置いてある。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 僕はどのようなものが出来たのか確認にノートパソコンの方に向かう。


「それで、私に作らせたの誰を騙すために使う予定なの?」

「うんん」


 まるで僕を詐欺師かなにかと言わんばかりの発言に咳払いする。


「まるで僕が悪人みたいな言い方じゃないか」

「あら、違うの?私に写真加工なんてさせて、椿君のことだから使い道はそれぐらいしかないと思うのだけど」

「あははは……種明かしはする予定だから……騙すわけではない」

「一度は騙すじゃない」

「……」


 春野の蔑むような視線が僕に突き刺さる。


(騙してたくて騙している訳ではないんだ。ただ、何もない僕には手段を選べる程の手札はない。僕は人を喜ばせるよりも、騙して欺いて貶める方が得意なんだ。だから、人を騙し欺くような手段が多くなってしまうんだ)


 口で言ったらさらにボコボコされるのが目に見えているので、内心で弁明する。


 僕はとことん噛み合わない。才能はなく人を助ける力がない癖に、人を見捨てられないし、人を傷つけることが耐えられないほど辛いと思う癖に、人を騙す、欺く、傷つけることは得意なのだ。


 まあ、とことん噛み合わないが、物は使い方次第だ。人を傷つける才能も上手く使えばこんな感じにやっていける。


(そんなんだから一人なんだけどな)


 僕は気を取り直す。こうやってすぐに気持ちを変えられるのも、人を騙すことにおいては大切だ。


「まあ、種明かしもするんだ。その先は相手次第だよ。そうだろ?」

「嫌な言い方。昨日の私みたいに相手を試すんでしょう?」

「当たり前だろ?僕は問題の当事者ではないんだ。後、昨日のこと結構根に持ってる?」

「もちろん」


 これ以上にない満面の笑みで明るくそして強く言う春野。


(これは、復讐されるのはそう遠くなさそうだな)


 春野の深すぎる怒りに僕は生き残ることを諦める。早めに遺書でも書いておいた方がいいかもしれない。


「春野は出前とったことある?」

「なに?私の作る料理もう飽きたの。あんなに美味しそうに食べていたのに」

「無駄にうまい演技で悲しむな。他人が見たら悪者に見えるだろう」


 大袈裟に反応せずに、少しだけ斜め下に俯いて遠い目をしてリアル感ある悲しみ方をするので、非常に質が悪い。


「私から見たら十分すぎるほど悪者よ」

「……」


 反論ができないほどの正論で僕は黙る。


(一歩一歩堅実に追い込んでいく。流石は天才、反撃すら許さない堅実な攻撃だ。後で枕を濡らしておこう)


「で?私の料理がおいしくないから出前を頼むというわけ?出前なんかとったことないから分からないけど、私の料理よりいいようね?」

「分かった。謝るから、許してくれ。それに春野の料理の方が美味しいよ。ただ、色々と教えると言っただろ?些細な事かも知れないけど、一つでも多くのことを知ってほしいから提案しただけだ。いやなら、やめるよ」


 僕は春野に降伏して、考えていることをすべて伝える。


 僕は春野に色んなことを知ってほしい。大きな目標としては友達と遊ぶといったことなどがあるが、それ以外にも出前や昨日のケーキの食べ比べなど小さなことかもしれないけど、知ってほしいことは多くある。


 それを聞いた春野は、こちらに何かを求めるような視線を向ける。


「えっと、何を求めていらっしゃいますか?」


 何をすればいいのか分からないため、非常に弱腰で春野に聞く。


「謝るのでしょう?早く謝りなさい。そうしたら今日だけ許してあげるわ」


(今日だけ!?)


 春野は随分と嗜虐的な表情をする。昨日の件からこちらへの慈悲は消え去ったらしい。天才を怒らせるとどうなるのか、身をもって知ることになる。


 僕の心が今日一日無事でいられるのかどうか、大分不安になりながらも、僕たちは何を食べるのか話始めるのであった。

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