第三十話 最強の助っ人
「一応確認するが、私の目的は知っているね?」
「自分が何処までやれるか、知るためですよね」
「そうだ。自分がどれだけやれるか。具体的に言えば、この学校を何処まで変えれるのか。それを知ることが私の目的である」
誰だって自分が何処までできるか、試してみたいと考えることはあるだろう。
それが世界でもトップレベルの才能を持っていると学校一つを巻き込むほどのレベルになると言うことだ。
(まあ、何かにチャレンジする。自分の限界を知ると言うことは、成長する為に必要なことだしな)
その点では雄大先輩の考えを間違っているとは言えない。それにやっていることは多くの人にプラスに働いているのだから問題はない。
結果的にいいことをしているが、雄大先輩は聖人ではない。今は聖人のように振る舞っているが、それは物事をうまく進める為に必要であるからに過ぎない。
もし、残虐な行為が必要であれば雄大先輩は一切の迷いなく残虐な行為をするだろう。
だからこそ分からないのだ。
目的において、春野の問題は先延ばしで構わないのだ。雄大先輩は目的は高校を通っている3年間で何処までできるかである。
なので、いじめを放置せずに対処をしていれば春野の根本的な問題は解決できないとは言え、赤菜との関係が悪化することはなく、致命的なダメージを受けることはなかった。
そうなれば、春野が自殺するのはかなり先延ばしに出来たはずだ。少なくとも赤菜の存在を上手く使えば雄大先輩が卒業するまでは、問題が爆発することはないだろう。
いちいちイジメを放置して、バレるリスクと怪我人などが出ること、春野の暴走の可能性などに比べると、こっちの選択肢の方が遥かにリスクが少なく、成功確率も高く、手間もかからない。
放置する選択を選ぶ必要が一切ないのだ。
「弓弦君が考えている通り、私の目的を考えるならこの選択肢を選ぶ理由がない。なら、なんで選んだと思う?」
「自分の目的より春野を助けることを優先したからですよね」
「その通りだ。私は春野君を助けることを優先した。そこまではわかるが、助けることを優先させる理由が分からない。それが一つ目の問題なんだろう」
雄大先輩の言う通りだ。
春野を助けることを優先させたことは、結果を見れば分かることだ。ただ、春野を助けることを優先する理由が分からない。
春野の問題は、放置すれば将来的に自殺という最悪の結果になった可能性が高いが、逆に言えば今すぐ解決する為に動く必要などないのだ。
イジメだけなんとかすれば、時間の余裕はいくらでもあった。リスクを負う必要は何処にもないのだ。
では、何故リスクを負うことを選んだのか。
それは同じようにリスクを背負う僕には分かる。
春野を助けたいと言う感情を元に動いているからだ。僕が晴人に言ったのと同じだ。まず、大元が非合理的なのだ。
今までの展開を考えるに、雄大先輩は問題の先延ばしをすることをやめて、賭けることにしたのだ。
ギリギリまで追い込んで、全ての問題と勝負して決着をつけるため。
ただ、そこまでしたいと何故思ったのか、それが説明ができないのだ。
その答えを雄大先輩は言った。
「私は春野君に同情したんだよ」
なんでもないよう軽い感じで雄大先輩は話し始める。
「私は入学当初から春野君を私の目的の為に活用しようと考えていた」
春野の実力を考えれば当然の考えだった。
もう1人、自分が増えるようなものだ。上手く活用することができれば、更なる躍進をすることが出来た。
「その為に春野君がどういった人物なのか色々と調べて、気付かされたよ。自分がどれほど恵まれているかをね」
僕が分かる範囲でも、春野は与えられた物に全然釣り合わないほど、酷な人生を送っている。
雄大先輩が調べたらより詳細でより深いところまで調べることが出来ているはずだ。
「私は才能は勿論だが、親や友、環境にも恵まれていた。だが、春野君は才能しか恵まれてなかった」
それをいった雄大先輩の声は、恵まれたことが罪かと言わんばかりの声だった。
「だから、思ってしまったんだ。私も春野君のようになっていたかも知れないと、私と春野君の差は運が良かったか悪かったか、その違いでしかないとね」
もし、春野と同じような環境なら、今のようになれていたかと考えた時、雄大先輩はなれなかったと断言する。
自分のやってきた事は、自分の力で全てやってきたとは思わず、支えてくれた人、運が味方した事もあったからだと自分の弱さをしっかりと認められる人だからこそ、多くのことを成し遂げてきたんだろう。
「そして、春野君の希望もなく、自身の罪に苦しみ冷たい姿を見たとき決意した。春野君を助けようとね。私の目的はいつでもできる。しかし、春野君の問題はそうではない。どちらが優先なのか、考えるまでもなかった」
雄大先輩は自分が恵まれていると言う罪に、逃げることも無視することもせず、向き合って戦うことを選択した。
やはり、雄大先輩は強い人だった。
「その後は、弓弦君の考えている通りだ。春野君の抱えている問題は、私でも簡単には解決できない。私は持っている力を全て使い、春野君が爆発しないように、監視及び注意を払い、助けるためのピースをかき集め、弓弦君に全てを託した。弓弦君なら救えると賭けたんだ」
つまり、僕は最初から支えてもらっていたのだ。
若くして革命家と言われ、春野よりも恵まれ、その罪とも向き合え、自分が破滅するリスクすら背負える、考える中でも最強の助っ人に。
(雄大先輩には絶対に勝てないな)
才能を持ち、努力もでき、理想を目指す心構えもできる人物に勝てるわけがない。
僕はそう思うのだった。