第二十九話 学校の黒幕
静寂な空気が僕たちを包む。
「……ほぼ確信しているが説明ができない所があって断言できないといった感じか」
正確にこちらの考えを読んでくる雄大先輩に、僕は引き攣った笑みを浮かべる。
「全く何が賭けだ。賭けをしなければいけないのは私ではないか」
雄大先輩は悪態をつく。
「春野君の自殺は、私の目的を頓挫させるのに十分な威力を持つ。私は何としても止めないといけない。本当に何も知らない場合、私は春野君を匿っている弓弦君を信じるか自分の力を信じるか選ばないといけない。弓弦君にとっては、私がどちらを選んでも生徒会をこの件に巻き込める。選択と責任の丸投げ、よくやったものだ」
雄大先輩はやられたなといった表情をする。
雄大先輩の言う通り、僕は最後の選択を雄大先輩にさせることにした。
イジメの件と同じだ。雄大先輩は春野の自殺を知った以上、必ず防ぐ必要が出てくる。その時点で雄大先輩が考えるべきことは、春野に大きな関わりを持つ僕をどう扱うかだ。
雄大先輩がどのような選択をしてもかまわなかった。見捨てる選択を取るなら道連れだし、自分の力を信じる選択をしても春野愛佳と同等以上の力を持つ雄大先輩なら悪い方向に進むことはない。
そして、この件が仕組まれている場合は茶番劇の終了だと言うことだ。
「潮時だな。あーあ、今回こそ上手くいくと思ったんだがな」
先程までのピリピリとした空気は霧散して、雄大先輩は大分ラフな座り方をする。
「やっぱり僕を嵌めたんですね」
「ああ、弓弦君の考えている通りイジメの件も知っているし、自殺をしようとしていた春野君に弓弦君を接触させるように仕組んだのも私だよ」
雄大先輩は漫画の黒幕がバレる時のような感じで言う。
やはり、雄大先輩は春野の自殺の件まで知っていた。
「大体予想がつくが、一応答え合わせをしておきたい。どうやって見破った?」
これ以上、茶番劇をする必要はないので僕たちはどのように考えていたのか、答え合わせを始める。
「いじめの件を放置する理由がない事と、僕を生徒会に入れることはサブでメインは春野を助けることにあったのが一番の要因だったかなと」
いじめを放置してもいいことは一切なく、雄大先輩の実力なら悪化する前に防ぐのも、消すのも簡単であるため放置する理由がない。
それでも放置するということは、それなりの理由があると言うこと。
例えば、いじめ問題が自殺理由の本質ではない為、いじめを解決しても自殺は問題の先送りでしかないことに気が付いており、その上自殺問題を解決する手段があり、そのためにはいじめは一旦放置する必要があった。
そう考えればある程度納得がいく行動になるし、その手段も察することができる。
しかし、これに気が付けたのはいじめの放置という不自然な出来事があったからだ。
もし、僕を本気で生徒会に入れたいなら、いじめの件を早々に解決して、僕にバレないように裏から春野を追い込む方法も雄大先輩なら出来たはずだ。
それをしなかったと言うことは、僕を生徒会に入れると言うことは、あくまでついでだったからだ。
上手くいけばラッキーぐらいだったのだろう。
ただ、この仮説で考えていくと、いくつか分からないところがある。
「問題の先送りでも、私の目的を考えるなら全く問題がない上に、そちらの方がリスクが少なく、放置する選択肢を取る合理的理由がないことと、どうやって弓弦君を自殺寸前の春野君に出会うように仕向けたか。それが分からないから、自信が持てなかったであってる?」
「はい、あってますよ」
的確に僕の考えを見抜いている雄大先輩に春野と同じように、実力の差を感じさせられる。
「まあ、これから協力するのだから、全てを話そう」
雄大先輩は全てを話し始めた。