第二十六話 登校中の雑談
「眠そうだな」
登校中、たまたま出会った晴人が僕を見て言ってくる。
「うまく隠しているつもりだったが、そんなにバレバレだったか?」
あの後、僕は寝ることなく一日を過ごした。
春野に無駄な心配をかけさせないようにするため、コーヒーなどを飲み眠気を覚まして、いつもの感じに振る舞えるようにしていた。
(春野には何も言われなかったので上手くやれていると思ったが、油断していたのだろうか?)
「いや、少し元気が無さそうに感じただけで、他のやつにバレないよ」
「それはよかった」
春野のために絶賛バレたらヤバいことを色々やっている最中なので、少しでも怪しまれるようなことは避けたい。
「弓弦の方は上手くやっているか?」
晴人は周囲に人がいないことを確認した後、春野の件について聞いて来る。
もしもがないようにしっかりと警戒できる危機管理の高さも晴人の良いところであり、今回の件で頼っていいと思えるところだ。
「状況はあまり良くないな。春野の精神は不安定だ、いつ爆発するか分からん。だから、あまり時間の猶予はないと考えて欲しい。イジメの件については今日、先輩に会って2人で対処する。相手の出方次第だが、最速で1週間で解決する。明日は休んで春野の様子を見るつもりだから、よろしく」
「いつものやつな、少し待て情報を整理するわ」
晴人は勘が鋭く情報の整理も得意な人物だ。
こんな感じで一気に情報を投下すると、その鋭さと情報整理能力がフルに発揮され、分かりやすく説明するよりも素早くそして深く理解してくれる。
そのため、真剣に対処しなくてはならない時はこんな感じで情報のやり取りをする。
「色々と聞きたいことはあるが、まずは業務的なことを聞くわ」
大体十秒ぐらいで把握して、僕に質問してくる。
「一つ目だが、この問題はいじめを無くしたでは解決しないんだな」
「ああ、問題の本質は別にある」
(いつもだが、鋭いな)
いじめによる行為については大きな問題ではない。春野が苦しんでいるのは守れなかったことについてだ。いじめを無くしたところで、春野の心が癒える訳ではない。
晴人は、僕が赤菜に賭けたことやいじめの件についてはこちらが全て処理をすることから、赤菜の行動が全てを決めるものになると理解したのだろう。
より具体的な質問をしてこなかったのは、僕が自殺の件まで知られないように情報を教えなかったことを見抜き、知りすぎないようにしたためだと思われる。
「二つ目に先輩とは生徒会長のことでいいんだな」
「ああ、学校の件で色々やるなら頼った方が楽だからな」
いじめの件を無くしても春野の問題が解決できるわけではないが、放置していい問題ではない。春野の問題を悪化させる可能性もあるし、春野が学校にいけない直接原因にもなっている。
色々と工夫して大事にならないようにしているが、そう長くは持たない。そのためいつか必ず学校に行かなければならない時が来る。その時に出来るだけ抵抗なく行けるように早々にいじめ問題は消しておく必要がある。
「生徒会長まで引っ張り出すと言うことは、脅して黙らせるだけで終わらせるつもりはないんだな」
「自分たちがしたことが、どれだけの罪なのか、どれだけ辛いのか記憶から忘れない思い出になるように体験してもらう予定だ」
時間があれば、二度としないと心の底から誓わせる方法もあり、そっちの方が現実的で確実な方法なのだが、残念ながら時間に余裕がないため、一撃で仕留めることにした。その為に生徒会長の力を借りる羽目になっている。
「自業自得とはいえ、徹底的に追い詰められることになるいじめっ子には同情するぜ」
僕がどういった惨状を作り出すのか想像し、苦笑いをしながら同情する晴人。
「まだ優しい方だよ。しっかりと罪を認めれば取り返しのつかないような事態にならないんだから」
「それもそうか」
僕だってやりたくてやっている訳ではない。ただ、人の辛さを短時間で理解するためには同じように体験することが一番効果的だからに過ぎない。
「いじめの件は分かった。三つ目の質問だ。弓弦が休んでまで面倒を見ると言うことは、春野さんは弓弦が保護している感じか」
「保護というと少し違うが、近い状況であることは確かだ」
こちらが勝手にしていることなので、保護しているというのは春野の事を考えると認める訳にはいかなかった。
まあ、大体どのような状況にあるのか晴人も察してくれたはずだ。僕がミスしたときに誰も対応できないような事態にならないためにも、信用できる人物にこのような形である程度の情報を伝えておく。
何事も保険を掛けるのが大切だ。
「ちなみにこのことは弓弦の親は知っているのか?」
「知っているなら、こんなことしてないし、情報ももっと伝える」
親が知っているのなら、僕がこんなハイリスクなことをやり続けるようなことはしない。
「と言うことは、弓弦と春野さんは二人で過ごしている!?」
晴人は有り得ないといった感じで驚愕する。
「晴人と先輩しか知るものはいないことにする予定だから、よろしくな」
知る人物を教えておくことでこの情報の重要性と、僕がミスった時は晴人と先輩の二人に任せると言うことをさりげなく伝える。
この二人になら、僕が春野と一緒に過ごしていることを知られても理解を示してくれ、上手く事を収めてくれると僕は信じている。
晴人は最初は驚いていたが、今までの情報から正確に僕の状況を把握できたのか、落ち着きを取り戻す。
「これが重い問題を抱えずに漫画みたいな展開だったら、俺は弓弦のことを殺していたよ」
「漫画みたいな展開ならどれ程気が楽だったことやら。後、ガチトーンで言うのやめろ怖いわ」
晴人からあふれ出す殺意に僕は多少距離を取る。晴人の親はジムを経営していて、晴人の父はそれはもう敵対心をへし折るほどの素晴らしい肉体と精神、そして頭脳を持っていらっしゃる。
そのような父を持っている晴人もしっかりと影響を受けており、非常に強い。
つまり、先程の発言もしようと思えば余裕で出来てしまうため、冗談だと笑いながせない。
武力において晴人の所は、割と冗談にならないレベルの強さを保持している。
「ごめんごめん、血が騒いじゃって」
「お前はいつの時代の人間だよ」
荒事が好きな性格もあり、いつかガチでやりそうな感じがあるのでこちらは気が気ではない。
それにしても、僕の予想通り、晴人はこの状況に理解を示してくれた。僕は本当にいい友人を持つことができた。
「シチュエーション的には、学校で有名な天才美少女といい関係になれるチャンスみたいな、うらやましいことだが、問題が大きすぎて、弓弦と生徒会長以外のやつだと地獄を見そうだな」
「現実はそんなに甘くないと言うことだよ」
「それもそうか」
僕の人生は、厳しいことばかりだったので、たまにはそんな甘い展開を期待したい気持ちはあるが、それはそれでダサいというか、自分の力で掴み取ったものではないのでいい気分になれない。
それに厳しい分だけ人として成長できて、自信を持てるため僕的には堕落しそうな甘い展開はなくても構わない。
(いつだって、自分の力で何とかしてきたしな)
「それで弓弦から見た春野さんはどうなの?」
「人として見るならいい人だとは思うよ。恋愛面は考えてもないし、考える余裕も今はない」
今抱えている問題にそのような感情を持っていては必ず失敗する。常に真剣な気持ちでいないといけないのだ。
「まあ、この件が解決しても恋愛面でどうこう考えることはないよ。知っているだろ、僕は迷惑を掛けないように生きるので必死なんだ」
「今回もダメそうだな。弓弦はいい奴なんだけど運がないから、今回みたいに才能がない癖にスーパーハードモードみたいな問題に直面するみたいなこと多すぎて、弓弦の隣を歩むのは地獄だし、目の前の問題に全集中しないといけないから、疎かにされるって判ってる。だから誰も近寄らない。結局いつも一人だよな」
中々に辛辣なことを言ってくれる晴人だが、全てが事実なので僕は何も言い返せない。
今回の件もそうだが、僕はいつだって必死にならなければいけない。それに多くの人は付いてこれないし、僕も自分の事で精一杯でカバーする余裕もない。
隣に誰かがいてくれることは正直言って諦めている。まあ、諦めとか言ったがそんなに苦ではないので問題はない。
「春野も、僕みたいなヤバイ奴の隣に居たいとは思うはずもないし、この件が終わればいい感じに退場する予定だよ」
「万能の天才ならワンチャンだと思ったが、結果は変わらなそうだな。まあ、今は一緒に頑張ろうや。赤菜は弓弦の言った通り、諦めなかった。今はどうするか考えている最中だ」
「それは良かった。後悔のない選択をしてくれることを期待しているよ」
赤菜の方も、しっかりと前に向けているようで安心する。
そろそろ学校に近くなり、周囲に人が現れはじめたので、僕たちはこの会話をやめて登校するのであった。




