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第二十三話 買い物

(ああ、疲れたー)


 時間は午後5時半、僕は春野の家に向けて歩いていた。


 赤菜の件のあと、僕は一度家に帰りここ数日の行動の自由を得るために色々とやっていた。


 ここ数日の自由は簡単に得られることができたが、春野の件について隠すことはそこそこ苦労した。


 怪しまれないように偽の予定を伝えるのは中々にきつい。


 そのまえに、赤菜を泣かせていることからも精神的な疲労はかなりのものになっている。


(晴人のやつ、上手くやっていればいいんだかな)


 出来るだけのサポートはしたいが、僕は赤菜の乗り越えるべき壁としての役割を担うことに決めている。


 そのため、サポートしすぎるのはかえって赤菜の成長を妨げる結果になる可能性が高い。


 赤菜の選択を僕は待つことしかできない。何もしないでただ、待つのも中々に辛い。


 今後のことを考えていると、スーパーが目につく。


(冷蔵庫の中身、どれぐらい残ってたけ?)


 確か一日分くらいはあった筈だが、春野がどれぐらい使ったか分からないし、明日の分と明後日の分ぐらいは買っておいた方がいいだろう。


(時間もいいぐらいだ。そろそろ値引きも始まるし、丁度いいな)


 僕は一人暮らしをしてはいないが、長期休みになると母の買い物によく連行されるため、そこで主婦の買い方みたいなものをそこそこ身につけることが出来ている。


 また、家事の方もやらされることが多いので、いきなり一人暮らしをさせられてもやっていけるくらいの力は身につけている。


 教えてもらったことに感謝するのは当分先になると思っていたが、春野との共同生活ではかなり役に立っているので、親の教育方針に僕はかなり感謝している。


(まあ、身につけた家事スキルについても春野には負けているんだがな)


 万能の天才に隙はないのだ。足を引っ張らないように必死に頑張っている感じだ。


(それにしても下手に家事スキルがあるから、いい感じに今の共同生活に慣れ始めてるんだよな)


 春野の家に戻ると普通に暮らしている感覚になっている自分がいるので、2人だけならいいが、第三者が来たときはボロが出ないから心配だ。


 僕は、カゴを持って食品売り場に向かう。


 ちなみに僕は以前なにかの番組で、カートは使わず手で持ち運べば、直接重さを感じる事で買い過ぎを防ぎ節約できる。と言う小技を見た記憶があり、何故かよく実行している。


 醤油や料理酒、水など普通に重くなってしまう物を買わない限り、そこそこ有効である。

 

(さて、先にナマ物系をチェックしようかな)


 保存が効かないものは値引きされるのが早い。


 そう思い、魚や肉系がある所に向かう。すると、見覚えのある人物を見かける。


 地味な服がいい感じに影を薄くさせ、ちょっと目がいくかもな、ぐらいで上手く周囲に溶け込んでいる。


 あちらも僕の存在に気が付き、こちらによって来る。


「この時間帯にいるなんて、偶然かしら?それとも分かってやった?」


 春野は意外と言わんばかりの表情をして聞いて来る。


「半々ぐらいかな、時間に関してそこまで意識してなかったし」

「ふーん、まあいいわ。色々なくて、買おうとしていた所だし、人手が欲しかったから」


 春野はこちらを責め立てるような視線を向けて来る。


(これはあれですね。中途半端に用意したことに不満を持ってる感じかなー)


 カゴに入っているオリーブオイルにケチャップ、お酢といったちょっと凝ったものを料理する時に使われるものが入っている。


 春野の調理レベルなら、よく使う筈なので、そこそこ不便だった筈だ。


「しっかりと働きますよ」


 家事においては春野に敵わないので春野に従う。今の所、春野の尻に敷かれることが多い。


「それにしても、値引きの商品ばかり入っているが節約するタイプなんだな」


 先程もらったチラシに載っている半額サービスなどの対象商品か、値引きされたものばかりだ。


 普通に買うよりも半額ぐらいの値段で買えている。


「別に私のお金ではないのだから、節約するのは大切でしょ」「確かにな」


 人の金でバンバン使う方がヤバいのは誰でもわかる。


 その他にも理由があるのか、春野はぼさっと言った。


「それに、身近なものの大切さを忘れないようにするためにやっているわ」


 淡々と言われたその言葉は、並々ならぬ強い意志が宿っているように感じる。


(身近なものの大切さを忘れない為か)


 春野の言いたいことはなんとなく分かる。


 恵まれていると、僕たちは当たり前にあるものを軽視し始める。


 しかし、歴史を学べば、今の当たり前が如何にすごいことなのか知れる。


 例えば、今では当たり前のようにあるコショウが無くなれば、多くの料理で困るだろう。


 今でこそ簡単に買えるが、昔、コショウの重さは金の重さと同じ価値と言われるまでに貴重なものだった。


 こんな感じで、今の当たり前は多くの人たちの努力によって成り立っている。


 それを意識できるかどうかで多くの点で差が生まれるだろう。


 当たり前の大切さを忘れないようにするために、お金をあまり無駄に使わない、など意識的に縛ることは自分も度々しているので、春野が言っていることには共感できる。


 ただ、僕の考えと春野の考えは、どこか違う気がするのだ。なんと言うか、春野の方がこのことをとても重く見ている気がする。


(今は記憶に留めておくだけでいいか)


 時間があるならもう少し考えたが、今は買い物中であり、値引きを狙うのは僕たち以外にもいるのだ。


「椿君なら分かると思うけど、一応今日買うものリストね」


 僕は、春野らしいしっかりとした感じで書かれているメモを受け取る。


 ブリ1匹に大根とキャベツ一玉など、荷物持ちをする人に対して中々重労働になりそうなものが並んでいる。


 ブリは旬ということもあり、手頃のサイズが1000円で売っている。


 因みに未加工のもので、春野が一から捌くつもりのようだ。捌けるなら、多くの料理を作れるので、そっちの方が安く済むが、出来たとしても中々にやらない。


 僕も何度かやった事はあるが意外と面倒で手間がかかる為、あまりしたいと思わない。


 それをやろうとしているのだから、家事で春野に勝てることはまだまだ先に感じる。


「さっさと買うわよ」

「分かった」


 春野の目利きを信じて、僕は春野が選んだものを次々と買う。


 その様子は他から見れば熟練夫婦のような動きであり、周りからは温かな目で見られていた気がする。


 そんなこんなでありながらも、僕たちは無事に本来の半分ぐらいの金額で買うことが出来た。


 因みに、エコバッグにいい感じに詰めるワザに多少の自信はあったが、春野の前ではそれも敵わなかった。


 唯一勝っていると思われる荷物持ちをして、僕たちは家に帰るのであった。



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