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第二話 二度目の自殺未遂

「分かった。このことは誰にも言わない」


 僕は両手をあげて、降参の意思を伝えるように言った。


「椿君、私は無駄な抵抗が嫌いなの」


 春野はそう言って、こちらの全てを見透かすような深淵を感じさせる瞳でこちらを見る。


「 椿君、気付いてるんでしょ。不意な事ででも私が自殺しようとした事がバレた場合、椿君がたとえこの件に関与してなくとも、私が関与していると言えば、椿君は黒になる。」


 僕は考えていたことが正しかった事に、深いため息をしそうになるが、何とかそれを飲み込む。


 偶然を装った事故とは、誰が判断するのか、それは春野だ。


 僕が仕組んでいなくとも自殺しようとしたことが誰かにバレることになれば、たとえ事実ではなくとも、春野は僕がバラしたと判断し、断定する事ができる。


 その事実が示すことは、春野が自らバラす以外で他に知られたら僕は終わりということ。


 春野はそのことを僕が気付いていながら、一切触れないで言い切ろうとしたことを責めているのだ。


 春野は強い口調で言った。


「椿君が言うべきことは、 誰にも言わないではなく、誰にもバレないように頑張りますでしょ?」


 春野の嗜虐的な笑みに僕は苦笑いするしかない。


 春野の見事な策略によって、完全に立場は逆転している。


 それにしても自殺を止められ、僕を殺しかけてからのメンタルの復活が早すぎる。


 彼女の神経の図太さに呆れる事しかできない。


「これで話は終わり、後は頑張ってね」

「いやいやいや、流石にそれはないって!」


 話を切り上げて、ここから立ち去ろうとする春野を僕は慌てて引き止める。


 大人に任さればいいと考えていた時は、どうして自殺をしようとしたとかは知る必要はなかったが、このように隠蔽する立場になったのなら、ある程度の事は知っておく必要がある。


 引き止められた彼女は非常に機嫌が悪い表情をしているが、こうなった以上、こちらも引くわけにはいかない。


「いくつか質問をさせてくれ」

「手短にね」

「一つ目にどうして連絡したくないか教えてくれないか?」


 自殺の事を言わないにしても、明確な理由があるならば、幾分か心の余裕ができてマシだし、もしも春野の親が勘付いてこちらに聞いてきたときの対応も明確に変わってくる。


 春野は一瞬考えた後、冷たい声で言い放った。


「あなたが知る必要はないわ。ただ、言えることは親にこのことを知られるぐらいなら、私は死を選ぶわ。」

「そうか、分かった」


 少なくとも、春野と親の関係が良くないものであることは分かった。


 自殺をするとなると立場が悪いのは確実だ。


 それを悪化させるようなことは避けた方がいい。よって、全体像が見えてくるまでは、春野の親が接触してきても、無闇に情報を言うべきではないと考えをまとめる。


 万能の天才言われる才能を持つと色々大変なのだろう。


「次に、どうして僕の名前を知っているんだ?関わるのは初めてのはずだが」


 春野と関わるのは今回が初めて、それなのに春野は僕の名前を知っていた。


 以前何かしらで接点があるなら知っておくべきだ。現在、不安定な春野と接触する上での不確定要素は無くしていきたい。


 そう考えていると、春野はすぐさま答えた。


「椿君に限らず、学校の全校生徒や今まで関わった人物は全員覚えているわ」

「マジか……」


 衝撃的な発言に、僕は驚くことしかできない。


 万能の天才と言われているが、先ほどの言葉が事実なら、その才はサヴァン症候群に匹敵するレベルだ。


 彼女との差を感じながらも、初対面であることは確認できたので良しとしよう。

 

 取り敢えず知りたいことは知れたし、これ以上質問は逆効果になるだろう。


 よって僕は質問を切り上げる事にする。


「僕の質問はこれぐらいでいい」

「手短で素晴らしいわね。それじゃ、あと頑張ってね」


 春野は、思いのほか早めに終わった質問に驚きながらも、すぐに平常運転に変わり、外が大雨にも関わらず何事もないように出ようとする。


 僕は、雨にならないように彼女を傘の中に入れる。


「何をしているのかしら?」

「雨に濡れるといけないし、途中で自殺しても困るから、しっかり家に帰るのか監視する。大丈夫、傘はそれなりに大きいから特に問題はないよ!」


 もちろん、春野が何が言いたいのかは分かっているが、僕は満面な笑みで知らないふりをする。


「随分と愉快なことをするのね、椿君」

「そうでしょう。人生楽しく過ごさないと」


 春野の皮肉も、ガン無視する。


 先程まで間は手玉に取られていたが、あれは春野という人質を取られていたからであって、こういった言葉遊びならそう簡単に手玉にできると思わないでほしい。


 そんな感じで、度々皮肉を言われながらも、無事に彼女の家まで送り届ける事ができ、僕は家に帰った。


 因みに、親からどうしてそんなに濡れているのと聞かれ、正直に自殺を防いだからですと言えないので、転んだといったら、余計な仕事を増やしてとそこそこ怒られた。


今日は色々ありすぎた、明日は何もないといいなと思いながら、僕は寝るのであった。





「おいおい、朝からひどい顔をしているぞ」


 合唱コンクールの次の日、残酷なことに学校があった。


 僕は、昨日の疲れが抜けきれないまま学校に行く羽目になったため、疲れが顔に出てしまったのだろう。


 僕の数少ない悪友である細マッチョタイプのイケメンである大山晴人(おおやまはると)にも心配される始末だ。


「昨日は色々あって大変だったからな」

「相変わらずの運の悪さだな」


(運の悪さか、あんまり考えたくないな)


 先輩に強制的に手伝わされ、そのせいで春野の自殺に出くわし、それを止めたことによって二人だけの秘密が出来た。その秘密が甘いものならよかったが、それはバレたら色々とヤバイ爆弾だ。


 運が悪いであの件を済ませると、今後何もできないような気がして嫌なのだ。


 まあ、今の状況さえもどうすればいいのか分からない状況できついんだがな。


 そんなことを考えていると、廊下で喋っている話が聞こえてくる。


「ねえねえ、春野さん熱を出してお休みらしいよ」

「昨日色々あったし、それで休んでるんじゃない?」

「そうでもないらしいよ。とても苦しそうな声で連絡してきたらしいって」

「それ大丈夫なの?」

「親には連絡してあるから、大丈夫って言ってたらしいよ」


 春野愛佳は、万能の天才といわれ、容姿も非常にいいため、こういった情報に関しては他クラスであっても耳にすることがたまにある。


 一体どうやったらそんな情報が漏れ出るのかと前までは思っていたが、今は違った。


(熱、親に連絡してある?親との関係は悪かったはずなのに?)


 僕は強烈な違和感に襲われる。


 熱の件は理解できる。昨日の事は心身共に大きな疲労があったはずだ。それによって熱を出すなんてことは別におかしな事ではない。


 問題はその後だ。


 彼女は本当に親に連絡をしているのかという問題だ。


 昨日の様子から、春野と親の関係は悪いものであったはずだ。


 春野が、親に頼りたくないという気持ちがあってもおかしくない。


 それにこのことを知らせれば、なぜ熱を出す事になったのか等の疑惑から、自殺の件のことを勘付かれる可能性も出て来る。


 知られたら自殺するといった彼女の言葉は、嘘には見えなかった。ならば、バレる可能性がある行為は避ける可能性が高い。


 そうすると考えられることは、熱のことを親に知らされないように連絡し、春野は一人、誰にも助けてもらわずに過ごしているのではないかと。


 普通なら有り得ないと一蹴するところだが、昨日の出来事を体験した身としては、その可能性がないとは言い切れない。


 (ヤバイな)


 もし、先程考えていたことが合っていた場合、非常に不味い展開になる可能性がある。


 昨日、自殺しそうになっていた子が、一人苦しい目にあっていたらどうなるのだろうか。


 最悪の結果が思い浮かぶ。


 (行くべきだな)


 僕は椅子から立ち上がり、急いで荷物を纏める。


「おい、どうした。急に荷物何てまとめて」

「急用ができた。先生が来るまでに戻らなかったら、僕は体調が悪くなって帰った。休みの連絡は後で入れると先生に伝えて欲しい。」

「弓弦はたまに意味が分からないことをするよな」

「とにかく頼んだぞ」


 僕との関係が長い晴人は、急な出来事にも素早く対応してくれた。


 僕は先程の熱の情報が嘘ではないか、春野のクラスにいるか確認しに行き、いないことを確認、念のために下駄箱も確認して学校にいないことを確認する。


 熱で休むと言うことも、その道中で同じ話を複数から聞いたことから、嘘である可能性が低いことも確認する。


 僕は急いで、学校から出て最低限の看病に必要なものを購入して、春野が住んでいるマンションに向かう。


 僕の勘違いであって欲しいと思いながら、一時間後、僕は春野が住んでいるドア前までたどり着く。


「椿だ、大丈夫か?」


 チャイムを鳴らし、声を掛けるが反応が返ってこない。


 数度同じことをするが、結果は同じだった。


 嫌な予感が高まる。

 

 早く中の様子を確認しなければ、そう思いドアを取っ手を捻ると鍵かかかっておらず、そのまま開く。


「寒い」


 鍵が開いていることも驚きだが、中に入ると、そこは10月にしては非常に寒かった。


 大体10度ぐらいだろうか。


 僕は、寒さを耐えながら家の中に入る。そして見つけてしまった。


「馬鹿が!」


 家の中で入って見つけたのは、電話の隣で気を失っている春野愛佳の姿だった。


 僕は急いで春野に近寄る。


(制服が濡れている。こいつ、びしょ濡れの状態で過ごしたのか)


 ふざけたことをしやがってと思うが、今は春野の身の安全の確保が最優先だ。


 その為には、この部屋が異常に寒い原因を探し、止めなければいけない。


 そうして、春野に自分の制服を布団代わりに掛けた後、僕はより寒い所に向かった。


 寒さの原因はすぐに見つけることができた。


 設定温度5度になっているクーラーのリモコンを見つける。


 僕は急いでクーラーを止めると共に、春野が何をしようとしていたのか察して、顔が歪む。


 春野は低体温症による二度目の自殺を図ったのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 1話では合唱コンクール、この2話では文化祭になっているのは何か意図しての事でしょうか?
[良い点] >「椿君が言うべきことは、 誰にも言わないではなく、誰にもバレないように頑張りますでしょ?」  ↑この超強気なロジックにシビれました!!
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