第十九話 問い
「まずはこうなった経緯を教えてくれないか?」
赤菜さんを席に座らせ、僕は現状の整理をする。
赤菜さんがここにいること自体は、大きな問題ではない。ただ、どういった経緯で連れて来たかが問題だ。
もし、晴人が赤菜さんを煽るような形でここに連れて来たのなら色々と考えないといけない。
「そう睨むな。弓弦が考えるようなことはしていない。彼女がここにいるのは自分の意志だ」
「そうです!大山君は何もしていません。私が、無理矢理頼み込んだのです」
二人の反応を見る限り嘘ではないようだ。
「赤菜さん、一つ聞いていいかい?」
「はい!何でも聞いてください!」
赤菜さんは、元気な子犬のように勢いよく喋る。
(小動物を連想させる見た目と、無邪気で明るい性格。これは想像以上に春野愛佳の印象を変わるかもな)
憎めないタイプの赤菜さんとクール系の春野の相乗効果は非常に高かったことだろう。
本来ならいいことなのだが、今回はそれが裏目に出た感じだ。
「どうして、晴人に頼み込もうと思ったんだい?」
晴人だって、こういったことが初めてと言う訳ではない。誰かを探る時は対象に気付かれないようにしないといけないことぐらい分かっているし、晴人にはそれができるぐらいの技量はある。
「私、愛佳ちゃんが今どうしているのか知りたくて、だけど、クラスの人は誰も愛佳ちゃんのことに触れなくて、それでも知りたいと思って、歩き回って愛佳ちゃんについて話している人がいるって聞いて、探し回ったら大山君に出会って頼み込んだら、少しなら話せることがあると言われて、それでそのまま流れでここにといった感じです」
「あー、な、なるほど……」
つまり、春野がどうしているか知りたくて、春野の話をしている人を見つけたから、他クラスで交流もない晴人に思い切って話しかけに行ったと。
(そんな馬鹿な、いくら何でも行動力と胆力がありすぎる)
事実確認をするために、晴人の方をみるとマジマジといった感じで若干顔を引き釣らせた笑みを浮かべていた。
(マジかーーー、すげえな)
その圧倒的に行動力と胆力に僕は感心する。
それと同時に、ここまでの経緯がなんとなくわかった。
おそらく、晴人は火薬庫周辺で火を持って歩き回る赤菜さんを放置するのは危険と判断した為に、わざと深くかかわり、情報を渡すかわりに警告してこの件から遠ざけようとしたが、赤菜さんの熱意にごり押しされて、ここまで連れて来たと言う事だろう。
それ以外にも、放置するのが危険とか、いじめの件についても内々に収めるならクラスメイトの協力もあった方がいいとかもあっただろう。
どのみち、赤菜さんがここに来たのは自分の意志で、本気で春野を助けたいと思っていることは分かった。
「経緯はわかった。それで協力の件なんだが、言っておかないといけないことがある」
僕は、真剣な表情をして、すこし圧力をかけるようにいう。
その様子はさながら圧迫面接のようだった。
「現在の春野は、非常に複雑な問題を抱えている。解決するのは困難を極めるだろう。生半可な覚悟では、決していけない。この先、辛いことや苦しいことが多くある。赤菜さんは、それに耐えられる覚悟は持っているかい?」
テストの点数をあげましょう、なんて軽い問題とは、全く違うのだ。
今から僕たちがするのは、いじめをなくし、自殺を止めるという非現実的なことだ。
当然ながら、並大抵のやり方ではいけない。それこそ、本気で理想を現実にすると思わなければ到底不可能なことだ。
「あります!私はどんなことがあっても諦めません!」
赤菜さんは力強く答える。
(まあ、先程の話聞く限り、こうなるのは当然か)
赤菜さんの気持ちが強いことはよく分かった。だが、言葉だけで信じるほど甘くないのが現実というやつだ。
理想を見ることは大切だが、それだけ見てもいけない。しっかりと現実も見据え、その残酷なまでの差を受け入れ、戦う必要があるのだ。
それが理想を叶えるための心構えだ。
故に、僕は問わなければいけない。
赤菜友梨の覚悟が本物であるかどうかを。
「そうか、分かった。なら、一つ聞きたいことがある」
僕は、赤菜さんの目を見据える。
「これはあくまで推測なんだが、春野愛佳に止めを刺したのは、赤菜友梨、君じゃないのか?」