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第十六話 協力プレー

 春野の手料理を食べて、一通りの家事をやり終えると、テレビゲームがあるソファーへと戻る。


(春野の手料理は何度食べても美味いな。今度、どうやっているか聞いてみようかな?)


 先程の連敗からの疲弊も美味しい手料理によってかなり回復することができた。


「まだやるの?懲りないわね」

「まあね。まあ、次は趣向を変えようと思う」

「ふーん」


 僕は一つのゲームを選んだ。


「ゾンビエスケープ、PvEのゲームをしよう」


 人では最上位の者でないと、春野を苦戦させることすらできない。ならば、人間には到底出せない反応速度や精度、他にもギミックなど機械の力を頼ればいい。


「ゲーム内容は簡単だ。沢山くるゾンビをなんとかしつつ、ゴール時点までたどり着けばいい」

「分かったわ」


 春野は僕の大雑把な説明で十分といった感じで返事をしてコントローラを持つ。


 本当はキャラレベルが上がるごとに武器のレベルが上がり強くなることや、防衛戦があること、敵のキャラも複数あること、セントリーガンなどのユニットを使うことなど、色々説明することはあるのだが、今までのプレーから、春野はやりながらその理解を一瞬でするので問題はない。


 先程の4時間でよく理解したが、春野の才能は異常である。少なくとも常識の範囲内で考えていては、何もできない。


 なので、今回は様々なハンデを用意した。


 まず、4人プレーの所を2人ですること、次に難易度は最高難易度であり、推奨レベルを大幅に下回る低レベルですること。


 ここまでのハンデを用意すれば、流石の春野といえど苦戦は免れないだろう。


「さあ!ゲームを始めよう」


 ボコボコにされるのは終わり、ようやくゲームらしいことができると考えると、なんだか楽しくなってくる。


 ゲーム一つで色々苦戦しすぎだが万能の天才と言われるのだ、常識に囚われていた僕が悪いだろう。


 そうして、ゲームが始まり最初の肩慣らしと言わんばかりに、十数体のゾンビが襲いかかる。


 春野との対戦では姿が見えた瞬間死んでいたので、敵が見えても死なないことに感動を覚える。


 そして、こちらに向かってくる数体のゾンビを撃ち倒す。


(やっぱりこれがゲームなんだよな!)


 雑魚敵を倒すことにこんなに喜びを感じるとは、こんな些細なことでゲームを楽しく感じるなんて、ボコされ続けた甲斐があったのかもしれない。


 そうして、次の敵を倒そうとするが敵はいなかった。


 いたのは、初めて触る武器で、機械並みのエイム、反射、プロゲーマー以上のキレのある動きで一瞬にしてゾンビを全滅させた春野だった。


(あんなのに勝てるわけないんだよなー)


 開始2分も過ぎないうちに歴戦の猛者の風格を感じさせる春野のプレイに才能の異常さを体感する。


「大体分かったわ。私の後についてきて」

「あ、はい。今行きます」


 今の少しで何が分かったのか、僕には全くわからないが4時間ボコボコにされた経験から、僕は春野に絶対的な信頼を寄せている。


 その自信がある動きは、敵だった時は僕に深い絶望を与えたが、味方になるとなんとも頼もしい。


 春野は初見のはずなのに、一切の迷いなく進んでいく。春野が進んでいるルートが最適解であることをやったことがある僕は知っているため、より驚愕する。


「私は左と中央、椿君は右ね」

「分かった」


 気がつけば、立場関係は逆転していて、春野の指示に従ってやっていた。


 春野は武器の弱さなどの不利を技量で全て埋め合わせ、突き進んでいく。


 そして


         VICTORY!!!!


(マジか……)


 最高難易度を二人で低レベル攻略とかいう無理ゲーを初見でクリアしたことに驚くことしかできない。


(動画で出したら相当儲かりそうだな)


 偉業の達成に昨日の乱獲の時のような、遠い世界を見ているような気分になる。


「まあまあだったわね」

「そ、そうですか」


 春野的にはそんなに難しくないようだった。


「これで終わり?」

「次のステージあるから、それやろう」


 まだ、最初のステージの事もあるので次のステージなら何とかなるかもしれない。


 そう思い、僕たちは次のステージをする。


 しかし、どのステージも同じ結果に終わる。


 春野は常に最善手を選び、いくつもの初見殺しを回避してクリアする。


 そんなことを繰り返して4時間、ついに最終ステージのラスボスまでたどり着いた。春野は、敢えて武器を強化していない。そんな縛りを設けながらもラスボスまで行くのだから、すごいの一言しかない。


 ちなみに僕もここまでやったことが無いため、春野と同じく初見プレーとなっていた。


 ラスボスの体力も順調に削ることに成功して、体力を0にするが、ラスボス同じの強くなってニューゲームをされ、第2ラウンドに突入するがそれも春野は予想していたのか、動揺することなく冷静に対処する。


 そのまま何事なかったように、先程同じように削り敵の体力を削り切る。


 そして敵が完全に倒れる。


「ふー、終わったか」


 最高難易度の最終ステージのこともあり、なかなかの難しさだったが無事クリアすることができてしまった。


 そう、僕が油断した瞬間だった、裏ボスらしき存在が突如出現して、全体に強力な範囲攻撃をしてくる。


「マジ!?」


 予想もしてなかった攻撃に僕は回避が間に合わず、ダウンしてしまう。


 春野に関しては軽々しく回避していた。動揺してない所を見ると想定の範囲内だったらしい。


「全く、それぐらい想定しておきなさいよ」

「すまん」


 春野は今まで一度も使わなかった、緊急復活アイテムを使い、僕を復活させて、そのまま戦闘を継続し裏ボス戦を始める。


 しかし、この裏ボスは滅茶苦茶強い、復活した僕だが裏ボスの猛攻の前にすぐにやられてしまう。


「後は一人やるわ」

「すいません」


 僕は退場になってしまったため、春野は一人で裏ボスに挑む。


 春野はフレーム単位の回避を完璧にこなしつつ、体力を削り切ることに成功する。


 しかし、これは最高難易度の裏ボス、体力が0になった瞬間、強力な範囲攻撃を4回連続それも高速に行ってくる。春野は驚異的な反射神経と技術を持って、そのすべて回避することに成功する。


 だが、その回避を読んでいたと言わんばかりに、回避後の硬直を狙った一撃を放ち、春野はこのゲームで初めてのダメージを喰らい、やられる。


     ゲームオーバー!!!!


 運営の絶対に倒すと言わんばかりの最後の猛攻に万能の天才、春野愛佳はついに初敗北を味わうことになった。


「あと……少しだったね」


 何と言うか、滅茶苦茶気まずかった。


 春野は呆然とコントローラーを持ったまま、動かない。


(やりすぎたかな)


 春野のその様子に僕は馬鹿なことをしたと思った。


 いくら作業ゲーになってしまうことを恐れていたからといって、このような負け方は望んでいた訳ではない。やるなら勝つ。それは誰しも思うこと。


「もう一度、もう一度やるわ」


 しばらく黙っていた春野は、次こそクリアするといった強い熱意を秘めて言った。


「分かった」


 今までないほど、やる気を出しているため、開始から5時間を過ぎようとしていたが、僕たちは続行することを決意する。


「椿君は、最後まで生き残ってほしい。恐らく、最後の攻撃はダメージ割合で対象への攻撃回数を決めている。大体25%計算だと思うわ。さっきは私だけだったから、全ての攻撃が私に飛んで来たけど、あなたが生きていれば一回は攻撃がそちらに向く。そうなれば、私は余った回避一回であの攻撃を避けられる」


 最後の4連続攻撃と止めの一撃は、このゲームの技術をスキルを活用した最大4回連続回避を想定して作られたものとのこと。


 そのため、一人では攻略不可能。本来ならNPCなどが生きて、攻撃分散が行われるのだが、今回は僕の足の引っ張りもあり、攻撃が集中してしまい、攻略不可能になっていた。


 なので、僕が頑張って生き残り、最後の一撃を受け止める。


 つまり、僕が滅茶苦茶頑張らないといけない。


 そうして、何度も何度も挑戦するが、最高難易度の最終ステージと言うこともあり、なかなか生き残ることが叶わない。


 その度に春野はどうにか最後の攻撃を回避しようと頑張るが、理論上不可能なため、どれだけ頑張っても回避出来ないでいる。


「すまない、僕が生き残れないばかりに」


 春野は僕が生き残るために、優しく様々なアドバイスをしながら、さらにこちらが生き残りやすいようにサポートもしてくれる。


「別に謝る必要はないわ。あれを回避できない私が悪いもの」


 春野は、足手纏いになっている僕のことを一度も責めることはなかった。自分が出来ない方が悪いと考え、決して出来ないことを他人のせいにしなかった。


 しっかりと失敗に向き合い、進めることができる人は多くはいないだろう。春野は才能もあるが、それを扱う心構えも立派だった。


(次は絶対に生き残る)


 ここまで苦戦していても、なおも立ち上がり乗り越えようとする春野がいるのに、僕が諦められるわけがなかった。


 そうして、僕たちはもう一度プレイを始める。


 昼から始めてもう8時間過ぎている。集中力的にも限界を迎えつつある。


 僕の技量ではここからどう頑張ろうと生き残ることは出来ない。


 では、どうするべきか。それは、春野のサポートをもらい、一人で生き残るのではなく、春野のサポートをして、春野の力を活かし、守ってもらう形で生き残ることだ。


 僕がどう頑張ろうが、サポートをして貰おうが、強さなどほとんど変わらない。しかし、万能の天才ならば話が違う。もし、自分の手が一本でも増えるような事があるだけで、劇的に盤面は変わってくる。


 ここ8時間で春野のプレイスタイルは、ほぼ完ぺきに理解し、春野がどのように動くのか予測ができる。


 そうして、僕は春野をサポートする方針に変える。春野もそのことをすぐに理解して、それに合った行動を取り始める。


 僕が1つするうちに春野は3つのことをする。今まではそれを足し算する形でやっていた。


 しかし、今回は春野の3を6にするために僕の1を使う。


 春野が動きやすくなるように、春野の周りの雑事を僕が片付ける。そのことにより、春野はその才を遺憾なく発揮する。


 完全にサポートに徹したプレイは功を奏し、初めて裏ボスのあと一歩のところまで生き残ることに成功する。


「行くよ」

「ああ」


 春野の掛け声とともに、裏ボスの体力を0にする。


 そうして、僕に一回、春野に3回の攻撃が来るはずだった。


 しかし、裏ボスが取った行動は春野に4回の攻撃をする。


(サポートを注力しすぎて、ダメージ稼げなかったか!)


 生き残ることは成功するが、あまりにもダメージを稼ぐことができなかったため、当初の目的は達成することができなかった。


 作戦が失敗してなお、春野は一切諦める様子を見せない。ならば、僕も諦めるわけがない。


 春野に超高速5連攻撃が迫る。


 春野は3回目まで完璧に避けるが4回目の攻撃を受ける。そして、ダウン状態になろうとしている春野に止めの一撃が迫り、最後の一撃は()()する。


 回避の硬直を狙ったその攻撃は非常に短い間隔で放たれる。春野は、その短い間隔を利用してダウンしたその瞬間の絶対の無敵時間で回避することに成功する。


「椿君!!!」

「もうやっているよ」


 僕は、回避することを信じて、復活ポーションと回復ポーションを春野の方に投げていた。


 最速で復活した春野は止めの一撃を裏ボスへと放った。


                   VICTORY!!!!


「よし!」

「やったわ」


 僕と春野はハイタッチをする。


 始めてから4時間、本当に心が折れそうなことも多かったが春野が心が折れなかったことと、途中からしっかりと協力することでなんとかクリアすることができた。


「楽しめた?」

「ええ、久しぶりに集中して物事を取り組めたわ」


 どうやら、春野も満足そうな表情をしている。


「それは良かった。そういえば、どうして4回目の攻撃を受けて、最後の攻撃を避ける判断にしたの」


 最後の攻防、ダウンした瞬間の無敵時間を活用するのではなく、普通に4回目を交わして、最後の攻撃を受けた方が成功確率は大きかったはずだ。


「最後の攻撃は恐らくダウン状態貫通の一撃必殺の攻撃よ。受けるわけにはいかなかった」


 後々調べて分かるが、あの攻撃は春野の言う通り、一撃で死亡する攻撃で、もしこの攻撃が決まれば一撃で死亡するだけではなく、ボスの体力が全快するという厄介な効果がついていた。


 春野はこれまでの攻防でその事実を見抜いていたのだ。


 流石といった所だ。


「それよりも、椿君。私疲れた」


 もう8時間ゲームをしていたのだ。春野の言葉は当たり前の事だった。


「そうだね。春野はベットで寝ていいよ。後のことは僕がやるよ」


 ゲームを誘ったのは僕だし、春野よりそんな負荷はないため、残りの家事を引き受けることにする。


「ベットまで行くの、面倒だわ。ここで寝る」


 そういって、春野は僕の肩に頭をのせて寝る体制に入る。


「は、は、春野さん!?」


 この行動には、流石に取り繕うこともやめて動揺するしかない。


「うるさいわね。どうせ襲わないでしょ。それに私を死なせないのでしょう」

「それはそうだけど」


 春野のこちらを見通した言葉に僕はないも言えなくなる。


 僕が何かするといったことは絶対にしない。信頼を裏切るようなことをできるはずがないのだ。


「そういうことだから、私は寝るわ」


 これ以上つまらない会話を興じるつもりもないらしく、有無を言わさず寝始める春野。


(少しはこちらの気持ちを考えてくれよ)


 サラサラと美しい黒髪が、桜のように甘い匂いが、柔らかく暖かい体の暖かみが確実に僕の理性を削にりかかる。


(これは、僕を嵌めるための演技か、それとも本心から信頼してくれているからこそか、僕にはもうわからないよ)


 攻めすぎたのが悪かった。


 僕の希望と現実が複雑に入り交ざる。


 これを100パーセント演技だと思うのであれば、ここ数日は全て無駄になると考えないといけない。


 今の僕にできるのは、ただこの状況を耐える事だけだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  協力プレイ。随分と仲良くなりましたね~♪ふたり [一言]  強力プレイ。随分と大暴れしましたね~♪春野さん
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