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第十二話 勝負の結果

 あれから一時間、春野は無双していた。


 春野はその才能を余すことなく発揮していき、あらゆるギミックを圧倒的技量と頭脳によって一撃で葬っていった。


 そして、僕は荷物持ちになり、取れた商品を受け持っていた。


 美しい女性が動画みたいなことをしていることもあり、気が付けば人だかりができていた。


 春野はそんなことを一切に気にせずにまた一つ、商品をゲットする。


「これぐらいでいいかしら」

「ああ、うん。十分だとおもうよ」


 春野の取った商品は全て適当に売っても、そこそこの値段で売れるものばかりだった。


(才能があれば、これだけでも十分食べていけるんだなー)

 

 目の前で引き起こされた、圧倒的な理不尽な出来事に思考を放棄して、見ていた。


「なら、早速売りましょう。こんなに荷物があっては困るだけだわ」

「えーと、何処に売るの?」

「確か、少し歩いたところにリサイクルショップがあったわ。そこで売りましょう」


 いつの間に調べたのだろうか、とにかく、春野は見事な手腕で商品を取り、流れるようにそれを売りさばいた。


 結果、僕はここ数日で消費した出費の半分を取り戻すことに成功する。


「ありがとう、助かったよ」


 頑張って働くことが馬鹿じゃないかと思えるような出来事だ。


「別に、私の為にしたことだから、気にしなくていいわ」


 春野にとってはそこまで驚くような出来事ではなかったらしく、何ともない、いつもの冷静で冷たい表情に戻っていた。


「もう、こんな時間か」


 現在の時間は午後4時、もうそろそろ帰らないと行けない時間だ。


 最後に一つ、春野に見せたい光景があった。


「最後に一つ、行きたいところがあるんだ。いっていいか?」

「別に構わないわよ」


 そうして、僕は今回の最大の目的である場所に春野を誘う。


「きれい・・・・・・」


 僕たちの眼中に広がるのは、黄金色に光る美しい夕日がゆっくりと海辺へと沈んでいく幻想的な光景だった。


「きれいだよね、これを知らないで死んでいくなんて勿体無いと思わない?」

「・・・・・・」


 春野は何も答えない。


 それでも僕は言葉を続ける。


「僕は自殺が必ずしも悪いことだとは思っていない。それも立派な選択だ。だけど、僕は思ってしまうんだ。一歩踏み出せば、楽しいことや、

面白いこと、感動する光景が広がっている。」


 今からするのは、春野に向けての宣戦布告である。


 やりたいことが出来た僕は今日一日、遊びながらも考えていた。


 どのように春野愛佳という人物に向き合っていけばいいのか。


 考えて、考えて、考え抜いて、それでも分からなかった。僕は、物語の主人公のような凄さなんか持っていない。


 僕ができることは、小細工しないで正面から当たって砕けて、また当たって砕けるを泥臭くても続けることぐらいだ。


 だから、僕は正面から戦うことにした。


「僕はそういった楽しいこと、面白いことを春野が知るまで、絶対に自殺させない。そして、そういった事を知った上で尚も自殺を選ぶと言うのなら僕は止めない。だから、これからもよろしく」

「・・・・・・」


 春野は勝手にやってればと言わんばかりの表情をして、何も言わない。


(まあ、当たり前の反応か)


 まだ3日しか経っていない、信頼も何もないだろう、これから信頼される為に頑張らないといけない。


 今日やるべき事はやったので、僕は春野の気が済むまで隣に座り待ち続ける。春野の瞳に映っているのと同じ、この美しい光景を眺めながら。

 

 なんだかんだ、行き当たりばったりの出来事だったが、色々と春野の事を知ることができてよかった。


 服装の好みや、春野がこのような海などの光景を知らなかったこと、子供に優しいことなど、色んな面を知ることができてよかった。


 色々とめちゃくちゃしたお陰で、春野愛佳の本当の姿をほんの少しだけかもしれないが知ることができた。


 春野の考えを変えるようなことはできなかったので、勝負には負け、2日の猶予を失ったと言うのは大きな損失だが、それに釣り合うほどのことは出来ただろう。


「勝負の件、覚えてるわよね?」

「もちろん、覚えてるよ」


 その後沈黙が続き、やっと春野が口を開いたのは、僕の宣言から大体10分ぐらい経った頃だった。


「あなたの勝ちでいいわよ」

「・・・・・・マジ!?」


 あまりにもあっさりと春野は言った。


 てっきり負けだと思っていた僕は、ついつい疑うような発言をしてしまう。


「何驚いてるの?椿君、提案した時、かなり自信を持って言ってたじゃない。それとも椿君にとってはこの時間は意味がなかったものかしら?」

「そんなことはない。ただ、押しつけのようなものだったから、春野にとって良かったのかは分からなくて」


 今回、僕がしたのは力でゴリ押すと言ったものだ。意味がない時間を過ごさせようとは考えてなかったが、確実に意味があったと言われるようなことが出来たとは考えてなかった。


「意味がないと言うには、失礼だと思う時間だった。それが椿君が頑張った結果、それだけのことでしょ」

「・・・・・・そう言ってくれてありがとう」


 春野の真っ直ぐな言葉に僕は感謝の言葉を告げる。


 どうやら、僕の頑張りは完全に無駄ではなかったらしい。


 その後、僕たちは夜の食材など必要なものを買った後、電車に乗って家に帰ることにした。


 こうして、デートもどきは一定の成功を見せ、終わることになった。

 

誤字報告していただき、ありがとうございます。物凄くうれしかったです。

読者に読みやすい文章を書くために頑張っていますが、自分の国語力のなさに嘆くばかりの日々を暮らしており、このような指摘を頂けるのは大変に参考になるので、ここ違うよと言ったことがあれば、今後ともよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  椿くん。 見事なエスコートでした♪  服、子供、クレーンゲーム、そして夕日。  一緒に食材を買って同じ家に帰る。  あれ? はた目から見たらこの二人、既に夫婦じゃね?(//∇//)
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