⑦話し掛けギャル
【上映まで10分】
まだ、開始まで10分ある。10分はあるけど、特にすることはない。することはないけど、気になることはある。それは、隣にいるギャルのこと。隣のギャルは、パンフレットを読み込んでいる。スマホをいじったりしているのが、ギャルのイメージだったから。ギャルのイメージからは、離れた光景だった。
【上映から00分】
映画が始まっても隣のギャルは、パンフレットを何回も見ていた。しっかりと、この映画に向き合って、観たいのだろう。そう感じた。情報をなるべく詰め込んでから、観たいタイプなのだろう。基本はスクリーンを観ているが、隙をみて、パンフレットに視線を落としている。もう、映画よりも、そちらが気になってきた。
【上映から10分】
「これは、どういう状況?」とギャルが僕に聞いてきた。少し天然系みたいだ。そして、コミュ力も、かなり高そうだ。真面目なのは間違いない。詳しく、物語の状況を説明することにした。ギャルと会話のキャッチボールを、しなくても集中力が下がっていた。なのに喋るとか、もう物語に、置いていかれてしまう、かもしれない。
【上映から30分】
また、ギャルが状況を聞いてきた。「主人公の過去の振り返りと、現在を交互に描いているんだよ」と言った。「なーるほど」と言ってきた。説明を聞いて、分かってくれたギャルに、かなり嬉しくなった。喋ることで、物語が体内に、スッと入ってきているのかもしれない。説明することは、いいことだ。
【上映から60分】
ギャルが、おもしろいね、と言ってきた。そして、たのしいね、とも言ってきた。説明を促すのは、まあいい。でも、おもしろさの同意を求めることは、普通じゃない。映画館は、そんなに気軽に話しかける場所じゃない。でも、いいか。ここは、なんでも許される。そんな気がするから、それでいい。
【上映から90分】
また、頻繁にパンフレットを見始めた。サトルって、どの人だっけと聞いてきた。ハヤトは、弟の友達だよなと聞いてきた。たしかに、登場人物が多いと分からなくなる。ややこしい映画だけど、分かったら面白くなる。そんな映画だ。ひとりで観ていたら、違う感想になっていただろう。ひとりで観ていたら、こんなに楽しくなかっただろう。
【上映から120分】
映画は終盤に来たのに、なぜかギャルは、僕のパーソナルを聞いてきた。僕の出身地を聞いてきた。それは、映画に何の関係もない。一番、映画のいい場面なのに。一番、映画に集中すべき時間帯なのに。でも、それでいい気がする。かなり迷惑だと、思う人がいなければ、それでいいんだ。楽しく観て来られたんだもん。
【上映終わり10分】
終わったあと、ギャルから誘われた。カフェで今の映画を語り合おうと、誘われた。僕とギャルは合うか、よく分からない。でも、会話のキャッチボールが正常に、行われていたことは事実だ。相性が良くなかったら、ギャルの説明要求も、断っていただろう。そうなると、僕とギャルは、まあまあの相性ということだ。だから僕は、誘いを受けることにした。