⑤イケイケギャル
【上映まで10分】
イケイケのギャルが隣にいる。右の隣だ。左の席はまだ空いていて、それが救いだ。何度か来てるけど、落ち着かない。全然、落ち着かない。ギャルが集まる映画館として、ここは有名だ。だけど、この世界で、慣れという言葉は一生、生まれてこないだろう。
【上映から00分】
右隣のギャルが、ポップコーン乾杯してきた。乾杯しましょう、とは一切言ってこなかった。ただ、ポップコーンのカップを持ち上げ、イエーイと言っただけだ。そしたらもう、イエーイと言って、ポップコーンのカップをぶつけるしかない。ポップコーンを買ってしまったから、こうなったわけだ。コミュニケーション能力高すぎだろうと、思った。
【上映から10分】
映画音楽にタテノリしている。たまにヨコノリしている。ギャルは、何にでもノッてくると、何かの書物で読んだ気はする。でもこれは、しっとり映画のしっとりミュージックだ。どこに、タテノリできる要素が含まれているのか。よく分からない。これは、ゆったり横揺れが正解だろう。
【上映から30分】
友達らしきギャルが、遅れてきた。右隣のギャルの友達だろう。僕の右隣のギャルの右側に、行くと思っていた。でも、僕の左側に座った。なんで、ギャルの隣ではないんだ。そう思いまくった。挟まれた。ギャル挟みだ。しかも、目の前でハイタッチされた。
【上映から60分】
キュンキュンシーンで煽り出した。新しく来たギャルを中心に。一体感がすごい。まわりも煽り出した。すごい。キュンキュンシーンの結末は、もう決まっている。ギャルがどう頑張っても、映画は変わることはない。でも、なんか頑張れば変わる気がしてきた。もし、バッドエンドに決まっていても、ハッピーエンドになるかもと、思ってしまっていた。
【上映から90分】
恋愛成就したシーンで、歯笛していた。プロレベルだった。よく響いていた。たぶん、後ろのギャルだろう。物語がハッピーに傾いたから、良かった。そう思った。ブーイングをしそうではないけど、もしかしたらするかもしれなかったから。意外と、ギャルの輪のなかに、入れそうな僕がいた。
【上映から120分】
ギャルはギャルでも、テンション上位のギャルだ。ここの人たちは、プロハイテンションガールの集合体だ。養成所に通ってましたよ、と言われたら、信じてしまうほどだ。それほど、クオリティー最高の盛り上げをしてくれた。映画、すごく楽しかったなと、振り返って笑みがこぼれた。
【上映終わり10分】
ギャルが、ハイタッチを求めてきた。思いっきり、手のひらを打ち合わせた。自分の正体は、ギャルなんじゃないかと思ってしまった。完全に、飲み込まれていた。飲み込まれていたというより、ギャル集団の一員になった。そう言った方が、いいかもしれない。すべての人に、ギャルの精神が含まれている。そう思っている。