③気遣いギャル
【上映まで10分】
ギャルとギャルとの間の席だった。ギャルは礼儀正しいと、知っている。だから、それほど心配はなかった。テレビでやっているのを、少し前に見たから。席に座ろうと、前を通った。ギャルは、きちんと足を引っ込めてくれた。やっぱり優しかった。
【上映から00分】
右と左がギャル。しかも、この圧迫感。よく見ていないが、後ろもギャルだろう。前には、みんなが想像する通りの、ザ・ギャルが座っていた。始まるまでは、小さな声で騒いでいた。でも、始まると、急に静かになった。しかも、うるさくしたらすみません、と僕に言ってくれた。上司に言うときの部下風で。
【上映から10分】
肘置きを使ってもいいよ。そう勧めてきたのは、右のギャルだった。左のギャルも、肘置きを使っていなかった。肘置きは、フリー状態だった。肘置きは、あってもなくてもいい。僕はそんなタイプだ。あっても、使わない。存在を忘れてしまう。そんなタイプだ。
【上映から30分】
映画館でのコーラ。それが好きだった。普段は、コーラを飲まない。コーラだけではない。炭酸は、ほぼ飲まない。でも、映画館で飲むコーラは、美味しく感じる。コーラをちびちび飲んでいた。その時、手が滑った。コーラを服にこぼしてしまった。ギャルは、ティッシュをすぐに、差し出してくれた。
【上映から60分】
ギャルは、ずっとうなずいたりしていた。小さい声で笑っていた。世間のギャルのイメージが悪すぎる。そう思った。誰よりも真面目で、しっかりしている。それが、僕のなかにあるギャルのイメージだった。しっかりと、物語には入れていた。映画に、普通に熱中できていた。
【上映から90分】
涙が出た。頬を伝って伝って。ギャルは物語の展開に、ゆっくりと、うなずいていた。その姿は僅かだが、この映画の監督にも見えなくなかった。横から、何かが出てきた。ハンカチだ。何も言わず、僕に差し出してくれた。気遣いも出来るギャルの優しさで、さらに涙が溢れた。
【上映から120分】
映画が終わりを迎えた。ラストはあたたかな心になった。まだ、映像は続いていた。でも、面白かったですね、と話し掛けられた。二人ともに。右のギャルも、左のギャルも、やさしい。今まで、左右の席に人がいる状態で、映画を観たことがなかった。これは、いい体験になった。
【上映終わり10分】
外にギャルと一緒に出た。映画館のスクリーンから離れた。ギャルは、満足そうな顔をしている。僕の右にいたギャルと、左にいたギャル。その二人は、友達だったらしい。たまたま、映画館で会ったみたいだ。ギャルは、別れるとき、会釈をしてきた。さようならと手を振ってきた。僕も会釈して、さようならと手を振った。