⑩サイレントギャル
【上映まで10分】
今日は、やけに静かだ。見た目は、うるさいギャルばかりなのに。前にもここには、来たことがある。その時は、はしゃぎまくっていた。もちろん、常識の範囲内で。まわりの普通の人も、心地いいと思うくらいだったと思う。もうすぐ、コメディ映画が始まるというのに静か。コメディ映画前の雰囲気ではない。葬式でも、もっと会話はある。
【上映から00分】
始まってからも、静かすぎる。ギャルじゃないのは、僕くらいなのだが。本来は、これが映画館のあるべき姿だ。でもここは、ギャルに特化している。そんな映画館だ。暗い世界では、ギャルの派手な服も、影をひそめる。だから、特に普通の映画館と変わらないという感じだ。前のように戻ってほしいが、このままでもいい。だって、楽しいから。
【上映から10分】
主演のイケメン俳優に、メロメロみたいだ。ギャルはみんな、このイケメン俳優が好きみたいだ。ギャルはみんな、声を出していない。でも、手は動いていた。首も頭も動いていた。だから、分かった。うっとりしている空気も、なんとなくあった。みんな、イケメン俳優目当てか。それなら、歓声があがってもおかしくない。なぜ声を出さないのだろう。不思議だ。
【上映から30分】
面白い場面でも、僕がひとりで、笑い声を出している。こんなに、面白いのだから。ただ、ギャルからの冷たい目線は、感じなかった。それでも、これからは声を出さないと決めた。異様な空間だから。コメディ映画なら、笑い声はあちこちから聞こえる。笑っていいのが、コメディ映画。そう認識していた。だから、少し苦しかった。
【上映から60分】
何かがおかしい。ずっと思っていた。こんなに、頑なに笑わないのは、なんかある。はしゃいでいたら、誰かに注意されて、しゅんとなった小学生の頃の僕。ギャルがみんな、そのようになってしまっている。理由を探した。誰かに叱られたから。そんな理由しか出なかった。ただただ、コメディだから笑って欲しかった。
【上映から90分】
前にここに来たときに、ギャルが大声で笑っていた。だから、また来たのもある。それをまた、味わいたくて来たのもある。それなのに、静かだ。もう、物語は終わりに来ている。逆にレアかもしれないが、物足りなかった。この映画館の、他のスクリーンはどうなのだろうか。他の映画は、どうなのだろうか。おなじく、歓声などがあがっていないのだろうか。
【上映から120分】
結局、誰も声を出さないまま、映画は終わっていった。それが普通といえば、普通なのだが。それは、何度も何度も思ったことだ。終わったら、この映画館について、調べてみようと思う。あと、このコメディ映画についても、調べる必要がある。ギャルの性質についても、調べた方が良さそうだ。色々調べていったら、分かってくるかもしれない。
【上映終わり10分】
終わったので、スマホでこの映画のことを調べてみた。映画館のことより、このコメディ映画を調べる方が早いと思ったから。すると、あのイケメン俳優の記事が出てきた。インタビューのなかで、色々と話していた。そのなかに、映画館でのマナーについて、書いてあった。『映画館では静かにしてほしいな』『心の中で興奮してほしいな』そのような内容だった。それだ。ギャルは、律儀で礼儀正しい。それだ。




