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第3話 大久保の影、俊英俊輔

一八七七年、十一月

黒田は大久保邸にいた。黒田が大久保邸の客間についたころには大久保ともう一人が席についていた。大久保ともう一人は伊藤俊輔(のちの博文)であった。当時の伊藤は長州閥でありながらも大久保に付き従い、政治の中枢にいた。

西洋風の椅子に腰かけた黒田に伊藤が話しかける。

「黒田殿は江華島の時以来ですかな?ずいぶん会っていなかったものですな。九州での軍功の話、遠くこちらにも聞こえましたよ。」

「はは、それは何よりでございます。」

少々大げさに褒めたたえる伊藤に、黒田は苦虫を嚙かみ潰つぶしたような気持ちであった。

伊藤は薩摩藩出身でないのにもかかわらず、大久保に重宝されているため、西郷の死によって不満のたまった薩閥の中では憎悪の標的であった。

しかし黒田は大久保に同じく目をかけられていたため、伊藤を“ある程度は”評価していた。

「伊藤殿、あまり黒田殿をいじめてやらないでやってくれ。本題に入ろうじゃないか。」

見かねた大久保が仲裁に入った。

「そうですね。今回黒田殿を呼んだのは蝦夷、つまり北海道に関する案件が絡むからです。ロシアが戦争を始めたことはすでにお耳に入ってるとおもいますが。」

当時のロシアは西南戦争の裏で露土戦争を開始。ロシアがルーマニアのオスマン帝国からの独立を名目に戦争を開始。ロシア優位で進んでいた。

「はい、聞き及んでいます。かの国が西欧に目を向けているので国内干渉の恐れがなくなり、私としては安堵しておりました。」黒田は標準語はなれないが、おおやけの、特に薩閥以外の人物とは標準語で話すよう努めた。

「しかし、そのことが北海道と何が関係するので?」

疑問を呈した黒田に、伊藤は一つの書簡を渡した。

「こちらは樺太から北海道に移住したアイヌの首長、ハウカセがロシアに非公式におくった手紙です。」

その内容を黒田は見つめた。内容としては、

◯現在の日本政府は樺太に現住する民族に対して、弾圧を行っている。

◯現在、ロシアが行っている露土戦争のように、アイヌの独立支援を要請。

◯現在の日本は内紛状態であり、独立は容易である。

といったものであった。

「なんということだ。」黒田は驚きあきれた。

「この書簡は現地において刺し止められましたが…万が一ということがあります。」

「確かに、危険だ。早急に協力者などを調べ上げねば。」

黒田と伊藤が話しいる間に沈黙していた大久保が口を開く。

「その協力者として、最も有力で、怪しいものがいる。榎本だ。」

大久保の言葉を聞いた黒田は戦慄した。なぜなら旧幕臣、榎本武揚。

一八七四年に黒田が北海道開拓使として登用した人物だったからである。

「な、何たることでしょう!そんなことがあるはずが…」

黒田は必死の弁明を見せる。

「しかし、一首長がこのような国際感覚に優れたものを有するはずがないではないか。一度黒田殿自身から問いただしていただきたいのです。」

伊藤も興奮しているのであろう、少々口調も荒れた。

黒田としては、自らで無理を通して登用した人物が国家転覆に加担していたとなれば、立場は危ういものとなる。

「わかりました。明後日までには何とか問いただします。」

と黒田は混乱しつつもやっとの思いではきだした。

「それでは、失礼いたします。」

黒田は足早に大久保邸を去った。慣れた手つきで自らへの馬車に乗る。

そして黒田は自らの政治家的な危機をかんじた。

しかし別のことも感じていた。伊藤の才覚さいかくである。榎本を追い詰めることで旧幕臣派閥の締め出しだけでなく、薩閥の力まで黒田を追い落とすことによって行おうとしたのである。

『さすがに大久保の目もあるだろうから、そこまでおおそれたことはできないだろうが…見事な手腕であった。』

伊藤に才覚と一抹の不安を感じながらも帰りの馬車の中で思案する黒田であった。


一八七七年 十一月

西郷の死によるアナフィラキシーショックはまだ続く。

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