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第5話 エピローグ
妻と死別してから二十年。
五十代にもなると光陰矢の如しを痛感する。
風花そっくりの娘。
成人してからは声まで似てきた。
「もうじきパパの作った鏡が世界を変えるね」
"死ぬまで情熱を捧げられる仕事を見つけろ"
この言葉に触発されて僕が見つけた仕事。
それは鏡職人だ。
自分で立ち上げた工場から見渡せる景色には、過去に失敗した電子砲台がそびえ立っていた。
あの電子砲台の内部には、僕が製造した高温に耐えられる、特殊な鏡が取り付けられている。
日本だけじゃない。
国連が設置した全ての電子砲台に、僕の規格で採用された鏡が使われている。
世界の救済計画は今のところ順調。
色弱となった自身の目は色こそ捉えることはできないが、白黒の景色でも身の回りの景色ははっきり解る。
何気なく横目で人影を捉えた。
長らく家を出て帰って来なかった息子が、ようやく帰って来た気分だ。
もう見てしまえとばかりに、立て鏡に映る自分を見た。
やっと帰って来たな? 鏡の中の僕。
僕は鏡の向こうにいる自分へ、軽く挨拶するように右手を上げた。