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第3話 ポスト・アポカリプス。ウィズ・ミラージュ

 僕が大学へ進学すると世界はより変化した。


 人体にも深刻な影響が出る。

 個人差はあるものの、眼球が光を正確に認識出来なくなった。

 ある人は天地が逆さまになった景色が見え、ある人は見える全ての物が万華鏡のように歪んだ。


 世界で乗り物による事故が頻発したのも、これが原因だと結論付けられた。


 各ゆう僕も見える物全てが白黒の世界と化す。

 唯一の救いはモノクロでも、風花の笑顔は変わらず、華やいだ表情だったことだ。


 ただ、この異常はあらゆる文化を葬った。


 スポーツ、映像作品、ゲーム。

 僕はサッカー選手を夢見てたけど、もう意味のない夢になってしまった。


 文明が衰退する一方、残る物もある。

 音楽だ。

 音は光と違い大気を振動させて伝わる。

 音楽だけは死ななかった。


 そして、もう一つ。

 戦争だ。

 文明の衰退に合わせ資源をめぐる戦争が激化し、世界は殴り合うように銃弾を撃っていた。


 もう驚きを通り越した。

 僕がクローゼットの鏡へ立つと、鏡の自分は背中を見せていた。

 鏡の自分が他人に思えて気持ちが悪い。


 ようやく打開策が浮上する。

 国連が大規模な計画を打ち立てた。

 国連の加盟国に巨大な"電子砲台"を建造して、ヒッグス場を減らす計画だ。


 砲台と聞いて超兵器みたいなのを想像したけど、実物は数百メートルもある、だだの煙突。

 その煙突から電子を放出して、ヒッグス場を破壊し、空間の重さを減らす計画らしい。


 世の中を救おうとすると必ず反対勢力が現れる。

 電子砲台の周辺では、集団暴動が起きていた。

 ネットの動画に投稿されたのは、暴徒を食い止める警備員。

 暴徒の一人は小競り合いの中で必死に叫ぶ。


『量子の世界は神の領域だ! 人間は粒子加速器で実験を繰り返し、量子の世界をこじ開けようとした。核、クローン、生物兵器。人間が神の力をほっすれば必ず滅ぶ! あれは聖火を灯す灯台ではない。世界を滅ぼすバベルの塔だ!』


 勉強するにつれ、自分の世界が解って来た。

 量子力学において平行世界(パラレルワールド)は「あの時、ああしていれば」と思う数だけ存在する。

 もちろん人がいる以上、その世界達には重さだってある。


 平行世界同士が繋がってしまうと、各世界の原子や粒子が時空のトンネルを通り、行き交ってしまう。

 世界を水の入った複数のコップとするならば、それぞれの水を一つのコップに移し代えるようなもの。

 当然一つのコップは水で重くなり、いずれ水はコップから溢れてしまう。


 これが僕の生きる世界に起きた災害だ。


 科学の世界では地球の物理現象は例え百万光年離れた場所でも、同じように通用すると言われているが、例外がいくつかある。

 究極まで重力が強いブラックホールはこれによらない。

 重力が強力すぎて空間が歪み、物理の法則を全て無視してしまい、独自の法則と常識を生み出している。

 

 これを専門家は『空間対称性が破れている』と呼んでいるらしい。


 これに習うなら、僕の現実は空間対称性が破れた世界だ。


 電子砲台設置から数年後。

 国連は救済計画が失敗したと報じた。

 原因は砲台内部に使われる特殊な鏡が、熱に耐えられず破損して、電子の放出が続かないからだ。


 計画失敗を嘲笑うように、世界の崩壊は加速していった。


 これもその一つ。


 通学や買い物へ外出する度に見る光景。

 空に僕の街が浮かんでいる。

 浮かんでいると言うより、天と地に街が二つあるのだ。


 重くなった空間が密度を増したせいで、空は鏡面のような作用を持ち、地表で反射した光を投影させている。


 蜃気楼に近い現象が起きたのだ。


 しかも月の周期や太陽の位置によって、空の重力が密度を増して強くなる部分があると、蜃気楼の街は万華鏡のように歪んだ。

 一軒家の屋根がアメ細工のように伸びて、槍のように伸びた家同士が溶け合うようにくっつき、一つステンドグラスに変わる。

 七色のガラスに見える空は観覧車のようにゆっくりと回転した。


 空へ映る街の蜃気楼に不気味さを覚えるが、それでも未来は進む。

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