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冥婚 其の6


「さあ、じゃあ本命のパソコンでも見てみようか」

「そうですねぇ…」


電源ボタンを押すと、ピッと起動音と共に画面が立ち上がる。


「まぁ…当然パスワードはあるか」


そこには本人以外が使えないように設定されたパスワードを入力する画面が表示されていた。


「さすがにヒントがなさすぎるねぇ…」

「数字なら誕生日とかですかね」

「今どきそんな安直な人がいるかい?」

「俺…誕生日固定ですけど…」

「危ないから変えたほうがいいと思うよ」


思いつく数字やワードをいくつか入力してみるも、そもそも明氏の情報が少なすぎる為、当然のように正解に辿り着く事は無かった。


「一旦、他のものを調べてみようか」

「そうですねぇ…」


本棚を見てみるも、小説や漫画、参考書に自己啓発本といった物の並ぶ、何の変哲も無い本棚だった。


「日記とかもなさそうですね」

「机の中も綺麗なもんだ、気になるのはこの写真くらいかな?」

「写真?」


部長が小さな額縁に入った写真を見せてくれる。

見るとそこには、幼い少年と少女が緊張したような表情を浮かべながら2人並んで写っていた。

どうやらこれが千影さんと明氏の思い出の会食の時の物のようだった。

下には『我王さんと明、緊張しているのかな?』と、母親が書いたであろうコメントも残されている。


「こんなに幼い頃の写真を飾っているくらいだ、初恋の相手だったというのは本当だろうね」

「そうですね、ご両親もこれを見て千影さんに連絡してきたんでしょうね」

「他には…気になるものは無い…かな?」

「片付けたとも言ってましたしね…スマホなんかは処分したんでしょうか?」

「どうだろうねぇ…おや?」

「どうしました?」

「いや…写真の額縁の中に何か…」


コロリと中から転がり落ちたのは、マイクロSDカードと呼ばれるメモリーカードだった。

パソコンやアンドロイドのスマートフォンを使っている人なら馴染み深いであろう、データの保存に使える指の爪程度のサイズの小さな物である。


「わざわざ隠してた所を見ると…お手伝いさんにも見られたくなかった物ですかね」

「私のスマホで中身を確認できそうだ」

「何が入ってます?」

「ちょっと待ってくれたまえよ…えー…と…」


部長が自身のスマホにカードを差し込み、中身をチェックする。


「あ、もしかしてエッチなヤツでした?それならお手伝いさんにも見られたくないだろうし」

「まぁ私もその可能性を考えなかったわけではないが…どうやらそういったファイルはなさそうだね」

「じゃあ何でしょうね、パソコンにもパスワードがかかってるんだから、別にしなくてもよさそうですけどね…」

「パソコンのパスワードは専門業者に頼んだり、解析ソフトで突破できるからね…そのへんを危惧していたのかもしれないよ?」

「何を…誰を警戒してたんでしょうか?」

「………これは」


部長が何かを見つけたようで、真剣な表情でスマホをタップする。


「何がありました?」

「日記…いや…計画書になるのかな…几帳面な性格だったようだね…」

「計画書…ですか」

「見てみるといい」


部長がサッとこちらにスマホを手渡してくれる。

そこには数ページ分のメモ書きのようなファイルが表示されていた。


『茜さんが望むので、就職を期に両親との(わだかま)りを解消しようと思う』


その一文から始まっていた。

茜さんというのは俺達も会った、あのお手伝いさんの事だ。


『備忘録として記す。22歳。両親の事を許した訳では無い、憎くないのかと聞かれれば嘘になる』


「……」


『だが不自由なく育ててくれたのは紛れもない事実だ、学費だって文句1つ言わず払ってくれた。当たり前だと思っていたが、茜さんや周囲の友人の話を聞いて、それが当たり前では無いと理解する事ができた』


読んでいて、俺自身も当たり前に享受していた事に気付かされる。


『この大学に入ったのも、親父のライバル会社に入社して鼻を明かすつもりだったし、実際に内定までは貰う事ができた…自分の都合でその内定を蹴る事に対しては申し訳無い気持ちしか無い』


「なんか…良い人ですね」


『両親が俺の就職先を気にしている事は知っている。だからサプライズがてら最初はライバル会社に勤めると報告するのも面白いかもしれない…今までずっと放置されていたんだ、これくらいの仕返しは許されるよな?』


いたずらっぽい表情を浮かべる明氏が容易に想像できる。


『これは茜さんにも友人にも内密で進める計画だ。俺は県外の仕事につくと言っているが、両親と和解できれば…親父の会社で働く事も視野に入れている。もちろんコネ入社ではなく面接から受けるつもりだ』


「……」


『まだうまく行くかは分からない、(こじ)れるようなら実際に県外の仕事を受ける事になるだろう。でも、こういう風に考えられるようになったのは茜さんや友人のおかげだ』


「………」


『さすがにパソコンを両親が勝手に見るとは思わないが…念には念を入れてこの備忘録は我王さんに守ってもらうことにする。うまくいけば皆にネタバラシをし、盛大に感謝の宴会を開こうと思う。』


ここでこのファイルは終わっている。


「部長…」

「どうだい?」

「俺達…自殺の理由…を探してたんですよね?」

「そうだね」

「自殺…するとは思えないんですが…」

「…そうだね」

「どういう事ですか…」


少し間をあけ、部長が口を開く。


「メリーさんという都市伝説を知ってるかね?」

「え?まぁなんとなくは…」

「ある所に少女がいたんだが…古くなったメリーさんという外国産の人形を捨てるんだ」

「はい…」

「しばらくすると正体不明の電話がかかってくるんだ、「私メリーさん、今ゴミ捨て場にいるの」ってね」

「……」

「少女が困惑していると再度電話がかかってくる…「私メリーさん、今商店街の前よ」…」

「……」

「「私メリーさん、今は橋を越えたわ」…「私メリーさん、今小学校の横よ」…その電話の主は確実に少女の家に向かっているのが分かった」

「……」

「「私メリーさん、今家の前にいるの…」その電話で覚悟を決めた少女が思い切って玄関のドアを開ける!………しかしそこには誰もいない……」

「……」

「なーんだやっぱりただのイタズラかーと思った瞬間、「私メリーさん、今アナタの後ろにいるの」と言う声が背後から聞こえた」

「改めて聞くとやっぱり怖いですね…」

「という有名な都市伝説なんだけどね」

「なんで急にメリーさんなんですか?」


部長が自身の眉間に指を添えながら続ける。


「これは人形を捨てたという罪の意識がメリーさんの怪異を受け入れさせているんだよ」

「罪の意識…ですか」

「そう、凄く極端に言うと、人形を乱雑に捨てたんだから呪われても仕方がない、人形が復讐に来るのも納得だって感じだね」

「あー…罪の意識がメリーさんの存在にリアリティを与えてるって感じですか?」

「そうだね、万物に神が宿る、八百万の神様がいるという日本だから受け入れ易いというのもあるかもしれないけれどね、この話に限らず…人間の罪悪感が怪異に絡んでいるという話は実に多いんだ」

「そうなんですね…」

「手も触れていないのに物体が動き回るポルターガイスト現象も誰かの罪の意識やストレスなんかが引き起こしているという説もあるね」

「へー…いや…だから…なんで…」


そこで言葉に詰まる。


「この酒井家で起こっていると思われる怪異は…」

「……」

「どんな理由で発生しているんだろうか?」


部長の言葉に、俺は無意識に下の階を見つめていた。



文章が荒れている気がする!

すみません!

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