冥婚 其の4
「自殺するような奴じゃなかったけどなぁ…え?彼女?今は…いなかったと思うけど…前は黒髪の可愛い彼女と付き合っとったで?」
「なんか昔好きになった娘がおって、それで清楚な娘が好きってのは聞いた事があるかな」
「あー、明君…残念やったねホンマ…うん、ちょっと前までお付き合いさせてもらってたよ…別れた理由?ウチが仕事の関係で海外行かなアカンくて…それでって感じやね…」
「浮気?ないない、あいつはそういうトコ変に真面目やったからなぁ!変な遊び方もしてなかったんちゃうかな、実家金持ちらしいけどハデな感じでもなかったし」
「実家とはあんまうまくいってないってのは聞いた事あるな、なんかお手伝いさん?がお母さん代わりやったらしいで?俺も聞いた話やからホンマかどうかは分からんけど」
「実家継がんの?って聞いた事はあるなぁ…軽ーい感じで「継がん、継がん」って笑ってたで?」
「恨まれるとか?いやー無いと思うで、悪い奴じゃなかったからなぁ…」
誰に聞いても酒井明の悪い話は出てこない。
メモ帳をパタンと閉じ、腕時計に視線を落とす。
約束の時間が近付いているのを確認して、私は待ち合わせ場所の喫茶店に移動する事にした。
「連日申し訳ありません、お時間取っていただいてありがとうございます」
相手にペコリと頭を下げると、相手はとても恐縮した様子を見せる。
「いえ、こちらこそ!明さんの事を調べていただけるそうで…」
彼女は酒井明の家政婦のような存在である女性で、彼の死の第一発見者でもある。
「不審な点は無かったとお聞きしていますが…?」
「はい…警察の方もそう言って自殺と断定されたと仰っていました…」
「仰っていた?直接聞いたわけではない?」
「はい、通報したのはご両親です」
「第一発見者は貴女だとお聞きしたのですが…不躾な質問すみません」
「私は…すぐ酒井夫妻に連絡して…すぐに駆けつけた2人と一緒に通報した形になります」
「ふむ…そのあとは警察はご夫妻とやり取りを行ったと」
「はい」
「なるほど、ですが貴女は自殺だとは思っていないと?」
「はい、明さんは前日までいつもと同じ様子でしたし…何かに悩んでいたなら私に相談しないはずがありません」
「それほどまでに信頼関係があったと」
「大袈裟かと思われるかもしれませんが…親子のような関係でした…明さんの両親はあまりその…彼と関わっていなかったので…」
「ふむ…確かに他の人達も彼が自殺するとは思えないと…」
「…はい」
彼女は酒井明の自殺に納得していないようだった。
他人であればそこまで固執する事もないのだろうが、彼女はまさに母親のように長年彼のそばにいたのだ。
息子のような存在の死は彼女にとっても大きな衝撃だった事は想像に難くない。
「明氏の女性遍歴等はご存知ですかな?」
「ええ、少し前に別れてしまいましたが、付き合っていた女性がいたようです」
「トラブル等は?」
「ありません、本当に一般的なお付き合いですよ、よく家にもいらっしゃっていました」
「片思いの女性がいたとか?」
「ああ、我王さんの事ですね」
「ご存知でしたか」
「ええ、部屋に会食の時の写真が貼ってあります」
「なら…やはり」
「いえいえ片思いというほどの好意ではありませんよ、幼い頃に会食で少し話をして憧れた、という初恋の思い出のようなものです」
「初恋の思い出…」
「ただ、我王さんのイメージが強かったのか、それ以降も黒髪の清楚な女性が好きになってしまうようでしたが」
そう言って、懐かしそうにフフと笑う彼女は、以前会った実母よりもよほど母親らしい笑顔を見せた。
「なら自殺については本当に心当たりは…?」
「ありません、しいて言うなら親子仲が悪い事でしたけど…昔からの事ですし…今更それでとも思えません…」
「仲が悪い…不干渉なだけではなく?」
「明さんが一方的に嫌っていたというほうが正しいかもしれませんね…でも幼少期、思春期をろくに会わずに過ごしてますから…正常な反応とは思いますが…」
「それはそうですな、失礼」
「就職先も初めは父親のライバル会社に勤めてやろうかなんて言ってましたよ、もちろん冗談ですし、違う職種で仕事も決まったんですが…」
思い出し、また瞳を潤ませる。
「それ以降、酒井夫妻とは?」
「会っていません、息子がいないのに世話役はいらないと言う事で…お役御免になりました」
「ふむ…」
「何度か連絡を取ってみたのですが…取り合ってもらえず…」
「なるほど…やはり一度きちんと彼等と話す必要がありますな…」
「お願いします…自殺の原因が分かったら私にも教えていただけませんか?お礼はします!」
「勿論ですよ、礼もいりません、むしろお話聞かせていただいてこちらが礼をせねば」
「よろしくお願いします…」
「お時間取らせて申し訳無い」
互いに深々と頭を下げあい、その場を後にする。
スマホを取り出し、酒井氏に電話をかけながらも、既に足は彼等の家に向かっている。
先程の彼女に聞いた話では、彼等の家は所謂、二世帯住宅のような形になっており、1階は夫妻、2階を明氏と彼女で使っていたそうだ。
両親とほとんど顔を合わせる事もなかったという明氏の胸中を思うと、いささか悲しい気持ちになってしまう。
「っちょっと!急にそんな!困り…」
電話の向こうで酒井氏の焦った声が聞こえたが、そのまま通話終了をタップする。
「よし、行こうか!」
「俺、必要ですか?」
ずっと隣にいたが、本日初めて口を開いた景君がそう呟いた。
更新が…くそう
申し訳無いとしか言えません…
物語の性質上会話メインになってしまうし…
どうか見捨てないでくださるとありがたい




