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UMA 其の6


ガバと口を開けたワニが俺目掛けて迫る。

ワニは噛む力に比べて口を開ける力は弱いのだと聞いたことがあるが、こうやって口を開けて迫ってくるワニに対しては全く役に立たない知識だなと思う。


「!!」


下方から身体を揺らしながら迫るワニは、俺に噛み付く……ことはなく、俺の横を通り過ぎ更に上に向かう。

目で追うとそこにはつい先程まで心肺停止状態だったはずの部長の姿があった。


「!?」


どれだけタフなんだあの人は。

そう思ったが、この活動を始めてから自分自身もかなりタフになっているように思う。


「ふはは!装備さえあれば野生動物など相手にもならんのだよ!文明を舐めるなよ!」


そう嬉しそうに叫ぶ部長の声が聞こえた気がした。

ワニが部長を完全にロックオンし、襲いかかる。


「くらえ!!」


ワニと部長の間で光が弾ける。

あまりに急な閃光に辺り一面が真っ白に染まったかのような感覚に陥る。


「ふはは!巨頭村でも使用した10000ルーメンの懐中電灯!防水仕様バージョンだ!効果は既に立証済みなのでね!感想は言わなくてもいいぞ!」


俺の視界も完全に奪われてしまったが、グンと腰のロープが引かれる感覚が伝わってくる。

どうやら部長が合図を出し、引き上げを開始してくれたようだ。

そのまま俺の顔に何かが被せられる。


「…!」


シュウと音がしたと思ったら口元に新鮮な酸素が運ばれたのがわかった。

なるほどこれは酸素ボンベのついた水中マスクだと理解し、遠慮なくそれを肺いっぱいに吸引する。


「助かった…」


少しずつ戻る視界。

見るとでかい筒状の物を持った部長が俺とロープを掴んだまま、まだ下を照らしている。

部長の顔にマスクが無いところを見ると、どうやら自身が付けてきた物を俺に渡してくれたのだろう。


「でっかいな…」


ロープに引き上げられながら、部長の照らしている先を見る。

ずっと水中にいたワニにあの光は相当こたえたのだろう、未だ視界が戻らない様子で身体をよじり、身悶えているワニが見えた。


「……!」


部長が俺に向けてピースサインをする。

勝利宣言だろうか?

などと考えていると部長は持っていた大きな筒を手放した。


「…?」


それは明かりをつけたまま自動でグングンと湖底に向かって進んでいく。

ただ沈んでいくわけではない、モーターで動いているのだろう、それなりの速度を保ったまま湖底を目指す。

それがワニの横を通り過ぎた時に、ワニもその気配を察知したのか、気配のする方に鋭いキバを向ける。

だが未だ視力の回復しないワニは水中の何も無い場所に向かってやたらめったら噛み付きを繰り出す。


「やった!」


気配だけは感じているらしく、ワニはそのまま湖底に向かって進む筒を追いかける。


「これなら無事引き上げてもらえますね!」


ワニとは逆に俺達の身体はグングンとロープに引かれ浮上する。


「!!」


ワニの姿もほとんど見えなくなったが、強烈な懐中電灯の光が湖底に向かっているのは分かる。

引き上げられながら、その光をぼんやりと見つめていると、湖底に向かうその光が唐突に消える。


「壊された…」


かなり値段が張ったであろう秘密兵器があっさり壊されてしまった部長の胸中はさぞかし複雑だろう。

しかし今の心配は、せっかく追い付いた獲物が餌で無かったと判明したワニの次なるターゲットである。

そのまま他を見つけてくれれば良し、こちらに再度戻ってこれば悪し、という事だ。


「…!」

「ですよね!」


大方の想像通りではあるが、ユラユラと上昇してくる黒い影が認識できる。


「…!!」


部長がその時、先程俺にピースサインをした要領で今度は指を一本だけ立てる。

そのままズボンのポケットを雑巾を絞る時のようにギューっと両手で目一杯、捩(ね)じる動作をする。

するとポケットから黒い液体が溢れ出し、俺達の周りに広がる。

墨汁だろうか?何にせよこれで俺達の姿は黒い液体に紛れ、かなり視認し難くなっているはずだ。

なるほど、指を立てたのは『まだ秘密兵器が残っている』の合図だったのであろう。


「いけます!」


実際、俺達を見失ったのかワニの追撃の速度が遅くなったように思う。

ボートが頭上に来たあたりで一気に身体を動かす。

その動きにワニも反応を示すが、もう此処まで来たらあとはスピード勝負だ。

少し前にやったのと同じように、ボートの縁に手をかけ、部長を押し上げ、そして俺が最後に上がる!それだけだ!


「その後は通報して…それから」


部長がボートに上がり、俺の手を引く。

だが、ワニの接近は思いの外速く、既に俺の足に食い付かんばかりの位置であんぐりと口を開けているのが視界に入る。

足とは言ったがこのサイズの口ならば胴体まで一気に食い千切られそうである。


「景君!!!」

「まずい!」


ワニの口が閉じられ、俺の短い生涯が……と思ったその瞬間。

とてつもない速度で何かが俺達のすぐそばを通過した。


「うわ!!」

「ヤバ!!」

「部長!」


常識では考えられない程の速度の、常識では考えられないサイズの何か。

それが通り過ぎ、ボートは水流により激しく揺れ、転覆こそしなかったが全員が湖に投げ出される。


「まずい!ワ…ワニは…!?」

「え!?あ…」

「いない?」

「ちょ!これ血!?K大丈夫!?噛まれてない?!」


ヒカルちゃんの声で急いで辺りを確認すると、そこにワニの姿は無く、代わりに水面に漂う血液であろう赤い液体が残されていた。


「俺は大丈夫…皆大丈夫ですか?」

「うむ…さあ、すぐボートに上がろう」


全員でボートに上がり、そこでようやくハァと一息。


「何だったんですかね今の」

「分からん…」

「…あーし見たよ、Kが噛まれそうになったら横からワニより大きい何かが凄いスピードで突っ込んできて…」

「ワニより大きい…」

「それが多分ワニを連れて行ったんだと思う…」

「まぁ…状況から判断しても…ヒカル君の見た光景に間違いはなさそうでは…ある…か?」

「ヌッシー…?」


全員が湖面に視線を落とす。


「まぁ何にせよ…今日は一旦引き上げにしようか…」

「そうですね…」

「命の恩人?恩竜?を突き出すわけにもいきませんしね」

「ですが部長、残念なお知らせが」

「ん?何かな?」

「水中スクーターですが…不法投棄が適応され…5年以下の懲役、または1000万円以下の罰金、またはその両方が科せられる可能性が…」

「ちが!あれは!生命の危険上やむなしの緊急避難が適応されるはず!!」


騒がしく岸に戻る俺達。

それを遠くから見つめる影。

水面から首から上を出したそれは新種の生物か、古(いにしえ)よりの生き残りか。

今はまだそれは謎のままに。


UMAはロマンですよね

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