百物語 其の3
「じゃあ…次が100話目…」
景君がそう言う。
最後に残された1本のロウソクはとても頼りない灯し火をユラユラと光らせている。
「あーついに最後かー…なんかドキドキすんね!」
「…うん」
はしゃぐヒカル君と強張るタク君の対比がなんだか面白い。
…さて、その前に我々の今回の作戦を説明しておこう。
まず我々は百物語を完遂してしまうと恐ろしい事が起こるという都市伝説を信じている。
という事は、このまま100話終わらせてしまうと、ヒカル君やタク君も巻き込んでしまうという事になる。
それで我々は考えた。
聡明な皆様ならとうにお気付きであろう、『知らない間に話が1話少なくなっていた作戦』である。
我々は5人で円状にロウソクを囲み、1人ずつ順に怖い話を披露している。
ジャンケンで負けた千影君から始まり、ヒカル君、タク君、景君、そして私の順に話している。
10話につき1本ロウソクを消すというこのスタイル、5人しかいないこの状況だと、ロウソクを消す人間というのは必然的に固定される。
順番的にそれが私だ。
「最後の話か…どうしようかな…」
「これは期待が大きいねー!」
「いやハードル上げないでくれ」
実際に8本目までは私が消していた、しかし9本目、そして次に消す10本目は景君の役目になっている。
これは80話以降にさりげなく我々が1話少なくなるよう、あえて間違った話数を表明した結果である。
これで実際には99話しか話していないのにさも100話話したように思わせる作戦だ。
終盤の思考力、判断力が鈍ってきた所で行うのがポイントだ、普通なら気付かれているであろうガバガバな作戦だが、存外ヒカル君達は気付いていないようだった。
タク君には申し訳無いが、研究発表はこれで勘弁してもらおう。
「じゃあ…最後は短く締めようかな」
景君はそう前置きをして話し始める。
「有名な都市伝説で首無しライダーって話があるんだ」
「あー聞いたことあるかも」
「毎晩毎晩走り回る暴走族を疎ましく思った近隣住民が道路にピアノ線を仕掛けるんだ、少し痛い目を見せてやろうってね」
「痛い目にしてはやり過ぎですけどね…」
「そうですね、結果として暴走族の一人が首を切断されてしまうという痛ましい事故が起きてしまう」
「事故なのそれ?事件じゃないの?」
「まぁまぁ、それ以来首の無いバイクに乗った霊が現れるようになった…って都市伝説だ」
「うんうん」
「…話はこれで終わりじゃなかったんだ、そのピアノ線を仕掛けた住民が周囲から叩かれ始めるんだよ」
「ほう」
「匿名でSNSに事の顛末が載せられたり、職場に誹謗中傷の電話がかかってきたり…」
「ありそうだね」
「結果的にピアノ線を仕掛けた住民も嫌がらせに耐えかねて自殺してしまう…」
「………」
「それ以来、首の無いライダーとピアノ線を振り回す住民の霊が意気投合し、2人乗りで現れるようになったそうな………」
「………?」
「おしまい」
「おしまい?」
「何言ってんの?」
「これはひどい」
あまりの話に景君が皆からバッシングされる。
「いいんだって!百物語ってのはこういうものなの!!最後はこういう緩い話で締めるのが良いんだって!!」
実際にそういう説もある。
あえて最後の話をしょうもない笑い話にする事で、溜まっていた良くない物…邪気とでも言おうか、それを散らす事ができるのだとか。
「それにしても酷くない!?」
「まぁ…ちょっとガッカリはしたけど…」
「タク君まで…」
「まぁ言われても仕方無いとは思いますよ」
「く…くそう…とにかく!これで100話目を終わります!!ロウソク消すからな!」
ふぅ!と景君が一息でロウソクの炎を吹き消すと、辺りは漆黒の闇に包まれる。
すぐそばにいるはずの皆の姿さえ見えなくなると、言いようのない不安に襲われる。
「はー最後は締まらなかったけどまぁこんなもんかなー」
「でも楽しかったよ僕」
「タク君は良い子だなぁ本当に」
「本当ですね、ふふ」
「あーしの弟だしね!」
皆も暗闇に不安を感じたのか口々に感想を言い合う。
そんな中………
「じゃあ…次は私が話す番だね」
私の声が暗闇の中、そう言い出した。
「はい?」
「部長、今なんて?」
「ニッシー?」
「ど…どうしたんですか?」
皆の表情は見えないが、全員が狼狽しているのは痛いほどに伝わってくる。
「それでは100話目…タイトルはそうだな…」
私の声は構わず続ける。
「部長、100話目は終わったでしょう!何言ってんですか!」
「部長?」
景君と千影君が焦っているが、一番焦っているのは実は私自身である。
何せ声は確かに私のものであるし、私のごく近くから聞こえている。
にも関わらず私の口は1mmも動いていない。
それどころか全身が完全に硬直し、指一本動かせないときている。
金縛りは、睡眠麻痺と呼ばれる睡眠障害の一種で、レム睡眠中に脳だけが突然目覚めることで起こると言われている。
しかしこれは明らかに睡眠麻痺等ではない、眠気など全くなかったにも関わらず、ロウソクの火が消えた瞬間に私の全身はまるで催眠術にでもかかったように動かなくなってしまったのだ。
「タイトルは…『百物語』…」
参った、これは予想外。
誰も身動ぎひとつしないのは、私と同じく硬直してしまっているのだろうか…
普通であれば千影君が電気を点け、私を制止するだろう。
窓は閉まっているはずだが湿った風がどこからか吹き込んできている。
投稿が安定しない…
本当に申し訳ありません
それでも読んでくれている方々には心より感謝しております




