百物語 其の2
「少し風が強くなってきたかな?」
窓がカタカタと音を立てて振動している。
「みたいですね、雨でも降るんでしょうか?」
「雰囲気出てきたねー!」
ロウソクは残すところ2本になっている。
10本あったものが2本になるとさすがに光量は少なくなり、闇が濃くなっているように思う。
そして恐怖心もだが、疲労感が思ったよりも大きい。
100話終わらそうと思うと一人当たり20話も話さないといけないのだから当然大変だ。
似たような話も当然出てしまうし、結局何が言いたいのかよくわからない話なんかもあった。
深夜という事もあり、頭も徐々に働かなくなっている。
「じゃあ次は僕ですね…えーと次は…」
「…84話目だね」
「あ、そっか、じゃあ84話目…」
そんなやりとりを挟み、タク君が話し出す。
「これは僕と友達のA君、B君とで4丁目の廃屋に肝試しに行った時の話なんですけど…」
こうして色々な怖い話を聞いているうちに思う。
なるほど、確かに怪談と都市伝説はよく似ているし、明確に異なるものだと言い切る事は難しいのだと。
と言うよりも、怪談話が都市伝説へと変化しているように思う。
いつか部長が言っていた、どこかリアルで信じてしまう話が都市伝説…リアリティはなくても怖い話を怪談だとしよう。
けれど怪談は人伝に徐々にその姿を変えていく。
より怖く、より興味を引くように、そしてよりリアルに。
場所不明だった話の場所が有名心霊スポットに変わったり、見知らぬ登場人物が身近な人物になる事で想像しやすくなる。
そうして元々はただの怖い話だったものに様々なものが肉付けされた結果、リアリティのあるどこか信じてしまう話に生まれ変わるのだ。
「その時A君が…」
更に言うならば、情報化社会になり幽霊やオカルトが信じられ難くなっている昨今。
怪談話にも「実は生きている人間が1番怖い」という物が多く出てきている。
恐怖の対象が幽霊では無く、ストーカーであったり、変質者であったりとどこにでもいるような人間なのだ。
これも怪談話が、よりリアリティある方向へ進んでいる証だろう。
大昔から今でも愛される怖い話や摩訶不思議な話。
これが無くならない限り、姿形を変えながら都市伝説は生まれ続けるのだ。
「A君はそれ以来絶対に肝試しをしなくなってしまいました…これで終わります」
そんな事を考えているうちにタク君の話が終わる。
窓の外からは風の音にパチパチと雨粒の音も混ざり始めている。
「よーし…じゃあ次は俺か」
ここに来てから色々と怖い話に触れる事が多くなったが…どんな話があったかな…
「これはある都市伝説、『ひとりかくれんぼ』についてのお話」
そう切り出した。
「皆も聞いた事があるかもしれないけど『ひとりかくれんぼ』という儀式がある、まぁ降霊術の一種なのかな?用意する物はぬいぐるみ、カッターナイフ、コップ一杯の塩水、ただしぬいぐるみには予め下準備が必要だ」
自分の指に爪切りをするジェスチャーをしながら続ける。
「まずは自分の爪、それとお米、それをぬいぐるみの中身を全て抜いて代わりに詰める…そして赤い糸で縫い直し、余った赤い糸をぬいぐるみに巻きつけておく…そうそう、ぬいぐるみに名前もつけてあげてくれ」
フンフンとヒカルちゃんとタク君が頷く。
有名な話ではあるが幸い2人は知らなかったようだ。
「ここでは仮にヒカルちゃんがやったとしよう、ぬいぐるみに名前つけるなら何にする?」
「え!?あーし…!?うーん………ゴリ造…?」
「ゴリラのぬいぐるみか…じゃあまずヒカルちゃんが隠れる場所を決めておいて、そこに用意した塩水を置いておく」
「うん」
「次にゴリ造を浴室に連れていき、「最初の鬼はヒカルだから」と3回申告する」
「あ、あーしが鬼なんだ」
「浴槽に水を張って、そこにゴリ造を入れたらOKだ、浴室を出て、部屋の電気を全て消し、テレビを点け、砂嵐が出ている状態にしよう」
「…うん」
「目を瞑って10秒数える、そして用意していたカッターナイフを持って浴室に行き、「ゴリ造見つけた」と言った後、カッターナイフで突き刺すんだ」
「ぅえっ!」
「そこで「次はゴリ造が鬼」と3回繰り返し………使ったカッターナイフを置いてから、塩水を置いた場所に隠れよう」
「……うん…どうなんの?」
「何も起こらなかった場合は塩水を口に含み、ぬいぐるみの所に戻り、コップに残った塩水、口に含んだ塩水の順にぬいぐるみにかけて「私の勝ち」と3回唱えて終了だ、ぬいぐるみは終わったら燃やしたほうがいいと言われている」
「……なにそれ?終わり?」
拍子抜けだと言わんばかりの表情をヒカルちゃんが浮かべる。
「…それを実行した男がいたんだ」
少しの間を開けてそう口にすると、なぜか部長の表情がパァっと明るくなる。
いやアンタこんな話散々調べているだろうに何をワクワクしとるんだ。
「心霊系動画配信者だった男がいてね、彼は良いネタだとばかりにひとりかくれんぼを実行したんだ、それを生配信すればウケるんじゃないかって思ったんだ」
「うん」
「手順を踏み自分が隠れる番、押し入れの中に隠れながら男は小声で配信を続ける」
「………」
「「これどのくらい隠れたらいいんだろ?」とか「ぬいぐるみ燃やして配信終了かな」とかテレビの微かな明かりだけを頼りに配信を続けていると妙な事が起こるんだ」
「何…?」
「押し入れに届いているテレビの明かりが一瞬暗くなるんだ、当然テレビが勝手に消えてるわけじゃない、テレビから聞こえるザーという微かな音は途切れていない…」
「………」
「まるで誰かがテレビの前を横切っている…」
「………」
「視聴者からのコメントで気付いた男は声を潜め押し入れの外の様子を窺う…」
「…どうなんの…?」
「「ウワッ!!」と男が叫んだかと思うとそこで配信終了」
「ウワッ!!」のところで声を大きめにするとヒカルちゃんとタク君の背中がビクンと跳ねる。
「それからその男からの配信は無くなった、登録者もようやく増えて来て、収益化も始まったばかりだというのに」
「……もー……大きい声系はずるいってー…」
口を尖らせて文句を言うヒカルちゃんに向かって、俺は最後にこう締め括る。
「それじゃあ85話目を終わります」




