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百物語 其の1


「…………と言うわけで終わりだね、これで50話だ、5本目を消すよ」


部長がフゥっと目の前のロウソクを吹き消す。

これで残すところ50話、残ったロウソクは5本になった。


「こわ!」


ヒカルちゃんが自身を抱きしめながらそう叫ぶ。




〜百物語〜




さて、なぜこうなったのかおさらいしておこう。

解答さんの一件で知り合い、何かと事件を運んでくれるヒカルちゃん。

てけてけの件でも証言してくれたその弟のタク君が、学校の研究発表で『百物語の実体

験』を発表するらしく、ならばあの怪しい連中にも協力させよう!となった次第である。

「私は聞いてなかったけどね」とは部長の談。

確かに千影さんと俺だけで決めてしまったのだが、部長に相談しても間違いなく協力するだろうと言う事で俺と千影さんの意見は一致した。


皆さんも百物語はご存知だろう。

ルーツは鎌倉から江戸時代頃にかけて武家の肝試しとして行われていた説や、戦国の将軍に仕えた御伽衆おとぎしゅうの寝物語が形を変えていった説等が有力なようだ。

御伽衆とは室町時代の終わりから江戸時代のはじめにかけ、将軍や大名に仕え、面白可笑しい話を披露する役職だったとの事。

怖い話と言うのはいつの時代も人の好奇心を刺激し、楽しませるものなのだと感心する。


「これで半分だね」


俺は知らなかったのだが、百物語をする際にはかなり色々とルールがあるらしかった。

参加者は青い着物を着なくてはいけない、鏡を用意しなくてはいけない、100話全て話してはいけない、途中で止めてもいけない、夜のうちに終わらせなければいけない…等々。

厳密にはもっと細かいルールもあるのだが、現実的に用意できない物もある為、可能な物だけを用意した。

部屋は俺の部屋、ロウソクは10本なので10話につき1本ずつ消していく。

ヒカルちゃん達の親御さんの了解は取ってあるので泊まりになっても大丈夫だ。


「じゃあ次は私ですね」


コホンと咳払いを1つすると、千影さんが語りだす。


「寝る前って怖い話を思い出したりする事ありませんか?」

「あー!あるある!」


ヒカルちゃんが嬉しそうに反応する。


「電気を消して暗闇の中、誰かが足元にいるんじゃないかとふと怖くなり、布団に潜り込んだ事がある人も多いんじゃないでしょうか?」

「わかるー!足が布団から出てると握られるんじゃないかって!」

「皆さん寝るときはベッドですか?今は布団の人は少ないんじゃないでしょうか?壁に面していますよね?部屋の中央にベッドを置く事はないでしょうから…」

「…あーしもタクもベッド…」

「そうですよね、横向きに寝ますか?うつ伏せ?仰向け?」

「横かな…?タクは?」

「僕も横かな…」

「私も壁の方を向いて、身体を横にして寝るんですけれど…当然目を開けると目の前には壁がありますよね?本当にすぐ目の前に壁」

「…うん」


元気だったヒカルちゃんの口数が減る。


「そこには誰もいないし、いるわけもないし、入れるスペースすらない…なのに目を閉じると感じるんです…明確に誰かが眼前にいる気配…」

「………」

「見られている、目の前でじっと…私と同じ体勢で私の直ぐ目の前に何かがいる…そんな気配がする事はありませんか?」

「………」

「目を開けると当然ただ壁があるだけ…でも目を閉じると感じる気配…」

「ちょ…」

「そんな時は決して手を前に出さないでくださいね…」

「…なんで?」

「あるはずの硬い壁じゃない何かに触れてしまう事があるかもしれないので…」

「………」

「ふふ、それでは51話目はこれでおしまいです」

「今日は一緒に寝てあげるから大丈夫だよ!タク!」

「僕何も言ってないじゃん!」


百物語を完了させると恐ろしい事が起こると言われている。

故に99話で終わらせて、未完で終わらせなければならないのだ。

俺達がこの百物語に参加する事を決めたのも、何か怪異が起こってしまった場合、少しでも対処できるかもしれないと思っての事だった。


「ふぅー!次はあーしかな?」


部長はひょっとしたら百物語やこっくりさんはこちらから怪異や異次元に干渉できる方法かもしれないと考えているようだ。

勿論、ヒカルちゃん達を巻き込もうと思ってるわけではないから、後日改めて…という事になりそうだが。


「友達の友達にKって娘がいるんだけどさ、その娘が結構変わった娘なの、なんていうの?霊感少女って言うのかな、普段でも「そこに恨めしそうな女がいるよ」とか平気で言ってくるような娘」

「ふむ」

「そんな娘だったからあんまり友達とかはいなかったみたいなんだけど…そんな彼女にも彼氏ができたんだって、優しくて、彼女の話を馬鹿にせず聞いてくれる彼氏」

「ほうほう、いいではないか」

「でも話を聞いていくうちにおかしいの、学生だし実家暮らしなのに毎日ずっと一緒にいるとか、鳴ってもいないスマホ見ながら彼氏から電話だとか言ったり…」

「………」

「そんなだからただでさえ少ない友達とかも「妄想と現実がごっちゃになっちゃってるのかな」みたいになって距離置くようになっちゃったんだって」

「まぁ…うん」

「そんなある日、Kが失踪したんだって、親も必死で探すけど全然見つからなくて…」

「………」

「手掛かりはないかってKの部屋を探したら日記帳が残されててね、そこには普段の他愛無い出来事とかが綴られていたんだけど……ある日を境に彼氏の事ばっかり書かれるようになったの」

「…ふむ」

「彼氏とどこに行ったとか、何を食べたとか……最後のページは失踪の前日の日付けだったらしいんだけど…そこには…」


ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえる。


「Kの字じゃない筆跡で『おれがもらった』って書いてたんだって………」


オチを聞いて鳥肌がブワッと立つ。

時間や雰囲気のせいもあってか単純な話でも十分怖く感じてしまう。


「怖くない?怖くない?あーしこれ聞いた時トリハダやばかったかんね!!」


直後にキャッキャとはしゃぐヒカルちゃんのおかげで恐怖がほぐれるのが救いだ。

だがまだまだ若いタク君は存分に恐怖を満喫しているようだった。

生温い風が吹き込む中、夜はまだ続いて行く。



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