試行錯誤
「これも駄目と」
私は持っているメモ帳の中の『六芒星』と書かれた場所にバツ印をつける。
メモ帳の『エレベーター』『電車』にも既にバツ印がついている。
「大真面目にやってはいるが…そう簡単にはいかないか」
これらは全て所謂、異次元に行く方法と言われている都市伝説である。
くねちゃんの事もあり、異次元にこちらから行く事ができれば様々な進展に繋がると思っての行動である。
今バツ印をつけた物は、5cm四方の紙に黒ペンで書いた六芒星、その上に赤ペンで『飽きた』と書き、それを枕の下に入れて眠る。
起きた時にその紙が無くなっていれば成功、というものである。
「当然なんの変化も無しと」
一応書いた物に何か変化が無いか確認するも何も無し。
「ふむぅ…」
溜息をつきながらメモ帳をパタンと閉じ、朝食に向かう。
ちなみに『エレベーター』と書かれた物は有名な方法で、まず10階以上ある建物のエレベーターに乗る。
4階→2階→6階→2階→10階の順に移動する。
この際、誰か他の乗客が来た時点でそれは失敗になるとのこと。
無事に、10階に到着したらエレベーターを降りずにそのまま5階に向かう。
5階に到着したところで女性がエレベーターに乗ってくる。
その女性には決して話しかけてはいけないそうだ。
そして最後に1階へ向かうボタンを押すと、エレベーターは下に向かわずに10階へと上がっていく。
そうなれば成功で、エレベーターの扉の向こうは異次元であるという物だ。
これは商業施設だとあまりに人が多かったため、近くのマンションで数時間やってみたが…女が乗り込んで来る事は1度もなかったし、最後に1階を押して10階に向かうことも無かった。
はたから見れば不審者以外の何者でも無かったであろう。
私自身がエレベーターにずっといる男として都市伝説になるんじゃなかろうか。
『電車』と言うのは、異次元に行く方法だと書かれていたり、鬼門を開く方法だと書かれていたり諸説あるようだ。
用意する物は米10粒。
まず秋葉原駅へ行き、東京メトロ日比谷線に乗り茅場町駅で降りる。
ホームを八丁堀方面へ向かって歩き、鉄格子の下に盛り塩があるのでそれを崩す。
その後東西線に乗り、高田馬場駅で降り、ホーム内を今度は西武新宿線乗り換え方面へ向かう。
するとまた鉄格子の下に盛り塩があるので塩を崩す。
その後茅場町駅へ戻り、電車を降り、改札を出て「4a出口」階段の下に10粒の米を置く。
再度、茅場町駅から電車に乗り、今度は築地駅で降り、ホームを築地本願寺に向かって歩くと、またも盛り塩があるはずなのでこれを崩す。
これで扉が開き、その後日比谷線に乗ると異世界へ運んでくれるというものだ。
これに関しては、そもそも盛り塩が無い。
どう探しても盛り塩が見つからないので、駅のホームをひたすらキョロキョロする不審者になってしまっただけだった。
近い内にメガネで小太りの男の都市伝説が発信されたら私と思ってくれていいだろう。
当然盛り塩を無視して行動するも、異次元に行けるはずもなく、半日が無駄になった。
「異次元にこちらから干渉できる方法…厳しいか…」
バターをたっぷり塗った食パンを齧り、コーヒーで流し込む。
朝はどうしても簡素な物になってしまう。
欠伸を1つしながら大学に向かう道中、背中にドンっと重い衝撃が走る。
「痛っ!!」
よろけながら振り返るとそこには私とはあまり相性のよくない女性がニコニコした顔でふんぞり返っていた。
「大袈裟だなーニッシーは!」
『やかましJK』ことヒカル君である。
「大袈裟じゃないよ!重いんだよ一撃が!肩をポンと叩けばいいだろうまったく」
「余裕がないなー!あーしみたいな可憐な少女に挨拶されたらもっと喜ぶんもんじゃない?」
「可憐な少女はそんな魔女みたいな爪してないんだよ!」
「魔女…!オッサンってホントネイルとかピアスとか嫌うよねー」
「私はオッサンではないが…オッサンは新しい物を受け入れ難くなるからある程度は仕方無いのだよ」
「そうなの?」
「うむ、全員が全員ではないがね、年を取るにつれインプットが億劫になるのは間違いない」
「なんで?」
「まぁ脳の衰えだとか、そういった物もあるだろうが…単純に怖いんではないだろうか」
「怖い?」
「自身が形成してきた人生によくわからない価値観や物事が入ってくる事がだね、本人達は怖いと思ってはいないだろうが…本能的な防衛反応なんじゃないかね?」
「そういうもん?新しい事を知れるなら嬉しいじゃん」
「皆が皆、ヒカル君のように前向きではないという事だよ」
「はー、もっとポジティブにならなきゃだねー、駄目だよ、千影さんにも見放されちゃうよ」
「なんで千影君が出てくるのか!?」
「あはは、顔赤っ!」
全く、これだから最近の…いやいや、この発言はあまりにもオッサン臭いのでやめておこう。
私は喉まで出かかったそれをゴクリと飲み込んだ。
「最近はどうかね?あれからおかしな事は?」
「うん大丈夫、ありがとね、それに明日の事も」
「明日?」
「うん、あれ?」
「明日は…休みだが…」
「うん、それであーしの弟の研究発表に付き合ってくれるって話」
「…聞いてないが…ちなみに発表内容は何かね?」
「百物語」
「百物語…ふむ」
暫し黙考。
「よかろう、任せたまえ!」
ポンと彼女の肩に手を置き、ニヤリと微笑む。
「あ、セクハラ」
「ヒカル君!?」
「冗談だって!」
キリリと痛む胃をさすりながら私は大学に向かうのであった。




