違和感
「傷の様子はどうですか?」
「うむ、まだ塞がってはいないが…だいぶマシになったように思うね」
「景君も…」
「俺は大丈夫ですよ、治り早いほうなんで」
巨頭村で受けた傷はまだ痛むが、随分マシになっている。
病院に行った時に医者が訝しげな顔で傷口について質問してきたが、事故を起こした時にできた傷だという事にした。
当然、納得はしていないようだったが、逆に納得できる理由も思い付かなかったようで、渋々といった感じで飲み込んでくれたようだった。
「しかし…このくらいの傷で済んで本当に良かった…」
「そうですね…くねちゃんがいなかったら…下手すりゃここに居てなかったかもしれないです」
「本当です…もう無茶は…」
「気を引き締めないといけないね…」
「はい」
「慣れ…と言う程でもないかもしれないが…何度か怪異と遭遇する事で我々の中に油断が生じていたのは間違いない」
「それは…」
「今後は今まで以上に注意しよう」
「…そうですね…俺も今までの都市伝説から逃げ切れたって事で変に自信を持ってた気がします」
「自信があるのは悪い事ではないんだがね、警戒心は無くさないようにしよう」
「はい」
「ですね」
反省は一旦終わり、と部長が一口お茶をすする。
「巨頭村の対処法と言うのは…」
「村からの脱出…というのが対処法になるんじゃないですか?」
「元祖の話でも村に入らず引き返して難を逃れているしね」
「今回のように村に入らなければならない場合は…」
「そうだね…目的を果たした上で脱出する…というのが正解かもしれないね」
「すみません、私がスマホを無くしたばっかりに…」
「…でもまぁこうやって無事に帰ってこれましたからね」
なんだろうか、軽い違和感を覚える。
「そしてくねちゃんだね」
「え、あ、そうですよ!どうしましょうか?」
「やっぱりあれはくねちゃんの力でしょうか?」
「我々に影響は無かったからねぇ…化け物達がどんな攻撃を受けたのかが明確には分からないが…」
「くねちゃんの攻撃だと仮定して…」
「どうしましょう?」
「まぁ…山には還せない…か…」
「本当に人里離れた所ならどうです?」
「ふむ、無人島とかなら有りかもしれないね…」
「幸い今の所俺達にはそういう事をしてくる様子はないですけど…」
チラリとくねちゃんを見ると、キョトンとこちらを見つめ返してくる。
そこには何の異常も感じられない。
「やはり、罪悪感を刺激して狂わせる能力なんでしょうか?」
「でもあの化け物達に罪悪感なんてありますかね?」
「なんとも言えないね…くねちゃん自身が危機を察知して、別の何か…特殊な力に目覚めたのかもしれないし…」
「検証のしようもないですしね…」
「怒らせてみるかい?」
「いやー…遠慮しておきます…」
「まぁ今後の課題だねぇ…」
「蛇の寿命って…」
「一般的な蛇は飼育下だと10年から20年と言われていますね…世界最大のアミメニシキヘビなんかは40年とも言われているとの事ですが…」
「くねくねって大型…になるんですかね?」
「くねちゃんの母親は大きかったですね…」
「そう言えばくねちゃんがあのサイズになる事を全く考慮していなかったね…」
「まずくないですか?」
「非常にまずい気がするね!」
「…なんでちょっと嬉しそうなんですか…」
しかし実際、くねちゃんがくねくねサイズまで成長したとすれば、俺達では飼育下に置く事は困難だろう。
そういった事も踏まえ、くねちゃんの今後はしっかりと考慮しなければいけない問題の1つとして再確認する事になった。
心の何処かで今の可愛いくねちゃんのままだと思っていた楽観的な自分を殴りたい。
「人に危害を加える前に、殺処分…という方法もあるよ?」
口に出していなかっただけで皆の頭の片隅に確実に存在していた選択肢だ。
それをあえて部長が口に出して嫌な役目を買って出てくれる。
「これは…ワガママなんですけど…私はその方法は避けたいです…」
「俺も反対ですかね…いや他の良い方法ってのはまだ思い付いてないんですけど」
「ふむ、ああ私は勿論反対だよ、餌やりまでやっている私がそんな方法できるわけがないからね」
「はい、分かっています」
「選択肢として…って事ですよね」
「そう、この選択肢は早ければ早いほどいい」
「都市伝説の実在を認識している俺達に出来る方法があると思…いたいですね」
「私はあの異次元の存在を何とかできないかと思っているんだがね」
「異次元ですか…?」
「ただあの空間もよく分からない事だらけだからね…てけてけの時は物体はどちらにも干渉していたが、きさらぎ駅は干渉どころかこちらには存在していない」
「そう…ですね」
「存在していないと言うと語弊があるかもしれないが…巨頭村もそうだね、特定の条件下以外では認識する事すらできない」
「謎が多いですね…」
うーんと揃って頭を悩ませる。
「なんにせよ…くねちゃんの今後は最重要課題だね…それにピクニックのやり直しも」
「そうですね…」
窓からはポカポカと暖かい陽射しが差し込んでいる。
いつも通り、千影さんの入れてくれたお茶は美味しい。
にも関わらず何か拭いきれない違和感が俺の中にいつまでもいつまでも燻っていた。




