翌日の部室
「とりあえずは…これで現状出来ることはやったかな…?」
「そうですね…」
口裂け女さんに電話で事のあらましを報告した後、部長がフゥと一息つく。
影の正体が虫の大量発生の可能性が高い事、殺虫剤である程度の対処が可能である事…
もしかしたら付近に自ら命を絶った人がいたかもしれない事は、「大きな獣の亡骸に群がって大量発生した可能性がある」と少々ぼやかして報告しておいた。
「本当なら現地まで行きたいところだがね」
「まず報告するのは大事ですよ」
「そうだね…我々が見た裏山で今後目撃されなくなればいいんだが」
「そうですね…そうなれば死体の発見、回収が対処法で間違いないでしょう…」
「あ!じゃあ口裂け女さんの地元の警察に匿名で通報するってのは…?」
「いやー…やめたほうがいいだろうね、変な疑いをかけられるだけだろうし…というかまず信じて貰えないだろう」
「…ですよねー」
本日のお茶請けであるドーナツをひと齧りすると、口いっぱいに甘いチョコレートの味が広がる。
「時間に余裕ができたらフル装備で現地にも行かないとね」
「景君の地元にも向かわないといけませんね」
「そうですね…」
俺達の考察が正しかったとすれば、俺の地元にも発見されていない自殺者がいる事になる。
そう考えると、なんとも言い表せない息苦しい気持ちになる。
「しかし…仮に我々の考察が正しいとしても…同時期に同じ現象が起こるというのは…説明がつかないね」
「自殺した人が本当にいたとして…自殺したタイミングまで一緒だったとは考えにくいですしね…」
「まぁ…日本では毎年2万人から3万人も自ら命を絶つ人達がいるからね…たまたまタイミングがあう事も無くはないだろうが…」
「……」
千影さんの表情が苦々しく歪む。
「だが…怪異が侵食している…と考えたほうが…正直シックリくるね…」
それはそうだ、今まででは考えられないくらいに俺達の身の回りではおかしな事が起こりすぎている。
「怪異がこれだけ起こるようになった原因は…何なのでしょうか…?」
「何だろうね…我々からすれば景君と知り合ってから…と言うのが関係ありそうだが…」
「でも俺もお二人に会うまではきさらぎ駅の件しか体験してませんよ」
「うーむ…」
「まだ私達の知らない何かがあるのかもしれませんね…」
更にドーナツをひと齧りし、フムと考える。
「信じる人間が多くなれば多くなるほど都市伝説が力を持つとしても…このご時世じゃむしろ信じてる人は減ってそうですしね…」
「だねぇ」
「私達に出来る事があるとすれば…遭遇した都市伝説や怪異を1つずつ解決していくだけ…でしょうか」
「これだけ都市伝説を解決してもそれしかないんですかねぇ」
「それしかと言うが、これが出来るだけでもとんでもない事だよ?」
「まぁ…そうなんですが」
「怪異が増えすぎて当たり前に感じてしまっているかもしれないが…ああいった怪異に遭遇して尚、それに立ち向かえると言うのは正に我々にしかできない事であるよ!」
「それはまぁ」
「だからいいのだよ、直にこの意味に到達する時が来るさ」
「なるほど…」
残りのドーナツをパクリと口に放り込む。
「あ、そう言えば部長」
「ん?」
「ドーナツ食べて思い出しました!今日は俺が雑学を披露しますよ!」
「お!それは楽しみだね!あれかな?アメリカの警察がドーナツをよく食べているのは、警察がパトカー、制服で来店すれば割引や無料にすると言ったダンキンドーナツの防犯戦略がきっかけというやつかな?」
「え?…あ…」
「それともあれかな、ドーナツの穴の理由かな?諸説あるが個人的に好きなのは船の舵にドーナツを通していつでも食べられるように穴をあけた説だね!まぁ揚げる際に熱が通りやすくする為というのが有力なようだが!」
「………」
「バレンタインでドーナツを贈るのは〜……あれ?」
「景君…」
「はい…」
「部長に代わり謝罪をさせていただきます」
「いえ、生意気に雑学を披露しようとした俺が悪かったんで…」
「部長…そういう所ですよ」
「え!?」
これで悪気が無いというのが部長の信じられない所でもある。
いつか部長が驚くような雑学を披露してやろうと固く心に誓っていると、千影さんがパンと手を鳴らす。
「そう言えば…色々あってなかなか言えなかったのですが」
「ん?何かな?」
「やり直しませんか?いつかのピクニック!」
「ああ!そうですね!あの日は結局ピクニックどころじゃなくなりましたもんね」
きさらぎ駅に千影さんが囚われたあの日。
俺達がそれを追い、姉と再会したあの日。
きっかけは皆で行こうとしていたピクニックが始まりだった。
「おお!それはいいね!」
「またお弁当も作ります、あの日助けて頂いたお礼もできていませんし」
「お礼とかはいいですけど、でもいいですねピクニック!」
「でも電車はまだちょっと怖いので…」
「じゃあ俺がレンタカーを借りますよ」
「ふむ!それならくねちゃんも連れていけるね」
「お弁当、何が食べたいですか?」
「「唐揚げ!!」」
ハモった俺達を見ながらクスクスと笑う千影さん。
サァと心地良い風が窓から部室に吹き込んでくる。
またも私生活がゴチャついてて投稿できていませんでした
読んでくれている方には心より謝罪を。
少しずつでも更新したい!すいません!
あと誤字報告もいつも本当にありがとうございます!




