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スレンダーマン 其の1


「どうぞ」

「あ!すみません!ありがとうございます」


千影君が彼女にお茶を出すと、それを一口コクリと飲み、ホゥと息を漏らす。


「美味しいですね…!これはどこの…」

「ふふ、近所の和菓子屋さんでこのお茶も売っていたんです、私も飲んだ時は驚きました」


そのままお茶の産地の話や、他の美味しいお茶の話で会話に花が咲いているようだ。

私はお茶請けのみたらし団子を食べながらそれを微笑ましく見ていた。

ちなみにみたらし団子の「みたらし」とは、 「御手洗」と書き、後醍醐天皇が京都の下鴨神社にある「御手洗池」で水をすくったところ、泡が5つ浮かびあがり、それを団子に見立てた…と言うのがみたらし団子の始まりとされている。

「見たら死」団子ではないので気にせず食べていただきたい。

おっと、しまったな、これは景君がいる時に披露すべきネタだったかもしれない。


「あ!すみません!せっかくお時間を取って貰ったのに!」


彼女がこちらの視線に気付き、謝ってくる。


「いやいや、こちらは特に予定も無いですから、気にしないで下さい」

「あの後…本当はすぐにでも謝罪に来るべきだったんですけど…」

「あーーー!そんな!やめてください!あれはもう解決した事ですから!お互い様と言う事で!!」

「本当に申し訳ありませんでした」

「こちらこそ、申し訳ない事をしてしまいました」

「本当ですよ、部長」

「千影君…君だってノリノリだったじゃないか…」

「ふふ、いいんです、あれは本当に私がどうかしてましたから」

「いや、ストレスというのは本当に恐ろしいものですからね…」

「…はい」


社交辞令ではなく、本当にそう思う。

このストレス社会、誰しもある程度のストレスを抱えてはいるだろう。

学校や会社での人間関係や、トラブル。

親、兄弟、夫婦間での確執や、今ではインターネット上でのトラブルも決して少なくない。

精神的なダメージと言うものは目に見えないだけに、他人には理解され難い傾向にある。

だが、その(じつ)、しっかりと肉体にもダメージが出るという恐ろしいものだ。

有名なのは胃に穴があき出血する胃潰瘍だろう、他にも喘息やアトピー、下痢や便秘、頭痛、腰痛、関節痛…その他にも様々な病気や異常を引き起こす。

更に追い込まれた人間は、自らその人生にピリオドを打つ事もある。

それも、決して少なくない数の人間が。


「あれで、貴女の事を逆に追い詰めてしまわないか…私達も軽率な行動でした…すみません」


千影君も私と同じ事を考えたのか、頭を下げ謝罪する。


「やめてください、私は…本当にあの件から憑き物が落ちたみたいに楽になったんです…」

「だといいのですが…」

「…そういえば…」


キョロキョロと部室を見回し、彼女が訊ねる。


「私が脅かしてしまった彼は…?」

「え、ああ、今はその、休みを取っていましてな!はは!」

「そうでしたか…前に一度お会いした時に何かあったらとここを教えて貰ったので…」

「そうだったのですか、という事は…何かがあったのですかな?」

「……はい」




〜スレンダーマン〜




「スレンダーマンですか、また珍しい名前が」

「ご存知なんですか?」

「ええ、我々なんせ都市伝説けんきゅうかいですから」

「こちらをどうぞ」


千影君がそれほど厚みのないファイルを一冊出してくれる。


「スレンダーマン、2009年にサムシング・オーフル・フォーラムというアメリカのサイトで生み出された架空の存在」

「架空の…」

「そうです、フィクションの存在ですな」

「………」

「見た目は細身で異常なほどの長身、手足も長く黒い背広を着用、そして顔はのっぺらぼうや口だけの物が多いですな」

「黒い…背広」

「子供を狙う事が多く、ストーカーや拉致、心にトラウマを植え付ける等と様々な事をしてくる化け物…?妖怪?」

「アメリカの話なんですか?」

「生み出されたのはアメリカですな、ただその人気は高く、一気に広がりました」

「……」

「恐怖体験、ファンアート、コスプレ、ゲーム、映画、あらゆる媒介で彼は知られるようになった…」

「初めて知りました…」

「日本ではそこまで有名ではないですからな、怖い話や怖いゲームが好きな人は知っている程度ではないでしょうか?」

「……」

「だが人口比を考えると…昭和の口裂け女と同様、いやもっとかもしれませんな…それだけの人間がスレンダーマンに恐怖した…という事です」

「それで、そのスレンダーマンがどうされたんですか?」


千影君が先を促す。


「はい…この間、私の母の田舎に行った時の事なんですが…」

「お母さんは息災ですかな?」

「はい、おかげさまで、足もよくなり、私も転職する事ができて、大きなストレスは感じなくなりました」

「それはよかった、おっとすみません、それでどうされましたかな?」

「田舎は近畿地方の山の方で、祖父母のお墓も山間にあるんです」

「ふむ、よくありますな」

「そこにお墓参りに行ったんですが…そこで妙なものを見てしまって…」

「妙なもの…?」

「真っ黒な…背の高い何かです…」

「………」

「2m以上はあったと思います…それが…山の奥からこちらを覗いていて…」

「ハッキリと見ましたか?それの姿を」

「いえ…ただ、変な音を出しながらゆっくり近付いてくるのが分かったんで…母を連れてすぐ逃げました…」

「変な音……ポポポとかですかな?」

「ポポポ?いえ、ブブブとか…ズズズズって感じだったと思います…」

「八尺様ではないか…」

「?」

「いやすみません、ちなみになぜそれがスレンダーマンだと?」

「知人に相談したんですが…信じてもらえず…「黒くて長身ってスレンダーマンじゃあるまいし…変な人がいただけでしょ」と言われ…でもあれは…人では…いえ、動物ですらなかったんです…なんと言えばいいのか分かりませんが…」

「ふむ」

「母の田舎には頻繁に行っているので…何か対策をと思いまして…それで…以前の事を思い出して…失礼を承知で相談させてもらおうかと…」

「いや、失礼ではないですし、間違ってもいないですな」

「?」

「人間はいくら友人や家族の言う事でも、突拍子のない事はなかなか信じることができないのですよ」

「………」

「成長と共に固定概念が形成されますからな、それを覆すのは実際に見た時くらいのものです」

「そう…ですね…」

「ですから、ここに来られたのは正解です」

「え?」


ニカリと笑って続ける。


「我々、少々特殊ですからな」



矛盾とかしてないかな

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