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きさらぎ駅【別】


「このまま進んで帰れるとして…どこの駅に出るんでしょうね」

「そういえばこの電車は我々が乗ってきた電車では無いんだったね」

「この女性の住所の近辺に出るのでしょうか?」

「景ちゃんの時はどうだったの?」

「いやー…正直覚えてないんだよな…でも乗ってきた電車に乗れたから近くに帰れたんじゃないかな…」


なんだかズキリとこめかみが痛む。

ガタンゴトンと電車は揺れながら俺達を運ぶ。


「どうしましょうか…沖縄とか北海道に辿り着いたら…」

「まぁその時は観光しながら帰れば…あ!!財布を置いてきたのは失敗だったね…うぐ…」

「国内なら大丈夫ですよ、近いに越したことはありませんが…」


ようやく弛緩した空気が流れたものの、長い長いトンネルを進む車内には、次第に沈黙が訪れていた。


「……」

「……」

「ねぇ…景ちゃん…」

「ん?何?」


沈黙が続いた車内で、おずおずと姉が話しかけてきた。


「私さ…1つだけ嘘ついてたんだよね…」

「いいよいいよ、そんなの気にしてないから」

「え…でも」

「それより本当に長く待たせちゃってごめんよ、帰ったらゆっくり休もう!あんな所じゃ全然休まらなかっただろうし」

「それはそうだけど…景ちゃん?」

「都市伝説けんきゅうかいにも入ったらいいよ!二人共良い人だし、ここにはいないけどヘビのくねちゃんもいるんだよ」

「………」

「千影さんのお菓子のセレクトも、部長の聞かせてくれる豆知識も最高だし…」

「景君…?」

「色々な事があったんだ、そうだ姉さん、くねくねって知ってる?」

「け…景君?」

「田舎で目撃される都市伝説なんだけど…なんと俺達もそれに遭遇したんだよ!」

「…………景ちゃん」


急にベラベラと姉の話も聞かずに話し続ける俺を、部長も千影さんも(いぶか)しげな目で見ている。


「他にも色々な都市伝説と遭遇したんだ、解答さんとか…てけてけもいたよ!」

「…景ちゃん…」

「てけてけなんてさ!正体は猿で解決かなって思ったんだけど、実は本物の化け物が……」

「景ちゃん!!!」

「!!!」

「………景ちゃん、聞いて?」

「………いいって、嘘くらい気にしてないから…わざわざ謝らなくても」

「景君……一体どうしたのかね?」

「大丈夫ですか?」


2人はあまりにも態度のおかしい俺を心配してくれている。


「私さ…」

「姉さん…いいから…本当に…気にしてないから…」

「怖かったんだよね…あの町」

「………」

「絶望なんかしてられるかー!って言ったけど…やっぱり心細くて…景ちゃんが本当に来てくれるのか…心配で…」

「……でもちゃんと来たろ?」

「ふふふ、うん、そうだね、だけど私は怖くて怖くて…絶望しちゃったんだ…そして…そのまま…取り込まれちゃったんだと思う」

「!!」

「!?」

「でも…こうして姉さんは…いるじゃないか…」


俺は(うつむ)きながら反論を試みる。

無駄な反論だと分かっているくせに、勝手に口をついて出る。


「…あの町は誰かが怖いと思ったものが実現する」

「恐怖を取り込み町が広がるとおっしゃっていましたな…」

「私はね…『この町にずっと取り残され、縛られ続ける』事を怖いと思ってしまったの…」

「…………」

「………」

「だから、絶望して…取り込まれた後もこうして縛られ続けていたんだと思う…それが怖かったから…」

「姉さん…」

「景ちゃんにはバレてたかな?」

「時間の流れが違う割には…俺を見た時にすぐ俺だと受け入れてくれたし…遅いよって…言ってたしね……」

「さすがだなー!優秀な弟だー!」

「それに…」


姉と繋いだ手を見ると、先程までとは違い、薄っすらと、本当に薄っすらとではあるが透けているように見えた。


「でも、このまま一緒に帰ったら!一緒に戻れるかもしれないだろ!?」

「そうだったらいいなぁ…」


ガタンゴトン

ガタンゴトン


「そうなんだって!皆には俺から説明するよ!見た目は若いけど姉さんなんだって!」

「ふふふ、自慢の姉だね」


ガタンゴトン

ガタンゴトン


「嫌なんだよ!せっかく会えたじゃないか!なんでだよ!」

「泣かないで…景ちゃん」


暗いトンネルをどんどん進む。

そして進むほどに姉の姿は徐々に薄くなる。


「なんで姉さんを2回も…嫌だ!もう離さないって…」

「景ちゃんは助けに来てくれたよ…私はもう全然怖くないの、あの町にいた時は凄く怖かったのに…」


何度目だろう、姉に優しく抱きしめられる。


「嫌だ、嫌だよ、姉さん!!」

「甘えたさんだなぁもう」


腕の中の姉の質量が薄く、不安定になるのが感じられる。


「待って!待ってくれ!」

「お二人もありがとうございました…景ちゃんを…何卒…お願いします」

「………うむ」

「風さん……」


電車の進む遥か先、米粒ほどの小さな光が見える。


「まだ間に合うよ!ここで降りる!俺は!俺はもう…」

「馬鹿言わないの…でも…駄目だなぁ…嬉しいって思っちゃうなぁ…」

「姉さん……」

「景ちゃん…私、嘘ついちゃったけど…今から言う言葉は嘘じゃないよ」


姉は真っ直ぐに俺を見つめてそう言う。


「私は景ちゃんに救われたの、本当に嬉しいし…感謝しかないの」

「嫌だ…そんな…別れみたいな…」

「ありがとう…頼りになる弟を持って、本当に幸せだよ」

「姉さん!!」

「景ちゃん、私みたいな人を助けてあげて、景ちゃんならできる」

「ま、待って…ま……」

「ふふふ、次に景ちゃんを見る時はおじいちゃんになってる時かな?」


トンネルの出口の光が近付き、それと同時に姉の姿は薄くなり…


「うわあああああああああ!!!!!」


俺の腕の中で、姉の姿が完全に消え、辺りは真っ白な光に包まれる。


目の前の景色がグニャリと歪み…俺の意識はそこでブツリと途切れた。



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