きさらぎ駅【話】
「なるほど、なるほど…」
部長は1人で何かを納得したように呟く。
「この町にいる怖いモノというのは、恐らく犠牲者達が深層心理で恐れていたモノ、そしてこの町で絶望すると我々もこの町に取り込まれてしまう…」
「…恐らくは…」
「脱出方法はご存知ですかな?」
「景ちゃんの事があるので…きっと乗ってきた電車に乗れれば帰れるのではないかな…とは思うのですが…」
「ふむ…」
「でも今ここに停車する電車は、私と景ちゃんが降りた時程ホームに停車していません…」
「言われてみれば…俺達がついた時もすぐ発車しましたね…」
「それも町の成長と関係しているのかは分かりませんが…どんどん停車時間は短くなっているような気がします…」
「餌を効率よく取り込む為かもしれませんね…」
千影さんの言葉に身震いする。
「例えば、次に誰かを乗せてくる電車に乗ったらどうなるのでしょうか?」
「分かりません…というか…駅に誰かがいる時には決して電車は来ないんです…」
「ふむ…」
「私や、他にも駅で待った人はいたのですが…諦めて駅を出たり、怖いモノに追われて駅から逃げた時に電車が来る事はあっても、駅でじっと待っている時には決して電車は来ませんでした…駅の外からなら電車が来たのは分かるのですが…あっという間で…」
「それが私達を逃さない為のこの町の手段なのでしょうか…」
「…大ピンチですね…」
絶望してはならないと聞いたばかりなのに、不安しかない現状に早速弱音が出てしまう。
「なぜだい?」
ところが部長は平然とした様子である。
「なぜって…脱出方法が無いなら…」
「何を馬鹿な事を、逆だよ、大チャンスと言って良い」
「なぜです?」
「なぜ誰かがいると電車がこないと思う?」
部長は俺の質問には答えず、質問で返してくる。
「そりゃ…それに乗られない為じゃないんですか?」
「そうだね、じゃあなぜ乗らせないようにするんだい?」
「逃がさない為でしょ?」
「そう!それは裏を返せば電車にさえ乗る事ができさえすれば逃げられるという事だ!」
「まぁ…そうですけど」
「これは素晴らしい情報であるよ!帰る方法があるのと無いのでは天と地の差だ!」
「まぁ…」
「帰る方法がなければ我々も絶望してしまうだろう、だがこれでその心配はなくなった!」
「うーん…」
「あとは…乗る方法だけであるよ!」
「部長…ですからそれが問題なんですよ…」
「いやいや、我々は降りれないはずの電車から降りてここに来れたのだ!逆に乗れない道理はないであろう!」
「部長らしいですが…その方法が無いと確信してしまったら絶望しちゃいません?」
「しちゃいません!!」
ハッキリと断言する部長。
「今は見つからなくても必ず見つかる!それが遅いか早いかだけの事だよ!」
血塗れのタオルを巻いた拳をグッと握り込む。
「変わった人だね、景ちゃん」
「そうなんだよ姉さん…でも」
「でもそこが…いいんだ?」
「まぁ否定はしないかな」
何も根本は解決していないのだが、先程までの弱気に飲み込まれそうな気分ではなくなっていた。
「とは言ってもある程度具体的に考えないと難しいですよ…」
「そうだね、ちなみに電車に乗らずに線路を歩いていくとどうなるのだろうか?」
「それは…いつの間にかきさらぎ駅に着いてしまってます…なぜかは分からないですけど…」
「あー…俺もそれさっき経験しました…」
両足に追われている時にT字路がループした事を説明する。
「俺もよくわかりませんが…これも何かルールがあるんですかね…」
「ふむ…」
「電車に乗らないと駄目、というのがポイントになりそうだね…」
「可能なんでしょうか…」
「なーに…幸いと言おうか…町が広がったおかげで使えそうな物は色々と手に入りそうであるし…」
「商店街もありましたしね…でもそう都合よく良い物に出会えますかね」
「外には怖いモノ達もいますよ?」
「ふむ…そう言えばお姉さん」
「はい?」
「千影君を保護してくれて本当にありがとう」
「え!?いえ!そんな」
「ちなみになぜここが安全だと?」
「えっと、この家も怖いモノではあるんですけど…怖いけれど無害なんです」
「追われたり、傷つけられたりはしないって事?」
「うん、それと怖いモノ同士は干渉し合わないみたいで…」
「なるほどなるほど…怪異に襲われるとしても一種類ずつだけという事ですな」
「はい」
「てけてけと口裂け女に同時に襲われる事は無いって事ですね」
「そうだね、だがそれは怪異同士をぶつける事もできないと言うことだ、気を付けていこう…」
「はい!行こう、姉さん」
俺は姉の手を握る。
いつかのように離してしまわないように、ギュっと強く。
「まずは商店街で使えそうな物を回収だね」
「固まって行動しましょう、せっかく合流できたんです」
「うむ、完全同意だ」
「では部長…その…なんと言いますか…あの…」
千影さんが俺と姉をチラリと見ながらモゴモゴと口ごもる。
「あ!…そうであるな!うむ!我々も!安全の為にであるけれども!」
気付いた部長がしどろもどろになりながら、千影さんの手を握る。
「わー」
「こら、姉さん、茶化さない」
「ち!違うぞ!あくまでもはぐれない為にだね!」
「ふふふ」
耳まで真っ赤な部長はそれでも千影さんの手を離す事はせず、俺達は4人揃って一歩踏み出した。
会話多いのでダレてないといいですが




