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きさらぎ駅【再】


「俺、ついに家を買ったぞ!」


男は嬉しそうにそう語る。


「よかったじゃないか、その年で一国一城の主とはなー、羨ましいよ」

「ふふふ、都内でもかなり安くに手に入ってな、いい買い物をしたよ」

「事故物件とかじゃないだろうな?」

「やめてくれよ、皆それ言うんだから」

「ははは、やっかんでるのさ」

「……いやそういうんじゃなくてさ」

「…何かあったのか?」


男は口淀みながらも、先日の話…と前置きをして話してくれた。


「他の友達数人に報告したら、家でお祝いの飲み会をする事になったんだ」

「うん」

「それは良かったんだが…その日泊まった奴等が口を揃えて…「なんか気配がする」だとか「気持ち悪い」とか言うんだよ」

「からかってるんじゃないのか?」

「俺もそう思って最初は笑って済ましてたんだけど…どうにもしつこくてさ…カッとなって喧嘩しちゃってさ…」

「お前は何か感じたり、変な体験はしてないのか?」

「ないよ!だからついイラッとして………あ」

「ん?どうした?」

「いや…おかしな体験とかじゃないんだけど…買った覚えもなければ持ち込んだ記憶もないクレヨンが一本落ちてたな…」

「クレヨン?」

「うん、青いクレヨン、でも本当にただのクレヨンだし…前の住人の忘れ物がたまたま出てきただけかもしれないだろ?」

「うーん…そうだなぁ…それ以外には?」

「なーんにも、物音一つしないよ」


ならせっかくだし検証してみよう、という事になり、そのまま男の家に向かう。


「いい家だな」

「だろ?」


2人で部屋を見て回り、リビングでお茶をご馳走になる。


「どうだった?」

「うん…やっぱおかしいなこの家」

「な!なんだお前まで!!」

「違う違う、聞いてくれ、単純に間取りがおかしいんだよ」

「間取りが?」

「部屋の見取図あるか?まぁなくても分かるとは思うんだが…この廊下の先、もう一部屋あるだけのスペースないか?」

「ん?」

「奥だよ、小さいけどもう一部屋ないとおかしいんだよ、デッドスペースと呼ぶには大きすぎるし意味が無い」


2人して廊下の奥に目を向ける。


「確かに…」


廊下の奥、右手、若干ではあるが不自然に壁紙が新しいように見える。

ゴクリと唾を飲み込み、意を決して壁紙を剥がすと…その向こうから打ち付けられた扉が一枚顔を出した。


「なんだよこれ…」

「開けるぞ?いいな?」


バキバキと激しく音を立て、その扉を開けると………


壁中に青いクレヨンで『お父さんあけてよお父さんあけてよお父さんあけてよお父さんあけてよお父さんあけてよ』とビッシリ書かれた部屋が出てきたのだ。




「これが元々の話だね」

「こわいですね…」

「元々は青いクレヨンだったんだが、話が広がる過程で赤いクレヨンになったり多少の変化が見られるね」

「なるほど…」

「更に言えば、この話は有名芸能人の創作話である事が明らかになっている」

「そうなんですか?」

「うむ、にも関わらず都市伝説として語られる程に広がったわけだ」

「それって凄いですね」

「そう、それ程までに恐怖度もリアリティも高い、素晴らしいクオリティの話だったという事だね」


部長は見つけた赤いクレヨンをしげしげと見つめながらそう教えてくれた。


「ならここに赤いクレヨンがあるという事は」

「うむ、隠された部屋がありそうだね…」

「……にしても…なんなんですかね…この町は…なんで都市伝説が具現化してるんですか…」

「誰かの意識下なのだろうか…ここは…精神世界と言おうか…」

「まーた複雑な話になりそうですね…」

「なんにせよ明確な答えは得られ難そうだねぇ……」


そう会話しながら閉ざされた部屋を探す。

本当にこの理解し難い空間に一人きりだとしたら…あっという間に気が変になっていてもおかしくないだろう。

目的の場所はすぐ見つかった、先程の部長の話同様に廊下の奥、壁紙の新しい場所が目の前にある。


「やっぱりか」


バリバリと壁紙を剥がし、そのまま打ち付けられた扉も乱暴にこじ開ける。


「千影さん!」

「千影君!!」


異様な部屋だった。

真っ赤なクレヨンで壁中に書かれている物は『目』。

大小様々な目が所狭しと描かれていた。

そして、部屋の真ん中に千影さんが倒れている。


「千影君!!しっかりしたまえ!」


部長が肩を揺すると次第に千影さんが意識を取り戻す。


「ん…んん…」

「大丈夫かね、千影君…」

「え…ぶ…部長…ですか?本当に…?」

「景君のおかげで我々も降りる事ができたのだよ、待たせてしまったね…すまなかった」


その言葉で千影さんは部長にしがみつく。

よほど怖かったのだろう、肩が震えているのが見て取れた。

最悪の事態は回避できたようで一安心だ、脱出方法はまだ分かってはいないが…

部長は千影さんの背を(さす)りながら、彼女を労っている。

俺も勿論千影さんが無事で嬉しいし、本当ならすぐにでも声を掛けたかった。

けれど今、俺を、俺の視線を釘付けにしているものは千影さんでも部長でも、ましてや異様な部屋の様相でもなく…


「………」


部屋の隅で俺達3人の様子を見て微笑む、少女の姿であった。


「………姉さん」


俺の口からは自然とそう発声された。



再会です

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