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きさらぎ駅【索】


「にしても」

「この短時間でどこに向かってしまったのだろうね」


改札を抜け、田舎とも都会とも言えない程度の町並みを歩く。

駅を出て右手には住宅街、左手には商店街らしきものが見えたので商店街を目指して歩いていく。

2人で手分けしたかったのだが、スマホを見てみると圏外になっており、別れるのはかえって危険だという事になった。


「圏外じゃ千影さんにも繋がらないですしね」

「手掛かり全く無し…か」


辺りに人影や人の気配は一切無く、どこまで見ても民家に明かりすらついていない。

スマホの時計を確認すると時間は昼の12時をまわったところだった。


「それに昼間だってのに何ですかこの暗さ…」

「気が滅入るね…ジメジメとしたこの空気も…千影君もいればこんな空気でも楽しく探索できたかもしれないがね」

「部長なら楽しめそうですね」

「せめて地図アプリでも見れればここが日本のどこなのかが分かるんだが…」

「日本なんですかねそもそも」

「そりゃそうだろう、駅の看板も日本語で書かれていたわけだし…」

「でも…これ見てくださいよ」


電柱や、民家を見てみるも、住所は記載されておらず、それどころかスーパーの看板だと思わしき物の文字は、まるでパソコンの文字化けのような訳の分からない文字で表記されていた。


「おっと…これは…さすがにクルものがあるね…」

「ですね…」

「…しかし怖がってばかりもいられない」

「はい」


スゥ~と隣で部長が大きく息を吸い込む。


「おおおーーーーーい!!千影くーーーん!!」


そして大声で叫ぶ。

静まり返っているこの町に、その声はとても大きく響き渡る。


「………」

「………」


しかし返答らしきものは無い。


「千影さーーーーーーーん!!来ましたよーーー!!」


俺も(なら)って大声で叫ぶが、返ってくるのは痛いほどの静寂だけであった。

商店街を中程まで進んだ所で一旦足を止める。


「どうします?進みますか?方向が逆ならどんどん離れてしまうかも…」

「この町はどれだけ広いのか…それも分からないしね…」

「千影さんが声も出せない状況なのだとしたらお手上げですかね…」

「だが…(さと)い彼女ならきっと何らかの方法を…」

「今回は部長…何か秘密兵器は持ってきてないんですか?」

「備えあれば…と言いたいが…今日は探索というよりは息抜きのつもりだったからね…」


ゴソゴソと鞄を探しながら部長が言う。


「フリスビー、赤外線ゴーグル、十徳ナイフのナイフを外した物、ロープ、シャボン玉、カロリーバー、ライター…GPSなんかもあるがスマホと連動するタイプなので、電波のないここでは意味が無いね…」

「なんですかそのまとまりのない…」

「適当に入れてる物が多いからね…」

「ドローンがあればよかったんですけどね…」

「ふむ…」

「赤外線ゴーグルって…使えないですかね」

「さすがに人が通っただけの道に熱は残留していないだろうが…見てみようか…」


スキーゴーグルを少し大きくしたようなゴーグルを部長が装着する。

キョロキョロと辺りを見回すも、何も見つからなかったようで落胆の息を漏らす。


「やはりそれらしい物は…ん?」


何かを発見したらしい部長は少し遠くを見つめている。


「あそこの地面に何か…」


電気すらついていないアーケード街は、ただでさえ薄暗い町を更に暗く陰鬱な物に変えている。

辺りにはゴミも散乱しており、ただ歩いているだけでは見落としていたかもしれない。


「熱源がある…ほんの少しだけどね」


部長の指し示した場所に向かうと地面に何か液体が撒かれている。


「これ…味噌汁…?豚汁…?ですかね…」

「今しがたこぼされた物のようだね、これは…」


そこしゃがんだ部長は躊躇うことも無く、その液体を指につけ、ペロリと口に入れる。


「部長!何を!」

「豚汁だね、千影君が作ってくれたものだ」

「え!?」

「以前、一度ご馳走になった事があってね、またぜひとお願いしていたんだが…今日この日の為に作ってくれたに違いない」

「分かるんですか…?」

「進もう」


部長の目に迷いは無い、確信を持っているようだった。

それを俺も信じ、歩を進める。


「にしても…いきなり謎のものを口に入れないでくださいよ…毒だったらどうするんですか…」

「はは、すまない、そうだね…ヨモツヘグイの危険もあるしね…」

「ヨモツヘ…なんですか?」

「知らないかい?黄泉竈食(よもつへぐい)…古事記に書かれているんだが、黄泉の物を口に入れてしまうと決して現世に戻る事はできない…というものだ」

「何ですかそれ…やばいじゃないですか」

「まぁ…ここが黄泉だとしても…口に入れたのは千影君の豚汁だからね、大丈夫なはずなんだけど…」

「絶対ですか?」

「………多分」

「もうやめてくださいよ」

「………はい」

「お弁当楽しみですね」

「うむ、しかし張り切って朝食まで抜いてきたのに…タイミングの悪い」

「ははは」

「ふはは」



ジャリ



「ん?」


ジャリ、と俺達の笑い声に紛れ、何かが地面を擦る音がした。




無駄に長くならないようにせねば

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