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てけてけ 其の13


翌日の行動は迅速かつ丁寧に。

子供達には『プリティキューティのメロディが苦手のようでそれで逃げていく』という噂を流し、都市伝説を信じていない大人達には『子供達でも分かりやすいようにプリティキューティの主題歌を歌って貰うようにしている、歌う事でそこに子供がいるというアピールにもなるし、獣が出るのであれば物音には警戒もするだろう』と少し強引ではあるがそう説明しておいた。

ただ、証言をしてくれた、所謂『実物を見た』という大人達にはある程度の真実を混ぜて説明しておく。

もしかしたら『歌』であれば何でもよいのかもしれないが、検証する方法もなければ、したいとも思わないので確実な方を選ぶことにした。

そして夜、決して1人では出歩かない事、どこかに行く時も複数人で!というのを付け加える。

てけてけの力がどれほど強いのかは分からないが、部長と千影さんが隔離された点を見るに、まだ複数人の相手はできないだろうという考えからだった。


「とりあえずは…これで成り行きを見守るしかないですか…」

「であるね…」


俺達を知っているヒカルちゃんやその弟君達の全面協力もあり、改定されたてけてけの噂は瞬く間に広がった。

その日の放課後には帰り道に幾人もの子供達がプリティキューティの主題歌を歌っていたり、不審者を警戒して子供たちを迎えに来る親の姿もあった。


「あまり噂が広がりすぎて、逆にまた恐怖が広がっても…とも思ったが…大丈夫そうかな?」

「この周辺は今まで大きな事件や事故もなく皆さんの警戒心も緩んでいましたから…もしかしたら良いきっかけになったのかもしれませんね」

「それにしても…結局あいつは何だったんですかね?」


千影さんがくれたべっこう飴を口に放り込みながら、そう疑問を口にする。


「ふむぅ…」

「やっぱり人の恐怖が具現化したような存在だったのでしょうか?」

「それなんですけど、いくら猿の件があったとは言え、そんな…なんて言うか…実体を持つほどの恐怖が蔓延しますかね?」

「そうだね…自分であれだけ言っといて何だが、私もそこは非常に気になっているんだよ…」

「そうですよね」

「猿の件があって多少は信憑性も増しただろうが…当時の昭和の恐怖には及びようもないはず…」


そこまで言って部長がハッとした表情を見せる。


「いたのか…昭和から」

「え!?」

「爆発的な恐怖によって、いるかもしれないという信憑性によって…あいつらは生まれた…昭和のあの都市伝説最盛期にね」

「でも…」

「だが時は流れ、都市伝説は創作としてその熱量を失い、やがて恐怖も薄れていく…」

「………」

「そして、生まれた彼等もその姿を消した…」

「………」

「だが、彼等は決して消えて無くなった訳ではなかったんだよ…薄く、薄く、誰かに影響を与える力もないが、確かにそこにはいたんだ…」

「それが…今回の猿の件で…」

「恐怖を得て、切っ掛けを得て、具現化したのかもしれない…」


俺はゾクリと何かを感じた気がして辺りをキョロキョロと見回す。

当然そこには何も居ない。


「以前おっしゃっていた具現化のトリガーという話ですね」

「そう、我々が認知できていないだけでそこにいるのだよ、てけてけも他の都市伝説の存在達も…だから些細なトリガーでも…その姿を表す事が出来るのかも…」

「……」

「もしくは、景君が行ってしまった薄皮一枚向こうの世界…彼等は普段はそこにいて、何かの切っ掛けでこちらとあちらが繋がってしまう…そういう可能性もあるね…」

「ありそう…ですね…」

「とは言うものの、それだけでは説明できない程にここ最近、不可解な出来事が多くなっているような気がするがね…」


神妙な空気が流れる。


「そ、そう言えば!」


パンと手を叩いて千影さんが声を上げる。


「部室の卵が孵りそうでしたよ!今日の朝に見て来たのですが」

「おお!!」


なんだか重くなった空気を変えようと、精一杯明るい声で千影さん続ける。


「ふふ、おかしな様子がなければ皆でまた山にかえしてあげに行きましょうね」

「そうであるな、大自然で生きるのが一番であろう」

「山は山で危険が多いんじゃないですか?」

「そうだねぇ、有名どころではヤマノケとか邪視とか…」

「いやそういう危険じゃなくて…」

「え!?」

「蛇にも敵はいますよね?マングースとか…」

「ふふ、このへんにマングースはいませんけど、イタチ科や猫科の動物は蛇の天敵ですね、他には鷹等の大型鳥類、カマキリや蜘蛛も蛇を捕食する事があるそうです」

「へー!蛇って強いイメージあるんですけどね!」

「案外弱い生き物らしいですよ、大型の蛇や猛毒を持つ蛇はまた違うのでしょうが」

「だとすると、あれだけ大型で特殊能力のあったくねくねは…」

「正に王者だったでしょうね」

「…」


そんな話をしながらプリティキューティの主題歌を歌いながら帰る子供達を見つめる。



その後のことを少し語ると、この辺りでプリティキューティの人気が再熱、シナリオの良さも手伝ってか、子供から大人までかなりの人気に。

それに伴い主題歌もあちこちで耳にするようになり、次第にてけてけの話を聞くことはなくなった。

結局、恐怖がトリガーだったのかは分からないが、あの歌が対処法だったと言うのは間違いなさそうだった。

あいつはまたあの誰もいない薄皮一枚向こうの世界に帰ったのだろうか?

あいつのあの姿、そして最後に聞いた、低い低い「おい」というあいつの声は決して女性の声ではなかった。

あれはてけてけが力取り戻す前だったからなのか…

それとも全く別の何かだったのか…

答えはあいつの姿と共に消えた。


「また会いたいとは思わないけどな」


耳元に残る不快感を払うように俺は首を振った。


ようやくてけてけ編はおしまいです

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