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てけてけ 其の11


どこかで聞いたことのあるような楽しげな曲の響く音楽室。

問題は俺が何をすればいいのかが分からない事。


「このままだと…奴も入ってきて…それでどうなる?」


けれど先程まですぐ後ろにいたはずのてけてけは音楽室の扉の前でジッとこちらを睨みつけ、入ってこようとはしない。

眼の前の扉は開け放たれているというのに。


「?」


今まで無表情だったあのマネキンの様な顔に明らかに不服そうな…と言おうか、憎々しげな表情が浮かんでいる。


「勝手に鳴るピアノを警戒してるのか…?」


そう長くない曲が終わり、また最初からその曲が始まる。

どうやら千影さんが同じ曲を何度も弾いてくれているようだった。


「だけどここからどうすればいい…」


周りを見渡すも何か有用な物は……


「あった」


それは紙切れ、しかしただの紙切れではない。

なんだかんだで頼りになる部長の残してくれたメモに違いなかった。

俺は奴から視線を離さないままそのメモを拾い…読み上げる。


『転んでドロだらけ、ママはシミになるって言うけど、見てよこの形可愛いウサギに見える!テストで悪い点、だけど私は丸暗記だけじゃ、覚えられない物を沢山探してる!まーっすぐ!まーっすぐ!進めー!プリティ!キューティ!誰かを守るのはー、プリティ!キューティ!私が引き受けたー!プリティ!キューティ!涙のその後はー、大切な!日々を!笑顔で過ごそうよー!〜TVOPshort ver〜』


「え!?」


一瞬本当に意味がわからなかった。

けれど、その文字の羅列の後に大きく『歌え!!』と書かれているのを見て、ようやく合点がいく。

これは歌詞だ、内容から察するに子供向けのアニメ、プリティキューティの物であることは間違いないだろう。

そういえばてけてけ対策の証言の1つにこれを歌ったとかいうのがあったような…


「冗談じゃないですよね…」


普段なら(からか)われているのかと思ってしまうような内容だが、この状況でそんな悪趣味な事をするような人達でないのは重々承知だ。

それにこの音楽のおかげかてけてけが襲いかねているのも事実だった。


「こ…転んでードロだーらけー♪」


何度かピアノの曲を聞いているうちに何となくメロディは把握できていた。

それもこれも千影さんが歌詞のある部分を分かり易く補完して演奏してくれているおかげであろう。


「ママはシミになるって言うけどー♪」


俺が歌い始めるとほぼ同時に、部屋の外のてけてけの様子が明らかに変わる。

眉間にシワ寄せ、あの真っ黒な瞳は怒りか憎しみかでつり上がっている。


「見てよこの形♪可愛いウサギに見えるー♪」


ギギギと歯を剥き出しにしてこちらを威嚇しているようにも見える。

この時初めて歯があったのかと、なんとなく間の抜けた事を考えていた。


「テストで悪い点ー♪だけど私は丸暗記だけじゃ覚えられない物を沢山探してるー♪」


ここでついに奴が一歩?一手?踏み出す。


「ままま、まーっすぐ…ま、まーーっすぐ!進め―!!」


そのまま苦悶の表情を浮かべながら勢い良く俺に近付いてくる。


「プリティ!!キューティ!!誰かーを守るのはーー!!」


そこで俺は恐怖のあまり目を閉じる。

勿論歌うことはやめない。


「プリティ!!キューティ!!私ーが引き受けたーー!!」


歌と言うよりは半ば叫びに近い感じで俺は歌い続ける。

ジャリとかギャリとか、恐らく奴の爪音のような物と、獣が喉の奥から絞り出すようなグルルという声?


「プリティ!!!キューティ!!!!」


その次の瞬間、ハッキリと、今まで聞いたことの無いような低い低い声が耳元でした。




「おい」




正直、チビりかけた。

いや、もっと正直に言うと数滴はチビッたかもしれない。

俺は半狂乱になってプリティキューティのサビを歌い続ける。


「プリティキューティ!プリティ!キューティ!!」


ドン!!と身体に衝撃が走り、ぐふっと声が漏れる。

奴に何かをされたのかと思い、恐る恐る目を開けると…


「景君!!景君!!」

「よかった!景君!!無事かね!?」

「プリ…ティ…キュー…」


そこには俺を抱きしめる二人の姿があった。



更新頻度を上げたい…

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