てけてけ 其の9
「部長!聞こえます!?」
叫んでみるものの、耳元から返答はない。
時折、ザザッっとノイズが聞こえるくらいだ。
「駄目か…」
部長に伝わってないのならこのままコンビニか公園のどちらかに向かうほうがいいのだろうか…?
それとも誰かに遭遇するように駅にまで…等と考えていると、学校の正門が見える。
てけてけ探索に思いの外時間がかかっている為、正確な時間は分からないものの、今はもう夜も更けている。
こんな時間なら当然、学校内に人は残っていないだろう。
にも関わらず、わずかに、人一人が通れる程度に正門が開いている。
「いる!」
誰かが学校にいる、恐らくは部長と千影さんが。
「通信が聞こえてたのか…部長の謎の超人じみた推理か…どちらにせよ助かった!」
俺はスピードを落とすこと無く、正門を素通りする…………と見せかけて、通り過ぎる直前に門柱を掴み、グルンと遠心力でそのわずかな隙間に身体を滑り込ませる。
俺の急な動きに反応できなかったてけてけはそのまま正門通り過ぎ、地面に爪を立てて急ブレーキをかける。
「もうそのまま帰ってくれてもいいんだけど?」
横にスライドさせるタイプの重い正門を閉めながらそう言ってみるも、眼の前のてけてけはその虚ろな黒い瞳をジロリとこちらに向け、ゆっくりと近付いてくる。
「こわ…でも合流しさえすれば…」
キョロキョロと周りを見渡すも、どうにも人の気配がない。
「学校の中って事はないよな…」
今は学校でさえセキュリティがかかってる時代だ。
人感センサーや鍵を正当な手段以外で開けた場合に通報する装置。
様々なセキュリティで不法侵入ができないようになっている。
勿論、古くからある学校等で、そういった警備が全くない場所も多くあるが…
「うわ…」
遠く通路の先、玄関の扉が開いているのが見えた。
「大丈夫なのか?警察沙汰になったり…」
そう思ったが、今は化け物に追われている命の危機なのだ、むしろ警察や警備の人が来てくれる分には有り難いんじゃないだろうかと思い直す。
「どういう意図かは分からんが…信じますよ部長…!」
これで中にいるのが部長じゃなかった場合、どう転んでも俺には最悪な未来しか見えないわけだが…そこは考えないようにしよう。
てけてけが門に手をかけるのを横目に俺は学校の玄関に向かって走り出す。
走りながら後ろを確認すると、鍵をかけたわけでもないのに門を乗り越えようとしているてけてけが見えた。
「これでかなり距離を稼げる…隠れながら逃げて…部長たちと合流して…ん?」
玄関に足を踏み入れて気付く。
紙が一枚落ちている。
「これ…部長のノートの切れ端か…」
玄関を閉め、身を隠す場所を探しながらそのメモを読むとそこにはこうあった。
『景君へ、まずは1人にしてしまってすまない。私にも予想外の事が起こっている。君が何かを発見して、走り出した時点から君の姿が視認できない状態になっている。インカムが繋がる気配もない。異次元が云々の話を覚えているかね?もしかするとあれなのかもしれない。てけてけが恐怖を糧に力をつけ、どんどん凶悪になっているのかもしれない。』
「は?」
間の抜けた声を出してしまう。
『走り出した方向から学校に向かっていると予想している。私は玄関でそのまま君を待つ。もし私の姿が見えなければ本当に君とてけてけが別の次元?にいると考えたほうがいいかもしれない。このメモが君の手に渡る事があるだろうか…とても心配だ』
「ちょっと…それはやばくないですか…」
『景君、どうか落ち着いて欲しい、今の状況がてけてけの仕業だと言うのであれば恐らくてけてけを撃退さえ出来れば我々と合流できるはずだ。呪文は試しただろうか?飴も効かなかっただろうか?もしそれらが駄目だったのなら、そしてもしこのメモを読む事ができるなら音楽室の千影君の元に向かって欲しい』
「これ…てけてけがもっと凶悪になれば。このメモも読めなかった可能性があるって事か…?」
あんな化け物と完全に隔離された世界に二人きりなんて耐えられる気がしない。
「音楽室…何か考えがあっての事なんでしょうね…」
俺は隠れていた掃除用具入れをコソコソと這い出してメモの指示通り音楽室に向かう事にした。
「どこだよ音楽室…」
途方に暮れる俺がいた。
バッチリ体調を崩してしまいました
乱文失礼します
矛盾等、ご指摘あれば感激です




