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てけてけ 其の6


「とは言ったものの…」


俺達は数日前に訪れた場所と同じ場所を慎重に歩いていた。


「猿の時は運良くすぐ見つかりましたけど…そう何度も簡単にいきますかね」

「そもそも相手の正体も分かっていませんからね…」

「なーに、我々の都市伝説センサーは研ぎ澄まされているからね!!」

「以前も思ったんですが都市伝説センサーって何なんですか?」

「そりゃ都市伝説を嗅ぎつける特殊能力だよ!」

「…いつのまに私達はそんなものを…」

「ふはは!必然というやつだよ!」


なんだかよくわからない理論を振り回しながら部長は闊歩する。

時間は夕暮れと夜の間、空はまたすぐにでも視界の悪い闇夜になってしまいそうな薄暗さをたたえている。


「あ!」


そんな中、唐突に部長が素っ頓狂な声を上げるもんだから、俺と千影さんは揃ってビクリと身体を強張らせる。


「な、なんですか急に?」

「大事なことを伝え忘れていたよ!」

「え?」

「対処法だよ!対処法!てけてけのね」

「対処法って…この前聞いた呪文ではないのですか?『地獄へ帰れ』とかいう…」

「俺もそう思ってましたけど…」

「ふむ、その呪文も確かに対処法には違いないのだが…」

「といいますと…?」


部長は懐から1冊のノートを取り出す。

それは部室で見せてくれた今回の騒動の証言を纏めた物だった。


「今回の件は昭和当時のてけてけとは似て非なるモノでだね…ベースは勿論てけてけなのだが…」

「猿の件ですね」

「うむ、猿の件で過去のてけてけとは違う肉付けがされてしまっている…」

「あー…ごちゃまぜになっちゃってるんですね」

「そういう事だね、おかげで明確な対処法は未だ分からずじまいなのだが…」


ペラペラとノートをめくりながら部長が『対処法は?』と自身で書き込んだであろうページを開く。


「これは証言をしてくれた人達に『どうやっててけてけから逃げおおせたのか?』と質問したものだが…」

「はい」

「『誰かのもとに逃げ込んだ』『地獄に落ちろと呪文を唱えた』『気絶しただけ』『飼っていた犬が吠えた』『飴を投げつけた』『プリティキューティの主題歌を歌った』等々…」

「なんですかプリティキューティって…」

「子供向けのアニメだね、小学生の証言だ」

「飴を投げつけたって…口裂け女のべっこう飴と混同してませんか?」

「そうだね、とにかく証言では本当に色々な逃げ方が出たのでどれが正しいのかは分からないね…」

「そんな…」

「もしかしたらどれも間違ってるかもしれないし、どれでも正解なのかもしれない」

「また無茶苦茶な…」

「ただ、この中でもかなり信憑性が高いのではないだろうかと思うものもある」

「それは?」

「『誰かのもとに逃げ込む』というやつだ、実際に先生の所まで逃げた小学生もいるし、気絶していたと証言した人も、他の人に起こされて意識を取り戻している」

「なるほど…」

「てけてけが本物の都市伝説だとしたら相手が何人いようと襲ってきそうですけどね…」

「…違いないね」


ここで俺はおや?と思う。


「だとしたら、私達がこうして3人でいる以上、てけてけは現れないのではないですか?」


俺が思った事を千影さんがそのまま訪ねてくれる。


「その可能性も十分に考えられるね」

「じゃあ駄目じゃないですか」

「だがもし仮に複数人いれば安全というのであれば、これほど心強い事はない」

「そりゃそうですけど…」

「1人が囮になったとしても、残された2人は安全なわけだし、囮になった1人も2人の元に逃げ帰れば大丈夫という…」

「ちょっと待ってください…」

「何かね?」

「囮ですか?」

「景君に…ちなみに足は早いかね?」

「いやいやいや、まだ複数人だと大丈夫って決まったわけでもないですよね」

「景君…これ…よろしければ」

「?」


千影さんが俺の手の中にべっこう飴をいくつか渡してくれる。


「よろしければ…じゃないっすよ…」


ガクリと項垂れながらも、この中で1番逃げ足が早そうなのは自分なので仕方無く引き受ける事にする。本当に仕方無く…。


「まず景君を先頭に、我々は100m程後ろを着いていこう」

「結構近くにいてくれるんですね」


ホッとしたのも一瞬。


「それでグルリとこの辺りを回って、何もなければ、我々は更に100m程距離を離す」

「…」

「それでも何もなければさらに100m」

「………」

「そしてこれは高性能トランシーバーインカムだ、電話よりも音質はいいし、手も使わないで大丈夫!」


カバンから取り出したそれは、映画なんかでシークレットサービスが付けているような耳に装着できるタイプのトランシーバーだった。


「部長こういうの好きですよね」

「いやいや私はどちらかと言えば無骨な手持ちのトランシーバーのほうが好きなんだがね」

「それはなんとなくわかる気がします」

「全く分かりません」


男のロマンが分からない千影さんは怪訝そうな目でこちらを見ていた。


「景君、この辺りをグルリと回った時に、目印になるのは学校、公園、コンビニだ」

「はい」

「常に連絡は取り合うが、万が一通信が途切れたり、連絡手段が無くなった場合、最も近い目印の地点に向かう事」

「はい」

「こんな作戦を立てておいて何だが…決して無茶はしない事」

「…勿論です」


グッグッと屈伸をしながら答える。


「てけてけって時速何kmでしたっけ?」

「100kmとも言われているね」

「なんでもかんでも100kmですね…」

「分かり易いんだろうねぇ…時速60kmと言われても車の運転をしない子供なんかはピンとこないんじゃないかな」

「そういうもんですかね…」

「ちなみにキリンは時速60kmだそうです」

「キリン速いっすね…」

「だが子供でも逃げ切れている証言から100kmという速度はないだろう」

「そうだといいんですが…」


そんな会話をしながら俺達は距離を空け、既に暗くなった夜道を歩き出したのだった。



どうすれば面白くなるのだろうか

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