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てけてけ 其の3


キョロキョロと警戒しながら散策する。

夜の帳が下りると、この辺りは思った以上に暗く、視界の悪い場所だという事が分かった。


「暗くなって気付いたんですが、街灯が少ないですね」

「そうだね、住宅街も結構入り組んでいるし…これは正体不明の何かを目撃したら怖いだろうね…」

「…子供なら尚更ですよね」


自分が口裂け女に対してみっともなく狼狽した様を思い出し苦笑する。


「しかし部長…今回のてけてけ…一体何者なんでしょうか…?」

「うむ…確かに話を聞く限り、今までのてけてけとは明らかに別物であるからね…」

「人間でしょうか?」

「どうだろうか…だとすると…もっと年齢差関係なく目撃者がいてもおかしくないと思うんだが…」

「裸って証言が一致してる辺り、変質者かなとも思うんですけど…」

「うむ、ただ子供…いや子供に限らないな、人間というのは自分が実際には見ていなくても、他人の証言によって『そうだ』と思い込んでしまう場合も多々あるからね…」

「それは…ありますね」

「実際には肌色の服を来た人間かもしれないし、もっと言えば茶色の猫かもしれない」

「さすがにそれは見間違えないでしょう…」

「まぁ多少は大袈裟かもしれないが…でも経験無いかね?野良猫だと思って近付いたらビニール袋だったとか…」

「…それはありますね」

「人間の認識能力というのはそれほど曖昧だと言う事だよ」

「そんなもんでしょうか?」

「とはいえ」

「?」

「私は今回のてけてけやその他の都市伝説を否定しているわけではないよ?あらゆる可能性を考えているだけで…」

「何を今更…分かってますよ」

「てけてけが一笑に付される発言を気にしてるんですか」

「うぐっ!!」


いつかの部室での発言をどうやら気にしていたようだった。


「だって!あの発言は私がてけてけを否定したみたいに聞こえないかい!?」

「そんな風には思わなかったですけど…」

「私が一番都市伝説を信じなくてはならない立場だというのに…」

「いや…そんな事もないと思いますけど…」

「案外気にされてたんですね…」


なんだかしょぼくれてしまった部長を元気づけようと、疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。


「そ、そういえば部長!」

「…なにかね?」

「都市伝説の事なら何でもご存知の部長!」

「ふむ…何かね?」

「てけてけの対処法って…確か呪文って言ってましたっけ?それを教えてくださいよ!」

「ああ!そうだね!いざという時に知らないと困るからね!」

「はい!」

「まずは3日以内に10人以上に同じ話をする、これで呪いから解放されるという方法」

「えげつないですね…ねずみ算式に被害者が増えていくじゃないですか…」

「てけてけが有名な都市伝説になったのもこれが理由の1つだと思うよ」

「怖いですね…何か色々な意味で…それで呪文っていうのは?」

「『地獄に落ちろ』だとか『地獄に帰れ』と言うのが定説になっているね」

「なんか…可哀想ですね…」

「でもまぁ…やってる事は凶悪だからねぇ…」


そう言われてみれば、話を聞いただけの無関係の人間まで殺してしまうというのはなんとも無慈悲だと思わされる。

例えばてけてけの話を真実だと仮定して、1人の女生徒の呪いの思念というのはそれ程までに影響を与える事が出来るものなのだろうか…

なんて事をぼんやり考えていた俺は、前にいる2人がいつの間にか立ち止まり、無言になっている事に気付かなかった。

ボスッとそのまま部長の背中にぶつかってしまう。


「あっと、すいませ…」

「シッ」


ぶつかってしまった事への謝罪を遮って、部長が唇に人差し指を当て『静かに』のジェスチャーをしてくる。


「?」


その体制のままゆっくりと体をかがめる。


「こんなにも簡単に遭遇とは…ツイているのか…ツイていないのか…それとも…」


声のボリュームを抑えた部長が指差す方向、遥か前方。

公園の入口に、接触の問題だろうか、チカチカと瞬く街灯が設置してあるのだが、そこから少々離れた…明かりの届くか届かないかと言った草陰に何かがいる。

何かがいると認識した瞬間に背中にゾワリとした嫌なものが走る。

その何かのサイズは遠目では分かりにくいが子供程度の大きさに見える…つまり、猫かもしれないという説はどうやら却下のようだ。


「この視界の悪い中、よく見つけられますね…」

「私の都市伝説センサーは感度抜群だからね…」

「何ですか…あれは」

「よく見えないが…人ではないな…」


ゴソゴソと鞄の中を手探りしながらも、部長はあの何かから目を離さない。


「こちらにはまだ気付いていないようだが…」


カバンからゴトリと音を立てて取り出した物は何やら普通の物とは違う、何と言うかゴテゴテとした双眼鏡だった。


「備えあればというやつだよ、暗視機能付きの優れものだ」

「ちなみに部長の私物です」

「何でこんな物持ってるんですか…」

「部長…覗きは迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反の罪に…」

「千影君!違う!断じて違うぞ!!」

「都市伝説との遭遇は夜が多くなりますもんね…」

「そう!そうなんだよ!景君!」


なんとなくフォローを入れておく。


「くねくねのような事にはならないと思いたいが…もし私に異常があれば殴ってでも正気に戻してくれたまえ」

「部長…」

「2人がいてくれるから私も躊躇せずに行動できる」

「引っ叩く準備は万端です」


千影さんがビュンビュンとビンタの素振りをしてみせる。


「頼もしい限りだ」


そう言ってニコリと微笑んだ部長が双眼鏡を覗き込む。


「…………………」


部長が双眼鏡を覗き込んで数十秒…

住宅街にもかかわらず、生活音も殆ど聞こえてこない、そんな苦しい程の静寂を破ったのは…


「ふはははは」


部長の笑い声だった。


本当は部長じゃなくて会長なんですが

部長のほうが「それっぽい」ということで

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