てけてけ 其の2
「ほーれ!お菓子だぞー!皆このオニーサンにお礼言いなー!」
あれから近くの公園に着くと、彼女はそう言って周りの小学生達にお菓子を配り始めた。
「うわーい!」
「やった!!」
「俺これ好きー!」
「ありがとう、お兄さん!」
お礼が言えたのはその中でも女の子1人だけであったが。
「大量のお菓子を買わされた時はどうなることかと思ったが…」
ハイエナのようにお菓子に群がる少年少女を見ながら部長がそう呟いた。
「情報提供料と思えば安いもんしょ?」
「ふむ」
「なるほど、目撃者達を集めてくれていたのですね」
「やっぱ生の声がいいと思ったかんねー!」
「しかし、見ず知らずの人からお菓子なんか貰ったら親御さんに叱られないかね?」
「ヒカルねーちゃんの知り合いならダイジョーブだよなー」
「うんうん」
さっそくチョコバーを頬張りながら男の子が答える。
「お!思った以上に人徳が?」
「そ、そんなんじゃないって!弟の友達だから!!」
そう言いながらも、遠慮がちな女の子にも不公平にならないようにお菓子を渡してあげている彼女を見て、きっと普段から世話焼きで優しい子なのだという事が伝わってくる。
「人は見かけによらないねぇ…」
「オタクに優しいギャルは実在するのかもしれませんね」
「何か言った!?」
ギロリと睨まれて、ブンブンと首を横に振る。
子供達がお菓子に夢中な間、暫し穏やかな時間を楽しむ。
自然の多い公園は風が緑の香りを運んでくるし、心なしか空も澄んでいるように思える。
夜にはきっと綺麗に星が見えるんじゃないだろうか。
「さーー!んじゃそろそろ聞かせてもらおっかな!」
ヒカルちゃんがパンと手を鳴らすと…
「俺が見たのはね…」
指についたチョコをペロペロと舐めながら手前の男の子が証言してくれる。
「俺、塾通ってるんだけど、こないだは帰りに電車が遅れてちょっと帰るのが遅くなっちゃったんだ、それでこのへんに帰ってきた時には辺りも暗くなっちゃってて…」
「ふむ」
「んでこの近くの細い道を通り抜けてショートカットしようとしたら…なんか変なのが居た!」
「変なの…?」
「あれ絶対にてけてけだよ!裸で髪もない女が手だけで凄い速さでこっちに向かって来たんだ!」
「裸…の女?」
「うん!凄い声あげながら!キイイイイって!」
何やら俺達の知っているてけてけとは色々な所が違っている。
「俺も見た!」
そう言ったのは隣の男の子。
「俺も裸の女の人だった!てけてけだよ!下半身がなかったもん!なのに凄い速さで近付いてきて!」
「君も見たのは夜かね?」
「うん!真っ暗だったけど裸だったのは間違いないよ!…俺は…怖くて目を瞑ってたら…気がついたらいなくなってた…」
「女だった?」
「うーん…そうだと思う…凄い高い声で叫んでたし…」
「ふむ…」
「あれ絶対にてけてけだよ!絶対!」
「私も見た」
それまで黙って聞いていた女の子が、思い出すのも怖いといった表情で口を開く。
「私は…男の人かと思った…頭も毛が無かったし…」
「君が見たのも裸だったかね?」
「うん…遠くだったし…暗かったからハッキリとは見えなかったけど…」
ギュッと自分自身を抱きしめるような仕草をしながら続ける。
「大人の身長じゃなかったから…最初は子供なのかなって…でもてけてけの噂思い出して…あれ下半身が無いんだって…気付いて」
「それを見た後はどうなったんだい?」
「横の茂みに凄い速さでガサって…それでどっかいっちゃった…きっと私に気付かなかったんだと思う…」
「ふむう」
「ダイジョーブだよ、オニーサン達がそんなんやっつけてくれるから」
「うん…」
ヒカルちゃん女の子の肩に手を置くと、女の子も笑顔を取り戻す。
「僕も見たんです」
「タク君もかね」
「はい」
「その日は夕方から雨が降ってきたからお姉ちゃんに傘を届けに持っていったんです」
「できた弟さんだ…」
「スマホでメッセージを送ったんですけど、お姉ちゃんはそれを見てなかったみたいで…入れ違いになってしまって…」
「できていないお姉さんだ…」
「うっさいな!」
「それで辺りも暗くなって…1人で帰ってきたんですけど…この公園に差し掛かった時…」
「それを見てしまったと…」
「はい、あの奥の茂みにいたんです…かなりガッシリしてたように見えたんで…僕は男の人かと思ってました」
「ガッシリと」
「暗かったし…怖くてそこからすぐ逃げたかったから…しっかり見てはいないんですけど…そいつはゆっくりこっちに向かって来てたような気がします」
「手だけで這いずってかい?」
部長が匍匐前進のような動きをしてみせる。
「肘じゃなくて手のひらを地面につけてたように思います」
「ふむ…」
「音はガサガサしてたんですけど…怖くて逃げ出してしまったんで…」
「それは当然であろう、無事で何よりだ…しかし…」
「昔のてけてけとは…」
「うむ、かなり差異が見受けられるね…」
「露出狂の変態って線はないですかね?」
「なくはないが…どうもシックリはこないね…」
「ですね…」
部長は何やら思考の海に飛び込んでしまったようで、指を口に当てたポーズでブツブツと呟きながら固まってしまった。
「今日は皆さんわざわざありがとうございました、ただ…暫くは暗くなったら外出は控えたほうが良いように思います」
「千影さんもそう思う?」
「はい、これがてけてけであるかはともかく、正体不明の何かが目撃されている以上、警戒はすべきです」
「大人は信じてくれないしねー」
「そうですね…ほとんどの大人は信じないかもしれません…」
「『俺の小さい時にもあったなぁ』とか『子供達の噂だろ』で済まされるでしょうね…」
「できる限り夜の外出時は大人とお願いします」
不安そうな子供達に、千影さんはこう続ける。
「でも大丈夫、先程ヒカルちゃんも言ったようにこちらには都市伝説のプロフェッショナルがいますから…すぐにてけてけ騒動も解決しますよ」
日が傾き黄昏時、空が綺麗なオレンジに染まる。
ヒカルちゃんと子供達を見送った後、俺達は公園で空を見上げる。
「綺麗ですね」
「ええ、とても」
「なんで夕焼けの時間帯を黄昏時って言うんですかね?アンニュイな気分になるからですか?」
「いえいえ、この時間になると薄暗くなってきて相手の顔もわからなくなってきますよね?」
「はい」
「なので『誰そ、彼』と聞くような時間帯、というのが当て字で黄昏になったそうです」
「へー!」
相変わらず千影さんは何でも知っているな、と感心していると…
「ちなみにこの時間帯は逢魔時とも言われているね…なんとも不気味でまさに幽霊や妖怪とでも遭遇してしまいそうな雰囲気…」
部長がポツリと。
「薄暗い中、逆光で友人の顔すら分からない瞬間…眼の前にいるのが本当にさっきまで一緒にいた友人なのか…はたまた違うのか…」
「……」
「夜の訪れというのは、そんな…人間の根幹の恐怖を感じさせるんだろうね…」
「綺麗な景色が急に怖くなっちゃったじゃないですか…」
「ふはは、さあ!てけてけ退治といこうか!」
膝をパンと叩いて部長が立ち上がる。
「何か考えが?」
「いやー…とりあえずは当たって砕けろだね」
「砕けちゃ駄目ですからね…」
そして今日も夜がやってくる。
皆さんの知ってる都市伝説も随時募集!!




