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きさらぎ駅【風】


「うっ…ぐす…」


あれからどれくらい経ったのだろう。

私の目からはまだ枯れる事なく涙が流れている。


「牧野さん…」


何年も一緒にいたわけじゃない。

あの人の全部を知っていたわけでもない。

ここで過ごした時間は短かっただろう。

けれど、一緒にいた時間は確かに心強かったし、1人の時よりも遥かに充実していた。


「ぐす…」


泣いている場合じゃないのも分かっている。

あの人は弱虫だったし、怖がりだった。

にも関わらず、最後は…いや最後だけじゃない。

いつでも私を守るように、庇うように行動してくれた。

みっともなく怯えながらも、私を逃がしてくれた…。


そして消えた。


「ごめんなさい…」


やっぱり一緒に行動すべきじゃなかった。

私のせいで彼が。

そんな思いで胸が押しつぶされそうになる。


「なんで…」


あれ以降もこの街の闇は濃くなっている。

犠牲になっている人がいるはずだ。

私は何もできずにいる。


「…戻ろう…」


今日も外には出てみたが、結局路地に隠れながら泣いていただけだった。

自分がほとほと嫌になる。

拠点にしている家に戻ろうと踵を返すと、カンカンと踏切の降りる音が聞こえた。


「!?」


また誰か…。

そう思うと、心とは裏腹に私の足はきさらぎ駅に向かって駆け出していた。

走ったところで電車の発車に間に合わない事は百も承知だ。

けれど私は走った。

ヤケクソだったのかもしれない。

大声で叫びながら走った。

少しでも、ほんの少しでも可能性があるなら、もう牧野さんのような人は作りたくなかった。

それは、私が傷つきたくないという利己的な理由だったかもしれない。


「乗って!!乗って帰って!!そのまま電車に乗って帰って!!!」


走りながらそう叫び続ける。


「降りちゃ駄目!!降りずに乗って帰って!!絶対に降りちゃ駄目!!」


私の声は反響せずに、闇に吸い込まれていく。

それに、ここに来る人のほとんどは自分の意志とは関係なく駅に降りてしまう。

けれど叫ぶことをやめなかった。

喉が破れても叫んでやる!そう意地になっていた。


「はっ…はぁ…駄目です!!降りないで!!はあ!絶対後悔する!!」


駅が見えてくる。

そしてここで違和感に気付いた。

まだカンカンと聞こえる。

それは踏切が下りたままになっているという事だ。


「なんで…」


それはつまるところ未だに電車が発車していない事を示す。

踏切の故障という可能性もあるにはあるが。


「はあ…はあ…ここは駄目!帰って!そのまま電車に乗って!」


体力の無さが恨めしい。

駅が近付くにつれ、やはり電車が発車していないのだと言う事が分かる。

理由は分からないがこれはチャンスだ、私はあれに乗ってもここに戻されてしまう。

それはもう構わない。

けれど…これ以上、誰もここの犠牲にならないで欲しかった。


「帰ってーーーーーー!!!」


私の力一杯の叫び。

カンカンと踏切の音だけがする中…。




「姉さん!!!!!!!」




聞こえた。

私の足はそのありえない声に停止する。

分かっている、来るはずがない。

これは罠だ、理不尽で厭らしいこの街がまた何か善からぬ事をしでかしているのだ。

分かっている。


「うっ…うぐっ…」


わかってはいるのだ…。


「ぐす…うぁ…け…けいちゃ…」


なのに足は止まらない。

足がもつれ、何度も躓き、コケながらも、そのありえない声に向かって進んでしまう。


「景ちゃあぁん…」


嗚咽が漏れ、涙が止まらない。

視界は歪み、ろくに前すら見えない。


「姉さん…」


私の前に人の気配がある。


「景…ちゃん…」


その人影はこう言った。




「あっはっはー!一緒にいた男の消えざまは見事だったなー!」




そこで私の意識はプツリとブラックアウトした。



短いです

すみません

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