【5月】俺が主役だ!CS部活動編 第8話
<前回のあらすじ>
人気ユーチューバー、Masaによるお仕事の募集案件と、弟テルアキからひとり旅チケットを譲り受けたタイミングが重なった事により、ストレス解消もかねて1人軽井沢へ向かったセリナ。そこで偶然にもテツの継母と娘ミアに再会するが、継母から、テツの妻エレナがアシッドアタックの被害に遭ったという衝撃的なニュースを耳にする。
その頃、プライムではセリナが両方の世界で受けたストレスにより、勉強が全く身につかないスランプ状態に陥ってしまった。そんな彼を激励したマニーが後日、校長から軽音楽部廃部の通告を受ける。「裏に生徒会が絡んでいる」と睨んだマニーが取った行動とは――。
第8話
僕とセイル、そしてエリシオの3人が向かったのは、足立区にある東京女子医科大学東医療センター。臨床研修センターを構えているこの大きな病院で、僕達はその中の入院病棟前にて面会が出来るタイミングを待っていた。テツが帰国後、最初にNINEで連絡を受けたセイルを筆頭に、僕、エルの順に呼び出されるのを待ったのだ。諸事情により3人一気に見舞いに行く事が出来ないので、少し時間はかかるがここはテツ夫婦のためだ。致し方ない。
「みんな… 本当に、ごめんなさい… 心配を、かけさせてしまって…!」
テツが、全身を震わせながら涙を流し、僕達に頭を下げている。あのエルとのドタキャン事件のあと、一向に顔合わせができなかったテツとは、皮肉にもこの病院で再会したのだった。切欠は勿論、先日、僕が軽井沢でおばさんから聞き出した件の情報だ。あれから、僕はその事をセイルたちに伝え、こうしてテツへのアポなしで駆けつけてきた次第である。
「『事を大きくするな』って、警察に、釘を刺されて… だから、本当の事情を言えなかった。セイルたちには、エレナが落ち着いてから、事情を説明しようと思って、それで」
「そうか。急にお邪魔して悪かったよ、テツ。エレナさんは今、どうしている?」
僕がそう質問すると、テツはゆっくりエレナが寝ているらしき病棟の一角へと目を向けた。あいにく外にいるので、残念ながら中の様子は見えないが、きっと今も医療従事者たちが患者の手当てにあたっているのだろう。テツはこう答えた。
「まだ、治療は終わっていなくて。恐らく、その跡を完全に消す事は出来ないらしいんだけど… だいぶ、元気にはなったよ。今、彼女の両親も見舞いに来ている。ミアは?」
「あの子なら、おばさんと一緒に楽しく過ごしてたよ。ただ、父親が元気そうじゃないのは、殆ど察しているみたいだ。それでも、母親が退院する日をお利巧さんに待ってる」
「そう、なのか」
「入院って、どれくらいかかるんだよ? 警察のあの様子じゃ、余程な事件だと思うけど」
と、エルが腕を組んでテツに質問する。テツは、俯き加減にこう答えた。
「全治2週間、って所かな。肌が溶けた影響で、くっついてしまった指と指の間も、手術でなんとか綺麗になった。ただ、あともう少し判断が遅れていたら、指を失ってしまう所だったんだ。塩酸をかけられた件にしたって、警察は『素人の犯行とは到底思えない』と」
「…そうだろうな。通販だろうが否が、塩酸なんて、そう簡単に買って持ち歩く事は出来ないはず。購入履歴からも、すぐ足がつくんだ。犯人は、その道のプロなのかもしれない」
「うん。それは、刑事さんも全く同じ事を言っていたよ。でも、なんでそれでエレナが狙われなきゃいけないんだって、ずっとその疑問ばかりで… 早く、犯人が捕まってほしいな」
そういって空を見上げるテツがふと、自身の腰ポケットからスマートフォンを取り出した。手にとって見ると、その端末はバイブレーションで震えている。直通の着信だ。
「あ、お母さんからだ。ちょっと失礼… もしもし?」
テツがそう呟いて、その着信に出て端末を耳にあてた。僕たちはそれを静かに見守る。きっとエレナの件で、おばさんが電話をかけてきたのだろう… と、思った僕が間違いだった。
「…え? ……え、あなた誰ですか?」
テツが、スマホを耳に当ててそう質問を返した。僕たちはその瞬間、電話をかけてきたのがテツの継母ではないと気づいたのだ。が、確かに電話に出る時の画面表示は継母だった。
「え!? どうしてその場所を!? …あんた達、一体なんなんですか! 娘は!? ミアは!!? ……なに!? 娘が心配なら、今すぐこっちへ来いって?」
テツが目を大きくさせ、次第に拳を震わせる。僕はその様子を見て、その電話がとても普通の親子の会話ではないと思ったのだ。テツは、今にも怒りで誰かを殴りそうな形相だ。
「ミアに、何か変なことをしたら、俺は許しませんよ… すぐ行くから、お母さんとミアには手を出さないと、約束して下さい… いいえ。あんたらがどう言おうが、その人が俺のお母さんなんです! あんたらを親だと思った事は…! …今、病院にいますので。では」
そういって、テツはぶるぶると手を震わせながら、スマホの通話を切った。ただでさえエレナの件で心を痛めているテツの元に、更なる地獄の呼び出しだ。僕は、おばさんの電話を乗っ取ってテツに電話をしてきた人が、誰なのか概ねの予想がついた。ここで、何らかの身支度をはじめたテツへ、僕は意を決し前へと乗り出す。
「テツ。俺も、今から一緒に行くよ」
と、僅かに険しい表情で懇願したのだ。これにはエルも僅かに驚き、僕の姿を見るが、それはテツも同じ思いであろう。
「え!? あ… ごめん。聞こえていたか。でもいいんだ、これは俺とあっちの問題だし」
「それでも一緒に行かせてほしい。俺は、あの軽井沢でおばさん達と会っているんだ。このまま見て見ぬフリできないんだよ。それに、テツだって1人で行くのは心許ないだろう?」
「そんな。態々、俺たち家族のために」
「なぁエル。エレナさんの様子、見てきたら俺にNINEしてほしいんだけど、いいかな?」
僕はエルに、テツとこれから一緒に軽井沢へいくための理由づけとして、そう確認を取ってみた。すると、エルは少し申し訳なさそうに顎をしゃくりながら
「え? あぁ、いいけど。アキラ、仕事は大丈夫なのか?」
と、二つ返事でOKを出してくれたのだ。僕は「大丈夫」といい、テツへと再び目線を戻す。ちなみに、僕が先日軽井沢に行った件については「仕事で出張にいった」との理由で、既に友人達に説明してある。MV撮影で行った事は、同意書に記されていた通り内緒だ。
あのあと、僕がテツと急いでおばさんの家へ向かった頃には、もう既に日が暮れた後であった。予約もなしに、突然呼び出されて東京を出たのだから当然だ。そうして軽井沢に到着し、おばさんが住んでいるあのマンションの角部屋へ行くと、玄関から出てきたのは…
「テツ~♡ こんなに、立派な大人になって。ずっと会いたかったのよ~?」
「そういうのいいんで。お母さんとミアを会わせて下さい。こっちは急いでるんです」
そう。あの時の継母おばさんとは違う、いかにもな風貌で厚化粧をしている50代ほどの実母だった。その隣には同い歳くらいの貧相な男性もいて、そちらは酒瓶を抱えている。テツは、さっそく自分へと擦り寄ってきた実母を払い退けるようにして、睨みを利かせた。
「てゆうか、そこにいるのだれ? テツのおともだち?」
「ぐびぃ~、なんか弱そうなガキだなぁオイ。ヒック、何しに来たんだよ。他所者は帰れ」
そういって、焼酎を持った酔っ払いの男性は、他ならぬ僕を軽蔑するような目でそう言ってきた。恐らく、テツの実父だろう。テツがここで、僕を庇う様に前へ乗り出す。
「俺の友人を悪く言うのはやめて下さい! 彼は、お母さんやミアとも交流があります。俺が、彼を呼んだんです。とにかくここを通してください」
そういうテツの顔は、今朝と比べものにならないほど眼力を帯びている。僕も本当ならこの実親たちに、初対面早々バカにされて頭に来たので文句を言ってやりたかったが、そんな事をしても自分が不利になるだけだと思い、ここは黙っておいた。
こうして実親たちが不貞腐れた表情で僕とテツをリビングへ招くと、そこにはおばさん… ではなく、20代もしくは10代後半の知らない女性が、うずくまる様に正座して座っている。ここで実父の男性がふらふらと、キッチンの冷蔵庫を全て開けながらこういった。
「それにしてもここ、ぜんぜん酒ねぇな。安そうな食い物しか入ってないぞ?」
「あの。勝手に、人のものを漁らないでください」
「あ? いいだろう別に、けち臭い事をいうなよテツ。俺たち、家族なんだからさぁ」
「俺は、あんた達を家族だと思った事はありませんけど?」
テツがそう冷たい口調でいうと、実父は「あ!?」と相手を見下すような目で、自分が空けた冷蔵庫のドアを思い切りバンとしめた。下手を打てば、その冷蔵庫が壊れてしまうかといわんばかりの力だ。その力で、僕にも伝わるくらいこの部屋が揺れたような気がした。
テツはその光景に怒りを覚えるも、ここはグッと堪えた。酒が入っている人間相手に本気で怒ったら、それ以上にもっと酷い事になると察したからだろう。実母が笑顔でこう続ける。
「まぁまぁ、みんな落ち着いて。私達は、テツから何かを貰うためにここへ来たとか、そういう事は一切ないから。寧ろ、あなたにはとーっても良いプレゼントを用意したのよ?」
なんて言っているが、なら先ほど実父が冷蔵庫の中を物色していたアレは何だったんだ。矛盾しているではないか。と、僕は思った。だけど、今ここでその事を指摘したら、きっとあの酔っ払い実父に焼酎の瓶で頭を殴られるかもしれない。そう思うと怖くて、僕は何も言えなかった。クソ! こういう時に魔法や奇跡が使えれば…! テツを、救えるのに!!
「テツ。今ここにいる子、誰か分かる?」
「いいえ。なぜ、その方がここに?」
「紹介するわ。彼女はあの国民的アイドルグループ、SGL47の7期生に入っている滝沢美貴さん。実家のお父様が投資家をしていて、海外進出もしているお偉いさんなんですって。美貴さん自身も料理や家事が得意で、今年、あの名門大学を卒業した秀才なのよ?」
「よ、よろしく、お願いします…!」
そういって、実母の隣に座っている美貴さんが、緊張した面持ちでテツに頭を下げてきた。テツはそれでもずっと拳を震わせていて、美貴さんのお辞儀に応じない。
「お母さんと、ミアは? こんな見ず知らずの女性を連れて、いったい何のつもりですか」
と、テツはなお正論をぶつける。これに呆れた実母が目を逸らした先、実父はというとこの時すでにリビングの一角、我が物顔で呑気に寝転がっていた。人の家なのに図々しい奴だ。
「テツ、早い話がね? 美貴さんは、あなたの結婚相手に相応しいと思って、私達が連れてきたのよ。それに、美貴さんも前からあなたに気があるみたいで。ねぇ美貴さん?」
そういうと実母が、ここで美貴さんの背中へと手を回した。そして美貴さんの肩を持つと、美貴さんがここで急にニッと無理矢理な笑顔を作り、テツにこういった。
「はい! 私、あなたの事は前から知っていました。オックスフォードの出身ときいて、父も大変喜んでいます。変って、思うかもしれないけど、良かったらお友達からでも…」
そういって照れ臭そうにしている美貴さんが、ながらテーブルを指で小さく「ツツツ」と突いたり、「ツーツーツー」となぞる様な仕草を見せている。そしてまた「ツツツ」と… 僕はそれに気づいたのだが、きっと美貴さんは早く終わってほしいという気持ちで、貧乏ゆすりみたいにテーブルを突いているのだろう。
「俺、既に結婚しているんですけど。美貴さんは、それを分かって言っていますか?」
と、テツが冷静な面持ちで美貴さんの告白を一蹴した。それに美貴さんが動揺の顔を浮かべるが、実母は随分余裕そうだ。もしかして、テツからそう訊かれる事を想定している?
「ところでテツ。あなたの嫁、来てないわね。せっかくこうして私達家族が、久々に顔を出しに来たというのに。こういうのは、嫁も一緒に挨拶へ来るのが“礼儀”ってものでしょう。その人、ちょっと常識がなってないんじゃないのぅ?」
「ムッ! 俺の妻を、悪く言わないで下さい!」
「あ。でもそういえば今朝、テツ自分で『病院にいるので…』って言っていたわよねぇ。もしかして、嫁がそっちに入院しているの? ひょっとして、おめでたとかぁ??」
と、随分厭味ったらしい口調で質問を返してくる実母。僕はそれを見て、心底この厚化粧女のしている事が気持ち悪いなと思った。その隣にいる美貴さんも、目が死んでいるし。
「今はそんな話、関係ないですよね? 俺は、お母さんとミアがどこにいるのかと聞いているのですが」
「もう~そんなにカッカしなくてもいいじゃない。あの2人なら大丈夫よ。ちゃんとノブの所に預けているから。ノブだって『うちに姪っ子が来た』ってんで、もう大喜びだから」
「!?」
ノブ――テツの「兄」に当たる人物の事だろう。どうやら、エレナが言っていたその「育ちの悪い男」の所へ、ミア達が連れ去られたものと思われた。これは、見様によっては誘拐罪にあたるのではないだろうか。僕は、この実親のしている事が異常なものだと身震いした。
「場所はどこですか」
「えぇ? 知らないわよ。だってノブ、仕事がら移動が多いんですもの。で、話を戻すけどあなたの嫁は何故、ここに来なかったのかってきいてんの。病院にいるのなら、妊娠か、何の病気かくらい言えるでしょう? それとも、何か言えない事情でもあるの? まさか」
「…なら、それを言ったら、ミアたちを返すと約束してくれますか?」
「さぁ? 内容によるわね。例えば、そう。あなたの嫁が、誰かに狙われてケガを負ったとかなら、残念だけどノブの家に預けたままだわ。ここにいる美貴さんと、再婚するまでは」
「は!? 何故、そういう話になるんですか!」
「だって言えないんでしょう? 嫁が病院に行ったのかどうかっていう、その理由。それ、言っておくけどすっごーく怪しいわよ? 普通、真面目に暮らしていれば、そんな人様に言えないような事件に巻き込まれはしないのよ。『火のない所に煙は立たぬ』という諺があるように、あなたの嫁はなにか良くない事をしたかもね。やめときなさい、そんな訳ありな女」
「なんだと!?」
「テツ…!」
僕は、テツがその場を立ち上がり激昂しようとした所を、なんとか制止した。でも確かに、あのセリフは僕も聞いていて、本当に気分が悪いものだ。こんなの、エレナが報われない。
「…嫌だといったら?」
テツは僕が止めたからか、心を落ち着かせ、実母に向かってそう言い放つ。実母は答えた。
「娘さんと、あの石女はそのままノブの所ね。それより、ここにいる美貴さんの方がずっとずっと常識があって、穢れもなくて、まさにあなたの結婚相手に相応しいと思うの。娘を大切に想うのなら、今の嫁とはさっさと離婚しなさい。今から1週間以内に」
「なっ…! 1週間って、いったい何を考えているんですか! どうして、あなた達の都合でこっちが離婚しなきゃならないんです! 大体、あなた達は長男より見た目が劣っているからという理由で、俺を捨てたくせに!」
「それはね、仕方がなかったのよ。だって、あの石女がどうしても子供が欲しいっていうから、あなたを預けるしかなかったの。本当は、そんな事したくなかったのよ? 可哀想にテツ、あなたあの女に洗脳されちゃったのね? でももう大丈夫、これからは私がいるから」
「あなたは、自分が何を言っているのか分かっているんですか?」
「もちろん。寧ろ、被害者なのは私たちの方なのよ。だから、ね? 娘さん… ううん、あの可愛い孫のためにも、ここは穏便にね? あまりテツが反対ばかりしていると、かえってノブの機嫌を損ねるかもしれないからぁ。大事でしょ? 娘のこと」
さっきから聞いていれば、何なんだこの女。薬でもやってるんじゃないか? 継母のおばさんとミアを人質に取り、見ず知らずの女性と再婚するよう息子を脅すとか、正にやる事が卑怯だ。僕は、いっそ警察にでも通報してやりたい気持ちでいっぱいだった。が、
「…行こうアキラ。この人達は話が通じない」
「え!?」
なんと、テツの方が先に踵を返し、この部屋を出ようとしているではないか。僕は慌ててテツの後を追い、ここへ来て何事かという面持ちで玄関を出ようとする。が、
「そうそう、テツのお友達ぃ? あんた、結局何しに来たのか知らないけど、つぎ私とテツが会う日には2度と来ないでちょうだい。目障りだから。あと、今日の事を警察に通報しようと考えてるか知らないけど、別にチクったって構わないわよ~? 血の繋がった家族同士、民事不介入として相手にしてもらえないと思うけどね。ま、どっちにしろ通報したら、孫と石女は私達の方で次にやるべき事をするから。友達に弁護士もいるしね。うふふふふ」
「なっ…!」
テツの冷静な頭では何を言っても無駄だと思ったのか、今度は僕のことを煽る煽る。そうやって、相手が逆上して手を出してくれれば、自分たちの方が有利になる事を見越しているのだろう。僕は無性に腹が立った。それはテツも同じようで、咄嗟に実母へと睨みを効かせる。当然、僕は手を上げるなんて事はせず、テツとともに今度こそ玄関を出たのであった。その頃、実父はいびきをかいて爆睡し、美貴さんはずっと俯いていた。
「アキラ、本当にごめん。君にまで、あの人たちがあんな酷い事を言うなんて思わなくて」
あのあと僕達はマンションを降り、東京へ帰る途中でテツがそう謝ってきた。正直、あれには恐怖を覚えたけど、僕は微笑みながら首を横に振り、テツを慰めるようにして答える。
「ううん、いいんだよ。寧ろ、これで向こうの本性が分かった。ここはなんとしても、あの家族の手から、おばさんとミアちゃんを解放してやりたい。あんなの絶対おかしいよ」
「あぁ。あの美貴さんも含めてね」
「え、美貴さん? って、なぜその人まで??」
「彼女、SOSを出していたんだよ。アキラは気づいたかい? 美貴さんが、俺に告白している最中にテーブルを突いていたのを。あれは、美貴さんが俺達に発したモールス信号だ」
「え、そうなの!?」
実をいうと、テーブルを突いていた所は見たから知っている。だけど、それがまさかSOSのサインだったとは、僕は全く気付かなかったのだ。それに気づいたテツ、やはり天才か。
「うん。恐らくだけど、あの夫婦は多額の借金を抱えているんだと思う。で、その返済のために俺と美貴さんを結婚させ、美貴さんの親から資金援助を受ける魂胆なのだろうさ」
「何だそれ、信じられない事をするヤツらだな。息子の為とかいいながら、結局は金かよ」
「だな。それより… 俺はこれから、どうしたらいいんだろう? まさか、お母さんの住所を、あいつらに特定されてしまうなんて… 一体、何がいけなかったんだ…? ミア…」
そういってテツは頭を抱え、大粒の涙を流した。僕はその姿を見て、きっとこれは自分に原因があるのだろうという自責の念で、辛く俯いてしまう。
考えられるのは、テツと5年ぶりに会ったあのお店で、継母の住所を聞いたこと。もしくは、僕がMasaとの撮影のために軽井沢に来たこと。でもまさか、ここまで大事になるとは思ってなかった。本当に、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。ミアと、おばさんが心配である。
………。
「アキラ。こっちこっち」
後日。いよいよ中間テストの期日が差し迫ってきたこの日、僕はCS学園の一角にてアゲハから小声で呼び出された。そこは、生徒会関連の部屋を構えている廊下だ。
アゲハが僕を見て「しーっ」のポーズをした、その先には書記室があり、そこから男女数人の声が聞こえた。そのうち、2人は聞き覚えのある声だ。ヤシルとティファニーである。
「なに、そんなに怖いかオレ達? 参ったなぁ、ただ『生徒会運営のガイドラインをコピーさせてくれ』って言ってるだけなのに。なぁティファニー?」
「そうそう。別に、おかしな事でも書いてなければ見せられるでしょ? まぁ、生徒達の顔なわけだし、そんなダメなもの書いておくような生徒会だったら、とっくに潰れてるか」
そういう2人に挟まれる形で怯えているのは、生徒会書記を務めている1学年の男子生徒。どういう事か、いま部屋にいるのは彼1人だけであり、ちょうど生徒会の仕事をしている最中にヤス達から目を付けられたのであった。見た目からして、ヤンキーとの噂がある先輩達からマークされたのだ。そりゃ下級生だったら怖いのは当たり前だろう。
「ご、ごめんなさいごめんなさい…! ぼ、僕たちは何も悪い事をしていないと誓いますので…! どうか、どうかガイドラインだけは…!!」
「ん? なぁお前、もしかして学校に内緒でバイトしてる系?」
「ギクッ!」
「あら。その様子だと、図星ね? 大丈夫よ、チクったりしないから。寧ろ、今時はバイトでもしないと好きなものは買えないし、生活だって大変じゃない? 私、きいたわよ。この学園って、そんな生活に困窮している生徒の事も考えず、自分達の名誉だけに生徒会へスカウトして、無理矢理バイトを辞めさせるんですってね」
「あぁ。本当ふざけてるよな、この学園のジジイどもはさ。時代遅れも甚だしいっての」
「は、はぁ…」
「お? ちょっと共感したか?? 分かるぜぇそれ♪」
「というわけだから、話を戻すけどガイドラインを見せて。私達はあなたの味方よ?」
「そうだ。こういうのは、世渡りってのが大事だからな。スクショだけさせてくれよ」
パシャ♪ パシャパシャ♪
その部屋の奥から、スマートフォンのシャッター音が何度か響き渡った。さっきの話をきくに、どうもヤス達のしていたそれは半ば脅しにしか見えない。これには書記も諦めたのか、恐る恐る手に持っていた生徒会運営のガイドラインをみせ、写真を撮られる始末であった。
「ありがとな! よし、マニーの所へ行くか」
「えぇ」
僕が先の展開に冷や汗をかき、アゲハも安堵の溜め息をついたところで、こうして部屋から出てきたヤスとティファ。彼らは続けて隣の部屋へと行き、それを確認したアゲハが
「行こう」
と、僕を鼻で指示して彼らの後を追ったのだ。こうして次に壁へ背を向け、耳をすませた先は生徒会室。そこからは、先に男女の話し声が鮮明に聞こえてきたが… しかし何故、さっきはヤス達が書記からガイドラインの提示を求めていたのだろう? 部屋の奥からは、マニーの声が聞こえてきた。
「――位以内、か。あ、ヤス達お疲れー」
「よう。そっちは問題ないか?」
「あぁ。問題なし」
「え? あの… あなた達はなぜここに?」
と、マニーの前方にいる眼鏡をかけた丸刈り頭の男子生徒が、後から生徒会室へ入ってきたヤス達に疑問を抱く。マニーはそれに対し「友達の迎えがきちゃった」と弁明した。
「で、話を戻すけど、今年からは同好会設立の条件が厳しくなったんだろ? さっき、会長のあんたが説明したように」
「あぁ、そうなんだよ。校長に、飽和状態を防ぐために施行しようって言われてさ。なんで今更そんな事を言いだしたのか分からないけど、まぁ校長の言う事だし従うしかなくて」
「そうか。生徒会も大変だな」
「あぁ。で、それを聞いて桜くんはどうするの?」
「あーそれなんだけど、実はその件で、ちょっとこの紙に念書を書いてほしくてね。まぁ、望みは薄いと思うけど、もしその条件を俺が満たしたら設立を許可するっていう、念書」
そういって、マニーはどこからかノートとペン、そして朱肉を取り出した。一体、これはどういう事なんだろう? という会長の怪訝な表情を前に、マニーはなおも冷静だ。
「え? な、なんでそれを? 俺が書くの? 今から?」
「そうだ。学校側が話を二転三転しないよう、こちらとしても予防線を張っておきたいんだよ。あんただって嫌だろう? 学校側のワガママで、生徒会にばかり負担がかかるの。あんたの妹さんが俺に話してくれた様子を見て、何となくそんな気がしたんだよね」
「え… そうなのか」
すると、マニーに続いてヤスとティファも揃って会長を真顔で見つめた。その光景は、見様によっては念書を書かせるための「脅し」にも見てとれる。だがここはさすが生徒会長。このメガネ男子は今ここで反対しても意味がないと判断したのか、大人しく念書と今日の日付、そして自らの拇印を押してマニーに提出したのである。
「これで、準備は整ったな。あとはマニーの実力だけが頼り、か」
と、ヤスは口笛を鳴らしながらいう。
念書を書いてもらい、生徒会室を出た仲良し3人組の表情は、安堵と不安の両方が混じっているようであった。アゲハも僕も、ここで漸く壁に背中をくっつけるのを止め、この校舎を後にしたのだった。この後は普通に帰宅なので、分かれ道まで一緒に歩いていく。
「みんな、さっきは生徒会室で何の話をしていたの?」
と、僕は恐る恐る聞いてみた。マニーが、困り笑顔で説明する。
「同好会設立の条件を聞いていたんだ。軽音楽部の廃部を阻止するためには、それが最善策だと教えられた。その事実を捻じ曲げられないよう、会長に念書を書かせたんだよ」
「え?」
「でも余りにも話がすんなり進んじゃって、つい拍子抜けしちゃったな。なにせ、その念書を会長が書く事に対し、急に暴れるヤツが出てくるんじゃないかと警戒していたもんだから。ヤスとティファに、態々ガイドライン取得の協力をしてもらったのもその為だし」
「え、どういう事?」
「まぁ時代劇でいえば『この紋所が目に入らぬか!』ってやつだ。俺達の予想通り、生徒会のガイドラインには同好会設立規定が記されている。その内容と食い違った事を言うようなヤツがいれば、そいつに脅しで見せつけてやろうと思っていたのさ。話が違うだろって」
「『脅しで』って、ハッキリ言っちゃったよこの人…」
僕はそう小声でツッコミを入れた。それを聞いた皆がうんうんと頷いている。そんな、あの念書を書くシーンを見ただけで暴れるヤツがいるのか? しかも生徒会の中で?
「まぁ、早い話が生徒会の中に、校長と裏で『良くない繋がり』を持っている奴がいるんじゃないか、と俺達はみているんだ。俺が校長室に呼ばれたあの日、校長はきっとその生徒にも近況を報告しているだろうからな。その流れからの、同好会設立を一方的に反対する生徒会員がいれば、そいつがクロって事だよ」
「ウソ、そんな事が分かるの? なにそれ、複雑すぎる」
「まぁね。だけど今日の生徒会は、俺達が突然来た事に対してみな大人しかった。だから、彼らは全員シロ。今日、学校をお休みしている会員2名に候補が絞られたってワケだ」
「3年の副会長・三国さんと、2年の堀越さんね。2人とも体調不良でお休みしたそうよ」
「だな。怪しいのは、その2人のうちのどちらかってこった。だけど、問題はこれからなんだよな。マニュエル、お前その“条件”とやらを満たせそうか?」
「…」
と、ヤスが質問した事に対して急に黙り込むマニー。どうやら、その同好会設立の条件は、そんな簡単に達成できるものではないらしい。マニーのその表情からは、緊迫したムードが漂っていた。アゲハもここは静かに見守るばかりだ。
「こうなったからには、やるしかないよ。出来なかったらそこまで。事情を知らない部員達には、あとで俺の方から謝っておかないとだな」
「そんな、マニーは何も悪くないのに」
そうティファニーが慰めたところで、僕達の帰路はこうして辿り着いた交差点で別れる事になった。マニー達3人が団地寮の方向へ、アゲハが友達との待ち合わせ場所へ、そして僕が自宅へ向かう道へと足を進める。僕たちは、いつものように手を振ったのだった。
「じゃあな!」
「テスト頑張ってね~」
「気を付けて帰れよー」
夕焼けに染まる交差点を眺め、皆と別れたあとは、自宅で最後のテスト勉強に追い込みをかけなきゃと思う。もう殆ど時間はないんだし、あまり遊んでいる余裕などない。スランプだったあの時期から少しだけ、学習内容に追いつく事が出来たといっても、まだまだ心配なレベルなのだ。元いる世界でも大変な事はあるけど、ここは頑張るしか…
「ん?」
僕は、しばらく帰路へ向かっている途中で、何かの気配を感じた。
気のせいだろうか。いろんな事に対し思い悩んでいるせいで、ナーバスになっているのだろう。僕はそう思い、再び帰路へと向かって歩いた。が、
「!?」
まだ、何か不気味な視線を感じる。僕は再び背後に振り向き、この嫌な視線の源を探るように警戒した。今まで、感じ取ったことのない殺気のような… と、その時。
「うらあぁぁぁぁぁぁ!」
僕は、自身の頭部に何かが襲いかかってくるような、そんな感覚を覚えた。殺される。
僕はとっさに自身の頭を避け、間一髪、釘バットの脅威から逃れた。釘バットは、民家の塀へと勢いよく叩きつけられ、塀には僅かなヒビが入る。なんて力だ。僕はすぐに逃げた。
「コラ待てやクソガキぃぃぃぃ!!」
釘バットを振り上げてきたのは、見知らぬ男であった。そいつは、いやそいつが率いている4,5人の集団は、僕を確実に狙っている。僕は怖くなった。
逃げなきゃ! 逃げなきゃ!
なぜ自分が、突然こんな見ず知らずの集団に狙われるのか、分からない。でも、ここは逃げないと確実に殺される! そう思うと怖くて、僕は裏道へと逃げて巻こうとした。が、
「ひっ…!」
その裏道には、向かい側からも彼らの仲間と思しき集団が、まさかの待ち伏せをしていたのだ。僕はそれを見た瞬間、もう逃げられないと思ったのであった。完全に、挟まれた。
「もう逃げられねぇぞコラ。あの時、テメェの仲間がよくも俺らを凹してくれたなぁ?」
凹した? 僕の仲間が? 一体、何の事を言っているんだ?? 僕は全く心当たりのない事を訊かれ、それに答える前に、もう自分はこんな裏道で助かる道はないと思っていた。
「そーだよ! テメェのダチが邪魔したせいで、こっちは3憶の儲けを失ったんだよ! あの夫婦はもう夜逃げしちまったし、一体どうしてくれんのじゃコラ!!」
3憶? 夫婦? 夜逃げ? …まさか、それって。僕はそれらのキーワードを聞いて、なんとなく理由が分かってしまったような気がした。彼らは、更にこんな事をいいだす。
「おめぇ、あのガキどもの中でずーっとビビってたもんなぁ? 何もできねぇヘナチョコなんだろ? 情けねぇヤツだぜ。てめぇの鼻をへし折るくらい、容易いもんよ」
「おう。あの時の、宝くじの金を手に入れられなかった時の恨み。晴らしたるわボケ!」
なんて奴らだ。そう。彼らはあの時アゲハ達に打ち負かされ、あの宝くじの高額当選金を盗み損ねた、窃盗団の一味だったのだ。僕は、そいつらに「ただ一人ビビッて何も出来なかったヤツ」だと見なされ、狙われてしまったのである。こんな災難、あんまりだ。
「死ねぇぇぇ!!!」
仲間の一人が、さっそく僕に向かってバールを振り上げてきた。僕は今にも失禁するんじゃないかという勢いで、咄嗟に相手の攻撃を避ける。
こんなもの、モロに当たったら確実に死ぬ。そんな事をして、警察に捕まるリスクを負ってでもそこまでするって、この人たち絶対普通の人間じゃない! 僕はそんな恐怖心と、死にたくないという一心で、とにかく窃盗団からの攻撃を避けるのに必死だった。
「おらぁぁ!!」
ヒョイ
「あぁ!? ざけんな!!!」
ヒョイ
「あぁ!? 当たんねぇぞオイ!?」
僕は、涙を流しながら必死に避け続けた。動体視力が追いつく限り、逃げて、逃げて、逃げまくって、早くこの裏道を出たくて仕方がなかった。そうやって、彼らの攻撃を何度も躱していくが、僕はここである事に気が付いた。
彼らの攻撃を、僕は確実に避けている。体が追い付いていて、一度も当たらないのだ。
僕は、ここで自分がどれだけ柔軟に、敵の攻撃を回避しているかに気づいた。先の恐怖に頭がいっぱいだったせいで、気づかなかった。今の僕は、敵の攻撃に対し、人間離れした動きで回避しているのだ。それはまるで、アクション映画のような目まぐるしい展開である。
「そこ!!」
敵の1人が、ついに僕が回避できない所へパンチを入れてきた。それを、僕はとっさに両手の平でガードして押さえる。僕はそのパンチをガシッと受け止め、相手の拳を握った。
メキ、メキメキ… バキッ!
「うっ! う、うわぁぁぁぁ!!」
僕が握りしめた相手の拳から、骨が折れる様な音が聞こえた。その瞬間、敵は悲鳴を上げて今度は逃げようとする。僕は、今のこの攻防で自分にどれだけの力があるか分かった。
僕は… 僕の身体は、現実とはかけ外れたパワーを持っている。だから、さっきは何度も複数人からの攻撃を回避できて、こうして相手の骨を折る事も出来た。それはつまり、この世界の僕は「戦える」という事を意味していた。僕は意を決し、この男の腹部を蹴った。
「おわっ!」
ドーン! 男の体は、いとも簡単に数メートル先の前方へと吹き飛ばされた。僕は、自分にそれだけの力があると分かり、目を大きくさせながらもここは残りの集団へと振り向く。
「へ!? な、なんだこいつ! さっきの蹴りは演出か…!?」
「やべぇよ、やべぇよ…!」
残党である彼らは、僕の事を見ながら今度は後ずさりをしはじめた。先の、僕が相手を蹴り飛ばした場面を見て、怖気づいたのだろう。これを見た瞬間、僕は彼らに対する「恐怖」と「不安」が不思議なくらい、スーッと消えてなくなった。今の僕は、戦えるんだ…!
「わわわ! 来る来る来るー!!」
僕は彼らに向かって走った。先程まで僕の事を「何も出来ないビビり」だと言って罵り、余裕面していた彼らが、今度は逃げようとする。だけど、僕はそれでも彼らのしてきた事が到底許せなかった。さっきは、よくも僕のことを散々バカにしてくれたと思う。
バキッ!
「ぎゃ!」
ボカッ!
「うっ…!」
ドン!
「か、かんべんをっ…! うぐっ!」
まるで身体が自然に覚えているかのように、考えなくても的確に相手の弱点を突き、打ち負かしていく。その身体能力を駆使して、僕は相手をどんどんなぎ倒していった。中にはなお抵抗して凶器を振り回す者もいたが、それも持ち前の力で相手の身体ごと投げ飛ばした。
「に、逃げろ~!!」
彼らは、これ以上抗っても勝ち目がないと悟ったのか、そそくさと僕の元から去っていく。気が付けば、僕の周りには何羽か虹色蝶がヒラヒラと舞っていた。先の戦闘で気合が入り過ぎたのか、虹色蝶を召喚するほどパワーを溢れさせてしまったらしい。
それはそうと、僕は身構える姿勢を崩し、元の普通の立ち姿へと戻った。凄く怖かったけど、自分がそんな怖い奴らに対抗できる体だと知り、なんとかこの場を乗り切ったのだ。その安心感と、疲労感に肩を落としながら、僕は先程逃げてきた道へと振り向く。
「…え!?」
僕はその先の光景を見て驚いた。そこには、先程交差点で別れたはずのアゲハやマニー達が立っていたのだ。全員、僕を見て驚いたような表情をしている。彼ら、一体いつのまに?
「セリナ? お前すげぇな! さっきこの道から逃げた奴ら、ぶちのめしたんだろ!?」
「えぇ。でも、大丈夫だった? 突然狙われて、怖かったんじゃない??」
「え、みんな。どうしてここに?」
「さっき男達の叫び声が聞こえて、もしかしたらアキラの身に何かあったんじゃないかと心配になって、かけつけたんだよ。でも、その様子だと大丈夫そうだね」
「酷い災難だったな。まさか、報復に見舞われるとは想定していなかった。本当にゴメン」
そういうマニーとアゲハが、悲しそうに僕を慰める。思わず泣きそうになるけど、ここはもう過ぎた事だと思い、グッと堪えたのであった。ヤス達が、ため息交じりに肩をすかした。
「あの向こうの通りにある、誰かが鉄柱に思い切り殴りつけた跡。あれ、一体何なんだろうなってずっと疑問だったんだよ。拳の大きさからして、最初はマニュエルが付けたんじゃないかと思ったけど、さっきのあれで合点がいった。そうだろ? セリナ」
「え、うそ… あの鉄柱、そんなに有名なの? 招待客たちの間で」
「えぇもちろん。でも、これで分かったわね。セリナは虹色蝶のほかに、高い身体能力も有しているってこと! もしかしたら、他にも使える魔法や特殊能力も秘めているんじゃないかしら? 不謹慎かもだけど、自分に自信がつく切欠にはなったはずよ」
そういって励ましてくれる彼らの笑顔や、仲間の安否を確認し安堵する姿。それを前に、僕は照れ臭い気持ちで苦笑いを零した。さっきはどうなるかと思ったけど、僕はそんなに柔な男じゃない。それに気づいた事で、少しばかり自信がついたような気がした。
………。
「ハッ!」
ゴツンッ
「い… いってぇ…!」
さて、場所は変わって元いる世界の古民家。本来の自宅であるここ中庭で、僕は納屋に保管されていた謎の鉄板を見つけたので、それに試しにパンチを入れてみた。
鉄板の暑さは約1センチ程度。半円形に湾曲しており、普通の平らなものより強度が増しているものと思われた。プライム次元で僕が殴った鉄柱より、簡単に凹ませられるであろうそれに拳を入れたが、結果は失敗。手袋を嵌めて指を保護した状態であっても、鉄板はビクとも変形しなかったのだ。逆に、自分の手を痛める始末である。
――無理かぁ。せめてこのノーマル次元でも、プライムと同じくらいのパワーが欲しい。
あっちの世界では戦えた僕でも、所詮は「夢」の世界。枕元転送以外はこの世界に非科学的現象など一切ないので、改めて自分の無力さを自覚するはめになったのだった… 本当は、ここでもあれ位強ければ、その拳でテツ一家を守る役に立てると思っていたのだが。
チリンチリーン♪
塀の一角の門から、綺麗な鈴の音色が聞こえた。誰かがうちへ訪問しにきた証だ。僕は鉄板を庭の隅っこへ置き、その門の奥に見える訪問者の顔を見る。その姿に、僕は驚愕した。
「大変、申し訳ございません…! あの日に本来渡すべきだった謝礼の品を、こちらの不注意で渡し損ねてしまいまして…!」
古民家に訪れたのは、まさかの新垣。そう、あのユーチューバーMasaの付き添いにして、カメラマンを勤めている眼鏡の男性だったのだ。僕は、この突然の訪問に目が点になる。
新垣の手には、僕宛ての粗品が入った紙バッグが握られていた。要は、それを撮影日当日に渡し忘れたお詫びとして、態々この古民家まで渡しに来たという経緯であった。
「謝礼品をもらうべきなんて、俺も当日その説明があったかさえ完全に忘れていましたよ。だから、態々持ってきてもらって逆に申し訳ないです」
そういって、僕は新垣に頭を下げた。新垣もここは「いえいえ」といい、手を横にかざす。
「そんな、こちらの方こそ大変申し訳ありませんでした。それより、どうでした? 現地の空気。都会とは違って、とても澄んでいたでしょう? 実は僕も、生まれは新潟なんだけど、学生時代は長野を行き来していたので、ある意味第2の故郷みたいなものなんです」
「へぇそうなんですね。はい、とても過ごしやすい気候で、食べ物もみんな美味しくてビックリしました」
「喜んで頂けて光栄です。あとでマ… 橋本にも、是非そうお伝えしたいと思います」
橋本… あー、あのユーチューバーMasaの本名かな? と、僕は冷静に判断した。今日、ここに来たのがMasaではなくカメラマンの新垣である事から、恐らくMasaは世間的に顔が割れていて表に出られない。僕はそう解釈したのだった。新垣は更にこう続ける。
「しかし、立派なお家ですね。急にこんな事をきくのも何ですが、何人家族ですか?」
「え? はい。6… ううん、5人です。俺と、下の兄弟4人で暮らしています」
と、僕はついお爺ちゃんの人数まで含めて答えてしまう所だった。ずっと長いこと、そうやって家族構成を他人に教えてきたから、まだその癖が残っているのだ。新垣は微笑んだ。
「そうですか。賑やかで、楽しそうですね。そうそう。今回のこちらの不注意も含めて、実はセリナさんにお伝えしたい事が」
「はい。なんでしょうか?」
「先日の、お仕事の件です。もし万が一、セリナさんや、セリナさんのご友人などに何か問題がありましたら、遠慮なく僕か橋本に言ってほしいんです。例えば、そう… 明らかにこちらの編集ミスなどが原因で、セリナさんに被害が及んでしまった時とか、ですね。あとは、お仕事をした場所に関する件で、何か困った事があれば。橋本も言っているのですが、セリナさんの要望に応じて、こちらも出来る限りの手助けはしていきたいと思いますので」
「え… え!?」
僕は耳を疑った。ただでさえ有名ユーチューバーの関係者に、日当5万円のお仕事に参加してもらい、しかも謝礼品を渡されただけでも凄いのに、今度は「手助けをしたい」とまで言われたのだ。果たして、ただのMV共演者である僕に、そこまでの手厚いサポートがあっていいのだろうか。夢じゃないのに、まるで夢を見ているかのような、そんな展開だ。
「質素なものですが、こちら僕と橋本の番号になります。うちは仕事柄、人一倍セキュリティを強化しなければならない立場なので、それに準拠した人脈が多いんです。探偵や弁護士、警察、そして医師の知り合いも多くいます。何かあったら、遠慮なく頼ってくださいね」
信じられない。という僕の驚愕を前に、新垣がそういって名刺を差し出してきた。その名刺にはMasaが所属するユーチューブ事務所のロゴと、新垣の名前、そして「マネージャー」という職種が記されていた。こんな貴重なものを頂いては、申し訳ない気持ちになる。
僕は緊張した面持ちで、その名刺を渋々受け取った。言葉の綾で本当は電話してはいけないものだとも一瞬思ったが、それにしては随分と大掛かりな気がする。謝礼品を僕がもらう件にしたって、そういえば打ち合わせの時に、そんな話は一切なかった様な… そんな疑問ばかりが頭に浮かんだものだ。こうして、僕はMasa達の連絡先を頂いたのである。
………。
今週、長岡新興分校は半日制独自のカリキュラムである「屋外授業」がない。
全日となる25日の火曜日。教室にいる僕やアゲハ達はみな机に向かい、無言で、後ろの席へと回される用紙を受け取っていく。そして担任教師監視のもと、必要最低限の筆記用具だけを机に置いた上で、鐘が鳴る時間。ついにその火蓋が切って落とされた。
令和3年度第一回学力考査。いわゆる1学期中間テストだ。
筆記用具は、カンニングやそれに準拠する文字が書かれていそうなデザインの物は、この日すべてテスト中に使用する事を禁じられる。筆箱も、中身にカンペを忍ばせられるような細工が出来てしまうため、死角に片付ける事が義務付けられた。スマートフォンなんて更にもってのほか。テスト中に起動している事が知られれば、没収と自宅謹慎処分は免れない。
僕たち学生の殆どは、この日のために勉強を頑張ってきた。義務教育ではないため、各校で定められている最低点数を下回れば赤点となり、補講や追試の対象となる。その補講や追試を欠席もしくはボーダーを下回った場合は、留年が決定する。それが高校というものだ。
僕は、そんな溜め息のでるような一大イベントを、およそ8年ぶりに再び味わう事となった。元いる世界で最後に高校を出てから、だいぶ時間が経過している。そのせいで、最初は当時の学習内容をほぼ忘れているという、しがないオジサン脳にひどく頭を痛めたものだ。だがどんな事情があるにせよ、時間は待ってはくれない。ベーシックインカムでこのプライム次元に招待されている以上、学校生活をあまり疎かにしたくなかった。神様に失礼だから。
――ここは確か… えーと、えーと思い出せ? 思い出せ! そこだ!!
僕はCS学園への屋外授業に行きはじめてから、今日までの間に、何もかも勉強が身に付かないスランプ状態に陥った時期がある。その原因が元いる世界とプライム、両方で受けてきた極度のストレスによるものだ。孤独で、無力で、そんな自分の存在価値そのものを否定せざるを得ないような感覚が本当に気持ち悪くて、ただの操り人形のような気分だった。
だけど、今の僕は違う。強靭な肉体を持っている事の「新たな発見」と、友人へのサポートに繋がった「運」、そして「意外なコネクションの獲得」。これらの奇跡が重なった事により、だいぶ自分に自信がついてきた。すると、これまでのスランプ状態がまるでウソの様に、再び学習内容が頭に入るようになったのだ。それも、最初のとき以上に。
ちなみに今日、中間テストを受けたのは長新の生徒だけではない。かのCS学園も、千人以上もの生徒が、この中間テストに尽力を注いだ。こちらは1つの教室に対し生徒数が多く、規模も大きいため、必然的に教員の向ける目も厳しくなってくる。先日は校長室に呼び出され、自分の入っている部活動絡みで校長と口論になったマニーも、例外ではなかった。
彼もまた、テスト期間中だというのに理不尽な叱責や転部斡旋を喰らい、ストレスも尋常ではない中で容赦なくテストに励む事になったのだ。ヤシルとティファニーのサポートがあるとはいえ、世の中は本当に理不尽だと思う。それでもマニーは一度も「テスト勉強の邪魔をしないでほしい」とは愚痴に出さず、なお部活動の存続活動と並行して今日を迎えた。
いま紹介したこれら2校以外にも、ほか招待客が在籍している残り5校はどうだろう? 離島2校は気候や文化が違うので、本州とはテスト期間がずれているかもしれない。だが、あとの3校はそうもいかないだろう。特に、N1Wと紫法院は高い偏差値を誇る進学校だから、そこに在籍する招待客たちはもっと大変なはずだ。ジョン・カムリも、ルカも、きっと僕以上に努力してきたに違いない。だから僕はこの日まで、あまり弱音を吐けなかった。こうして僕達は各々の意思を背負い、テスト当日を黙々と過ごしたのである。
5教科すべてのテストを終え、やっとこの地獄から解放された僕たちは放課後、それぞれの想いを語りながら帰り支度をする事になった。招待客以外の生徒によっては、笑顔になったり、背伸びをしたり、顔を青ざめたりといった子もいた。
「終わったね~。アゲハさん、今年のテスト問題ちょっと難しくなかった?」
「そうだね。他のところも、『今年は難しい』って招待客の殆どがいってる。そうだアキラ。次に行く、CS最後の屋外授業の件なんだけど」
「うん。あ、まだ1回残ってるんだ? そっちへ行くの」
僕はアゲハへと振り向き、荷物をリュックにまとめていた。まだ生徒の何人かは教室に残っているけど、中にはもう隣のクラス2組から移動してきた子もいる。ヘルもその内の1人で、この教室にひょっこり顔を出しているのをヒナが手を振っている間、アゲハは答えた。
「まぁ、もとは情報共有を理由に向こうへ行ってるからね。最後はこっちと同じ、テストの返却日だ。しかも、同時に学年成績順位も発表される。赤点になってしまった人を除く、生徒全員の順位が貼り紙に出されるんだよ。ここもだけど」
「うわぁ、それ緊張するなぁ。まるで入試の合格発表みたいじゃん。はぁー、自分の名前が載っていればいいけど… ふぁ~、テストで気が張ったからかな。なんか眠い…」
「お?」と、アゲハ達が僕を不思議そうにみる。別に、高校生がテスト終了後に眠くなる事自体は珍しくもないと思うけど、今の僕は明らかに体感が違うのだ。なんていうんだろう? 半ば強引に睡魔が襲ってきたかのような、この体の重み――。 バタンッ
「すー… すー…」
僕は、睡魔に耐えられず自分の机に突っ伏し、そのまま眠ってしまった。このままだと、次に目覚める場所は元いる世界。その世界に引きずり込まれる前に、僕の耳にはアゲハ達の声が、こう聞こえてきたような気がした。
「え? セリナくん!? ねぇヘル、彼どうしちゃったのかな?」
「ん? 寝るの早いな。よほど疲れてるのか」
「いや、まった。もしかしたらこれ、元いる世界で起こされているのかも」
「え、そうか? だってそれだと… ここの時刻からみて、向こうはまだ夜2時半だぞ?」
「でもそれでいて、この睡魔なんだ。向こうは緊急かもしれない。今はそっとしておこう」
………。
Ppp~♪
僕が目覚めた古民家の寝室、そのベッド横の小さな机にて、スマートフォンが直通を鳴らしていた。僕は、まだ深夜だというこの時間に起こされた事に、険悪感を覚える。
――あちゃあ。向こうで制服のまま寝ちゃったから、制服ごと転送されちゃったか。
招待客がもつこの枕元転送はその名の通り、就寝時の枕元に置いてあるものを異世界へと持ち運べる力がある。だがそれは同時に、自分が着用している衣服にも適用されるのだ。僕は先程まで長新にいたので、そのまま制服の姿で元いる世界に目覚めてしまったのである。ここでは元の黒髪だから、ある意味、プライムより高校生らしい身なりではあるが。
それはそうと、ずっと直通を鳴らしていて煩いスマートフォンを何とかしないとだ。僕は近所迷惑も良い所だというこの険悪感のもと、画面を覗いた。すると、それは登録がされていない、知らない携帯番号だったのだ。明らかに個人の番号である。
――なんだこいつ、こんな夜遅い時間に。まだ2時半だぞ? しかもまだ鳴らしている。
知らない番号だし、もしかしたらこの番号を僕が持つ前の、先代所有者の関係者か何かかもしれない。もしくは、あの璃人おじさんの仲間で、僕を目の敵にしている奴か。そう思い、僕は渋々電話に出る事にした。こんな時間に電話なんて、あまりに非常識なので最初は
「もしもし!?」
と怒ったトーンで対応したのだった。すると、
『もしもしぃ。あんた、テツが連れてきたアキラって奴だろう? おい答えろやコラ』
相手はおじさんとは違い、あまりドスの効いていない若い声だ。僕は電話に出て早々、ケンカ腰であるその相手に腹が立ったのだ。時間もそうだけど、やはり常識のないヤツだった。
「…誰だよアンタ。こんな遅い時間に電話してきて、いったい何の用だ」
僕はそういいながら、小さな机の引き出しに入っているボイスレコーダーを手に取った。それをスマートフォンに当て、スピーカーもONにしたうえで、録音を開始したのである。相手が、自分とテツの名をすでに知っている事から、そういう冷静な判断に至ったのだ。あのおじさん問題から、僕は常に録音できるものを携帯するようになったのが役に立った。
『あーオレ? テツの兄のノブだよ。それよりお前、よくもあの時は親父とお袋にガンを飛ばしやがったなぁ。あれから、お袋たちはお前に怒ってるんだよ。何様のつもりだコラ』
「は? それはこっちのセリフだろう。あんたこそ、初めて電話で話すひと相手に、よくそんな態度が取れるな。で、あんたは一体何がしたいんだ?」
『あぁ!? 決まってるだろうがよ。テツと一緒に、俺の所へ来いや。そして、親父とお袋の前で土下座しやがれ。俺もなぁ、お前をぶちのめしたいくらいムカついてんだよ! そうそう、来なかったらどうなると思ってんだ? 分かってんだろうなぁコラ?』
あの実母に続いて、こいつもこいつで頭がイカれているのか。あの親あってこの子あり、とは正にこの事だろう。僕は相手がテツの兄・ノブだと確信したうえで、あえてこうきく。
「…ところで、なぜ俺の所に? どこでこの番号を?」
『あ!? 話を逸らすんじゃねーぞボケ!! お前、自分が何したか分かってんのか!? そんなの決まってんだろう! お前と知り合いだっていう、親戚のババアがご丁寧に教えてくれたんだよ!! 文句があるならそのババアに言いやがれ!!!』
親戚の… あーあの継母のおばさんか。という事は、マズいぞ。おばさんはノブに脅迫され、僕の番号を教える羽目になって、今も監禁されているだろうから、そうなるとあのミアちゃんが危ない。このクソ兄貴をこれ以上刺激したら、更なる危害が及ぶ。
「なら、次に会う日と場所を教えてくれ。そこにテツと一緒にくればいいんだろう?」
僕はそういって、冷静に相手の要望を聞く事にした。もうこの時点で、すっかり目が覚めてしまったものだ。プライムにいるアゲハ達には悪いけど、今はこっちが大事だからな。
『あ? なんだよ、意外と素直じゃないか。まぁいいだろう。日時は29日の午前10時、場所は三郷ICの下にある赤いプレハブを持った事務所だ』
「なるほど。で、そこで俺が土下座すれば、全てが解決するんだな?」
『は? そんなのはお前の誠意次第だ。当日、こっちは優秀な弁護士をつけている。あまり、その弁護士に失礼な態度を見せるんじゃねぇぞ? こっちには証拠があるんだからな』
「…わかった」
僕がそういうと、ノブの電話はここで切られた。僕は、とんでもないヤツに目を付けられたとばかり、不安の溜め息をつく。ああは言ったけど、まさかこんな事態に発展してしまうとは、思ってもいなかったのだ。どうして、こんな事になってしまったんだろう?
――テツには、なんていったらいいんだ? 下手したら、僕のせいでミアちゃんたちの身に、取り返しのつかない事が起こるかもしれない。かといって警察に通報したら、きっともっと事態が悪化しそうだし… どうしよう。あ、そういえば新垣からもらった名刺…
僕はボイスレコーダーの録音がしっかりできている事を確認し、同時に机の引き出しに入れておいた、Masaと新垣の電話番号が手書きで記された名刺に目を向けた。あの時の、新垣の言葉を思い出したのだ。「何かあったら、遠慮なく頼ってくれ」と。
――この人たちに、今回の件をSMSに送るべきか? 失礼だと思われないかな。
僕はあくまで仕事で出会っただけの人達に、こんな個人的問題に頼って良いのか考える。だけど、そうでもしないと、当日は僕とテツの2人だけで現場へ向かう事になるのだ。そんな無防備な状態で、果たしてテツの継母とミアを救えるのだろうか?
――もういい! ダメ元でSMSに送っちゃえ!! 無視されたらそこまで、日当5万円の振り込みが無効になったって知らない! これでダメなら、こっちが実費で弁護士を探すなりやるしかないだろう!! ミアちゃん達を救うために。
僕は意を決し、相手の携帯電話から直接メッセージを送れるSMS機能を使った。そこに「夜分遅くに失礼します」と挨拶を入れた上で、今回の件をメッセージに綴ったのである。
その後、Masa達からどんなリアクションが来たのか。それは、また次回に話すとして。
僕はあのSMSでのやり取りのあと、再び眠りにつき、無事にアゲハ達がいるプライムへと戻ってきたのであった。実はそれまでの間、アゲハ達は色々と大変だったそうだ。
まずアゲハが、僕に突然睡魔が襲ってきたのは何故かを予見し、暫く無理に起こさないよう周囲を見張っていたらしい。その切欠となったのが、僕が教室での就寝中に「魘されていた」こと。そう。実は元いる世界で電話していた時の様子を、僕はだいぶ大声で寝言をこいていたらしいのだ。それを後でヒナとヘルから聞かされ、とてつもなく恥ずかしくなった。
そしてもう1つは、前述したその寝言を招待客が聞いた事により、いま元いる世界での僕の身に、大変な修羅場がのしかかっていると気づかれた事だ。それも、僕がプライムで目覚めた後はだいぶ心配されたもので、案の定アゲハ達から慰められたのは言うまでもない。
【第9話に続く】