激闘 聖王の手先 VS 魔王パーティー!
魔王様を中心に四天王が素早く身構える――。
「魔王軍四天王の一人、巨漢のサイクロプトロール!」
いやいや自己紹介して大きな鎚を力強く構えても、ピンクのレオタード姿では格好よくないぞ。あんまり筋肉に力を入れるとビリビリッと破れてドえらいことになるぞ。
「同じく四天王の一人、妖惑のサッキュバスよ」
いやいや、髪をかき上げるセクシーポーズは何用? サイクロプトロールと張り合っているのだろうか。
「以下同文。聡明のソーサラモナー」
コスプレマニアにしか見えん――。が、まあいい。
「そして、予が魔王」
――!
「あ! 待って! そこ、待って!」
慌てて魔王様の前へとしゃしゃり出る――。魔王様、フライングで御座いますっ!
「酷いじゃないですか魔王様」
四天王最強の騎士――宵闇のデュラハン! とカッコよく自己紹介させて下さい――。子供達が泣いて喜ぶ戦隊モノの登場シーンのように。
「この顔無しがデュラハンだぞよ。顔が無いのに喋ったり頭を抱えたりするぞよ」
「「ハッハッハッハッ」」
――先言っちゃダメーー! 自己紹介の前に紹介しちゃダメーー!
「嘘だ。デュラハンよ、卿もしっかり自己紹介するがよい」
嘘って?
「――はっ! ええっと……」
急に振られても言う事なんにも残っていないぞ。
そして沈黙。なんか……最悪。涙が出てきそうだぞ……シクシク。
「宵闇のデュラハンです。四天王です。好きな食べ物は、当たりつきの生牡蠣です」
生牡蠣に当たると怖いぞ……。
「「どうでもいいぞ!」」
「「そーだ、そーだ!」」
「「魔族なんかフルボッコにして外に放り出してしまえ!」」
「「おお――!」」
奥の部屋から戦士や魔法使いが大勢走って出てきた。……おおよそ一個中隊くらいか。よく訓練されている。キビキビ動くし掛け声も……大きい――。
金に物を言わせ世界中から強者を集めていたのか――。魔法使いと戦士たちの連携攻撃が絶妙だ――。ちゃんと訓練されている! 魔王軍よりも――統制されている!
「「各個撃破するのだ!」」
「「おお――!」」
――!
「こ、こいつら、魔法を吸収したり跳ね返したりするぞ!」
魔返しの盾か――! 「みなポックリ」とかおかしな禁呪文とかは使うなと忠告したい。
「わたしの妖惑の術にかからないわ!」
それは……そうだろう。女戦士と女魔法使いに投げキッスとかは通用しない~!
なぜサッキュバスが妖惑の力で四天王の座に君臨しているのか謎だ。……今はそれどころではない!
「すばしっこくて攻撃が当たらない!」
大きなド鎚を振り回すサイクロプトロールがフルーレを持った素早い戦士にチクチクと翻弄されている。――お前がどんくさいだけだ! 毎日毎日筋トレばっかりしているからだ。見せる筋力と使える筋力は別なのだ!
ピンクのレオタードが破れてしまわないかが心配だ。
「油断するな! 敵は手強いぞ――」
いよいよ白金の剣を抜く時が来たようだ。うずうずしちゃう~! 鼻血が出そうだ。首から上は無いのだが。
「予の無限の魔力を使う時が来たようだな」
「「――!」」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいよ魔王様、ここは私めに……」
「『能力強化!』」
……なんて分かりやすい魔法を大声で唱えるのか――! 敵にも全員丸聞こえだよ。
「四天王それぞれのステータスを最大まで上げてやったのだ」
「おおおお!」
「力がみなぎる――!」
「鼻血が出そう――!」
「……」
私だけ変化を感じない……。ひょっとするとすべての魔法が通じないスキルのせいで私だけ何の効果も表れないってオチか……。
「ええっと、うわー! なんか凄くムズムズして、首が生えてきそうだ――!」
「そんな魔法は無いわい」
「……ごめんなさい」
せっかく叫んでみたのに、魔王様に白い目で見られた。焼き魚のような白い目だ。ぐやじい。
「ステータスを最大まで上げたということは……255まで上昇したってことでしょうか」
やっぱりステータスの最大値って255だろう、普通は。
「いいや。無量大数だ」
「……」
無量大数って……10の68乗のことか?
「……小学生がよく言うやつですね。やり過ぎです。桁違い甚だしいです。四天王に撲殺されますよ魔王様」
頭が痛いぞ。首から上は無いのだが。
「四天王が予を裏切ることなどあるはずなかろう。デュラハン以外」
……私以外って……酷いぞ。こんなに尽くしているのに~!
「それよりも、私にもなにかして下さいよ。他の四天王が羨ましいです」
私だけ何も能力強化してないのです。
「はい」
手渡されたのは食べさしのカ□リーメイトだった。……チーズ味。口の中の水分が全部もっていかれるやつだ。
私にだけまさかの現物支給……これ食って頑張れってことでしょうか。
「……有難う御座います」
能力強化の魔法は時間が経てば効力はなくなるが、カ□リーメイトは物的ご褒美――! 熱量的ご褒美――! さらに食べさし――間接キッス!
やはり魔王様も次の魔王に相応しいのは私だと気付いていらっしゃる――! さっそくカ□リーメイトを頬張った。
「うおおおお、力がみなぎるうるうるうる……唾液が全部吸い取られるううるううる――!」
「うるさいなあ。もう少し静かにできぬのか」
「……申し訳ございません」
怒られるとは……。仕方なくカ□リーメイトをムホムホ食べながら他の四天王達の戦いを見守ることにした。口から唾液がすべて無くなった。
「今なら木の杖で山をも砕けそうな力だ……」
――? ソーサラモナーの「力」を上げてどうするの。あいつは魔法使いですぞ。
「聖王の唇は頂いたわ! ブチュウ~!」
いつの間にか聖王の目の前にまで接近し、熱烈なベロチュウをしているサッキュバスは、なんのステータスを上げてもらったのだ――! 聖王の口の周りから耳にかけて、サッキュバスの真っ赤な口紅でベトベトにされている……。
一言も喋っていないのに、いきなりキス魔にベロチュウされて……聖王泣いてる……。サッキュバスはイケメン以外にチューはしない。イケメンなのを……恨むがいい。
「「キャー、わたしの聖王様に何をするのよ!」」
「「キー! わたしの聖王様よ!」」
だから、キーって怒るのはやめて欲しいぞ。
「「――ップ! え、なになに?」」
「「ひどーい! お嫁にいけない~!」」
サッキュバスは目にも止まらぬ早技で……聖王以外にも次々とベロチュウをして動き回る……。男の兵士も……女の兵士にも容赦ない――。男女平等ってことだろうか。
「素早さ」のステータスが無量大数なのだろう。動きが早過ぎてよく見えないが……いつの間にか魔王様にもベットリ口紅が付いているのに……お気付きになられていない。帰ってお風呂に入るまでそのまま気付かないかもしれない。
私は顔が無くて助かった。ソーサラモナーとサイクロプトロールにも付いていないのは……気の毒だ。
「う、う、生まれて初めてファイヤーボールが使えたぞ――! ハーッハッハッハ!」
サイクロプトロールが歓声を上げている。「魔力」を上げて貰えたのだろう。無量大数の能力強化が泣いているぞ。
「あっちでやれ! ローソク程度の炎を出して喜ぶな!」
私には魔法が使えないから羨ましいのだが……言わない。言うと自慢されるから――。
「次はデュラハンの番だぞよ」
「え! 私の番ですと」
なにをやってみせろと言うのだ。カ□リーメイトでそこまでハイテンションになれない。というか、さっきハイテンションになって怒られたばかりではないか――!
みんな見ている。まるで忘年会での隠し芸大会のような期待の視線だ……。ゴクリと唾を飲んだ。
「……君のハートに……レヴォリューション?」
一気に静かになった。そして飛び交う罵声。主に身内から。
「パクるな!」
「照れてやるのが……見ていて逆に恥ずかしいわ」
「うは~」
「世界観がぶち壊れるぞよ」
……なんか、泣きそう。なぜ私だけがこんな過酷な目に遭わされるのだろうか――。
やっぱり地球儀が必要だった……ガクッ。
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