助っ人登場
「だいぶ難儀しておるようだな」
「――! 魔王様」
さらには他の四天王も勢揃いしている。
「暑いわねえ。はやくクーラーの効いている宮殿に入りましょ」
宮殿内はクーラーが効いているのか……。城壁の外にたくさん並んだ室外機がウォンウォンと唸りを上げて熱風を排出している。そのせいで城壁の外がこれほどまでに暑いのか……。
「それが……城門を兵士達が通してくれないのだ」
「当たり前だ! 怪しい奴らめ。何人来ても同じだ!」
……。わざわざこんなところに瞬間移動で現れなくてもいいのに。とは言えない。城門の目の前だから大勢の兵士がガッツリこちらを見ている。……睨みつけている。
「魔王様、作戦失敗です。ここは一度撤退しましょう」
帰ってアイスコーヒーをロックで飲みたいです。
「ならぬ。予は魔王だぞ。魔王が聖王ごときに門前払いされるなど、あってはならぬであろう」
「しかし、城門を通るには、あの兵士どもをなんとかしなくてはなりませぬ」
そんなにお金もありませぬ。五十円では足りませんでした。
「聖王は女ったらしのようです。女であれば通してくれるそうです」
「ちょっと待て! 女なら通すなど言っとらん。絶世の美女なら通すと言っただけだ!」
いちいち兵士の突っ込みがうるさい。せめて……作戦が聞こえないところまで移動するべきなのか?
「じゃあさあ、みんなで女装して入ったらどう」
「「いいねえ」」
その手があった――のか? 「いいねえ」って、誰と誰が言ったのだ――!
「でも顔無しじゃ女装無理だぞ」
「顔無しと言うな! 宵闇のデュラハンと呼べ!」
四天王に言われるとムカっとするぞ。
「いっつもいっつも足ばっかり引っ張りやがって」
「なんだとサイクロプトロール! もう一回言ってみやがれ!」
誰がいつ足を引っ張ったというのだ――。
「やめなさいよ二人共。男同士が抱き合うなんて暑苦しいわ……ひょっとしてボーイズラブ?」
抱き合ってないぞ――! 取っ組み合っていただけだぞ――!
「このセーラムーンのお面を被ったらどうだ」
ソーサラモナーはなぜセーラムーンのお面を持って来たのか聞きたい。冷や汗が出る。
「天狗もあるわよ。真っ赤なお鼻がすっごい大きい……」
サッキュバスが真っ赤な天狗のお面を鼻の部分をギュっと握って持ち出す。
「「やめんか!」」
天狗はどう見ても女装に見えないから……。
「マネキンの顔だけをデュラハンに乗せれば何とかなるんじゃないか」
「おお! そういえばこんなこともあろうかと、魔日本橋で買った3Dスキャナーでデュラハンの顔を作って持って来たんだ。これでいこう」
それって、凄く準備が良いぞ。良すぎて帳尻合わせってバレバレだぞ――。普段からそんな物を持ち歩いているなんて……隠れデュラハンファンなのだろうか。
ソーサラモナーが3Dプリンターで作った顔は……酷い出来だった。たぶん使い方が分からない時に遊びで作ったのだろう。
「プーップップップ」
「ひっどい顔! デュラハンの素顔って、こんなのだったのね」
「ブ男」
「違うぞ――勝手に人の顔を想像だけで作るな! 私はもっとイケメンだ!」
一度も見たことないけれどイケメンだ! こんなタラコ唇でひょっとこのような顔はしていない――。アゴだってもっとシャープだ。それに、なんでバーコード頭なんだ――流行の先取り甚だしいぞ!
だいたい3Dスキャナーってなんだ。冷や汗が出るぞ……。
だが、いつもながら背に腹は代えられない。仕方なくそのプラッチック製の顔を鎧の上に置き、落ちないようにガムテープで固定する。さらにはその顔にセーラムーンのお面を被せる……。
誰が見ても逆に怪しい! 全身鎧にセーラムーンお面……皆が笑い転げている。魔王様がヒーヒー息苦しそうなくらい笑ってくれるのは……ちょっと嬉しい。
他の男三人も適当な女装を施し、城門へと向かった。
「これで文句はないだろう」
城門を守る兵士たちは青ざめていた。その気持ちが痛いほどよく分かる。
「……怪しいが……いいだろう」
――え? いいの?
「お前達の努力を認めない訳にはいかない」
「ああ。とてもキモイ。とてもキモカッコイイ」
キモカッコイイって……それは褒め言葉なのだろうか。
「ありがとう」
兵士が大きな門を開けてくれた。敵ながらあっぱれな奴らだ。魔王パーティーは堂々と城門を通り抜けた。
城壁内に入れればもうカモフラージュの顔は要らない。さっさと取った。ガムテープって剥がす時は痛い。ネチャネチャする。
「どうしてもっと付けておかないのよ。ウケルのに」
涙流して笑うな。
「もう不要だ。それに戦いのとき邪魔になる」
私の真面目なキャラが変ってしまうのが怖いのだ。ウケルって……酷いぞ。
「それにしても……」
魔王様の女装は気持ち悪過ぎる。青白い顔に真っ赤な口紅はもはやゲテモノだ。頬も赤いチークが入っているが、より一層気色悪さを増強している。
サイクロプトロールのピンクのレオタード姿は……いったい何の影響を受けたのか! その姿のままでよく歩けるものだ。見ていて痛い。
ソーサラモナーの女子高生のコスプレが一番まともに見えるのだが……スネ毛の生えた足にチラチラ目がいってしまうのが……嫌だ――! さっき、短いスカートからパンツが見えてしまったのは内緒だ。ドン引きだった。男物のブリーフ。
露出の多いサッキュバスが普通に見え……なんか悔しそうな顔をしているのが可愛い。
「わたしもレオタードを着てこれば良かった……」
それでも……普通だ。この異色パーティーでは目立てないだろう。
宮殿の中にもおとがめなく入れてもらえたが、聖王を目の前にしてとうとうバレてしまった。
「貴様ら、な、何者だ――!」
「何者って……」
今さらのような気がする。もう目と鼻の先に聖王が座っている。サラサラ金髪ヘアーのチャラそうな男が……聖王なのか。服装や身なりは……貴公子っぽい。
「わたし達は魔族ぞよ。聖王と話をしにきたのだぞよん」
魔族ってバラしてどうするのですか魔王様……。どうせバレているだろうが。
「ぞよんってなんだ――!」
「怪しい奴め、出会え、出会え――!」
出会え出会えって……出会い系? 冷や汗が出る。
「やはり聖王とご対談なんて簡単にはさせて貰えないようですね」
「仕方がない。ここは強行手段に移らせてもらうか」
「なに、なんで俺達の女装がバレたんだ!」
サイクロプトロールが一人焦っている。女装がバレたかどうかは知らんが、とにかくお前が一番怪しいことに変わりはない。
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