第八十話 小鬼王様
私とマリーが教えられた方向に走っていくと、金属同士が激しくぶつかり合音が聞こえてきた。
「あっちね!」
建物の角を曲がると、そこは大変なことになっていた。
何人もの鉱山夫達が地面に倒れ、それを守る様に数名の鉱山夫がゴブリンとオークを相手に戦っている。
鉱山夫達はスコップやツルハシを武器に立ち向かうが、如何せん敵の数が多く追い詰められている。
「助太刀します! 今のうちに怪我人を!」
私は言うなり剣を抜いて、鉱山夫達の前に出る。
ゴブリンやオーク達も私の姿を見て敵と認識したのか、私を囲むと一斉に剣を振り下ろしてきた!
「神速! 華月流 名月!」
一斉に振り下ろされる剣を円を書くように打払うと、
「華月流 四龍」
体勢の崩れたゴブリン四体を斬り捨てた!
「『火炎』」
別な場所ではマリーが魔法で鉱山夫達を守っている。
鉱山夫達についてはマリーに任せて大丈夫な様だ。
私は目の前に立ちはだかるゴブリンとオークに素早く駆け寄ると、
「華月流 五色!」
二体のオークが血を吹き出しながら倒れる。
それを見てゴブリン達が怯んだ様な表情を見せるが、私は逃がす暇も気を立て直す時間も与えない。
「華月流 四龍」
そうして周りのゴブリンとオークを倒していると、
「オデの部下だぢをよぐもやっでぐれだな」
ダミ声と共にひと際大きなゴブリンが現れる。
周りのゴブリン達を何倍にした様な大きさ。
私よりも背が高くてデカイ!
縦にも横にも三メートルぐらいありそうだ。
装備も金属鎧一式にまるで巨大な肉切り包丁の様な剣を持っている。
その姿が現れるや周りのゴブリン達から歓声が湧き上がった!
「ライラ姉! そいつはゴブリンキングだよ!」
マリーが後ろから声を飛ばす。
(名前と様子からどうやらこいつが親玉のようね)
と言う事は、コイツを倒せば敵は総崩れになるだろう。
私は剣を構え直すと、
「神速! 華月流 一輪刺し!」
ゴブリンキングに向かって体勢低く駆け寄ると下から一直線に剣を突き出す!
ゴブリンキングは軽く後ろに下がる……が、私の剣筋からは逃れ切れていない!
胸を狙っていた剣先がゴブリンキングの喉元に迫る!
しかし、
ヒョイ
と言う感じに首を傾けて躱すゴブリンキング。
「!?」
神速中なのに躱された!
更に躱された上に剣を突き出した体勢になった為、私はゴブリンキングにかなり近い!
剣を持つ右腕を捕まれ……持ち上げられる!!
「くっ! は、離せ!」
私は右腕一本で体を持ち上げられ宙に浮く。
足が……地面に着かない!
「ぐっふっふ、ごうなれば剣をふるえまい」
ゴブリンキングは醜悪な顔を歪めて笑うと、
「じね」
右腕を持ち上げられ宙釣り状態の私に剣を振り下ろした!
「ライラ姉!」
マリーが叫ぶ!
私を助け様とするが、オークが二体その前に立ちはだかる!
迫る刃!
私は……動く左手でもう一振りの剣を抜いて軌道に割り込ませた!
ギィン!
あくまで割り込ませただけ……おかげで勢いは殺しきれず、そのまま私の体には衝撃が伝わる!
そして……握り持ち上げられていた右腕からボギリと嫌な音が聞こえ、激痛が走り抜ける!!
「うっがぁ!!」
一瞬目の前が暗くなり痛みが何度も押し寄せる!!
右腕が折れたようだ。
折れた右腕によって宙に浮いている為、体重が掛かり腕が引きちぎられる様に感じる!
チカチカする目の端に、再度剣を振りかぶるゴブリンキングの姿が映る。
(こ、このままじゃ……)
私は必死に目を開き……、
「てぇやぁぁぁ!」
掛け声と共に左手にある剣で、私を掴んでいるゴブリンキングの腕に斬りつけた!
「ぐぉ!」
金属の篭手に守られ傷は付かなかったが、いきなりの反撃と切りつけられた衝撃でゴブリンキングは思わず手を離してしまう!
どさっ!
私は地面の上に着地する!
そこまで地面と離れていなかったので転倒せずに済んだ。
私はすぐさま距離を取る。
腕の様子を見るが、
(右腕は駄目だ。 完全に折れてる)
痛みが波のように押し寄せ右腕は全く動かない。
対して、
「グッフッフ……逃げだどごろでその腕ではどうもでぎない」
ゴブリンキングが剣を構えて迫ってくる。
私が手負いにも関わらず……言葉とは裏腹に警戒を緩めない。
全く油断していない……キングと言うだけはありそうね。
って言うか私は大ピンチだけど……こんな事を考える分まだ余裕あるのかしら……。
私から少し笑みが溢れる。
そんな私の笑みにゴブリンキングは足を止めた。
私が何か企んでると思ったのか、
「何がおがじい!」
「フフッ……」
私はそれに答えず左手の剣をゴブリンキングに向ける。
そして、
「貴方って……臆病なのね」
微笑みながらそう言ったのだった。




