表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/258

第三話 争奪開催

今作より『スキル』『技』に該当する物が出てきます。


ルビは基本登場時のみとします。


魔法については全てに振ります。



「うぅ……グスグス……ふぐぅ……ヒック」

ようやくカンナ王子が泣き止んできた。



カンナ王子を助けたライラは、カンナを縛っていた縄で給仕をグルグル巻きにすると衛兵に突き出した。



そうしてライラの部屋に戻り、泣きじゃくるカンナ王子をなだめている所であった。


「グスグス……もう怖いよぉ。 お城の中なのに襲われるなんてぇ~」

ライラの布団に顔うずめてぐずっている。


(この布団……もう洗えないわ。 宝物にしたい)

そんなカンナの背中を優しく撫でつつ、変態の様な考えをしているライラ。



しかし、このまま泣き止まないのはライラの本心ではない。

泣いているカンナより、やはり笑顔のカンナの方が素敵だからだ。


「カンナ王子。 ひとまず今日は私の部屋で寝て下さい。 私と一緒であれば安心です」

安心させるように告げるライラが一番カンナに執着していると思わないでもないが……。


カンナは布団に顔をうずめたまま頷く。

もはや成人の儀とは何だったのかと思わせるほど子供にしか見えない……というか幼児に見えてくる。



ライラはそう言いつつ外の気配を伺った……。


(今のところ特には問題なさそうね……)


しかし城の中でも安全ではない様だ。

考え込みながらカンナ王子の頭を優しく撫でる。


どうやら泣きながら眠ってしまったようでスヤスヤと寝息が聞こえてくる。


(これって……私がいることで安心してるってことよね?)

嬉しくもあり……目の前にいるカンナ王子に何も悪戯出来ないもどかしさもあり……。


(っておい! 私はそんな子じゃないわよ!)


自分で自分の考えに突っ込む。



(それはさておき……ひとまず明日の昼からどうなるか……)


目の前で大人しく寝ているカンナ王子を見ながら、ライラも不安を感じざるには得ないのだった。






そして次の日になった。

今日の昼からカンナ王子を巡る戦いが始まる……。



昨日の給仕は先にカンナを捕獲して今日の昼まで隠す予定だったとの事。

フライングと言う事で権利剥奪と罰が下ったようだ。




「お父さん、やっぱり取り消して下さい! こんなの僕嫌です!」

朝から何度もアスター王に訴えるカンナ。


「カンナ……これはお前を思ってのことなのじゃ」

アスター王がそう告げるも、


「だからってこんなの酷いです!」


目を潤ませて懇願するカンナ。

両手をぎゅっと体の前で握りしめるその姿はあまりに男らしくなく……アスター王は深々とため息をつく。


「ではカンナ、訊くがお前は知らない女性に話しかけられるか?」


「え! ええ〜っと、で、出来ます!」

めちゃめちゃ目が泳いでいる……。


「今後儂の跡継ぎともなれば、色々な人と話す事になるだろう。 無論先程の様にお前に結婚を申し込む為近付いてくる女性も出て来るだろう。 そういった時にしっかり話ができるか?」


「あぁう……」


先程までの勢いは何処へやら、俯いて黙り込むカンナ。


アスター王はそんなカンナに、

「それならばいっそ王妃の座を狙う者たちで争わせて、妃としたほうが清々しい……暗躍などされるよりはな。 それにお前には荷が重そうだとか思ったからこそ、妃に国を治めさせようと思ったのじゃ」


まだまだ儂もおるからの……そう言ってアスター王はその大きな手でカンナの頭を撫でるのだった。





「……と言う訳で、説得は失敗したのですね?」


「うん……」


カンナが『説得する〜』と言って王の元に出向いたのだが駄目だった様だ。

まぁ、仮にも国を治める者としてそう簡単には陥落しないだろう。



「そろそろお昼になりますね……」

「うぅ……ライラ。 僕から離れないでね」


ライラの服をちょこんと握って不安そうに見上げてくる。


(確かに……このカンナ王子に世継とかは不安になるよね〜)

この姿を見ているとアスター王の不安も分からないでもない。


(まぁ、こんな姿のカンナ王子も最高に可愛くて……)


カンナ王子を抱き締めたい衝動を必死に抑えつける。



今のライラはドレス姿ではなく、簡素な絹の服を纏っていた。

長袖長ズボンとお姫様らしくない格好をしており、腰にはデュランダルを帯剣している。


何が起こるか分からないが、何としてでも(私の?)カンナ王子を守らなくてはならない。


アスター王に呼ばれてカンナ王子が玉座の間に向かい、その後ろをライラも周りを警戒しながらついていく。




玉座の間にはアスター王と、リアとマリーも揃っていた。

他にも何人もの貴族や賓客がいる。


もちろん開始の合図と共に何かしてくるつもりなのだろう。

つまり、みんなカンナ王子が……いや、国が欲しいのだ。



アスター王の前にしずしず進み出るカンナ王子。


そうして……アスター王が立ち上がり……。




「今より始まりとする!」


言い終わるや否や、貴族達の護衛がカンナ王子を攫おうと飛びかかって来た!

恐らく貴族達(あるじ)に言われていたのだろう。

王の御前なので抜剣や魔法は禁止だが、素手なら問題無いと踏んでの事だ。

アスター王も無理矢理でも……と言っていたので特に口出しはしていない。



「カンナ王子!」

「俺のものだ!」

「捕まえろ!」


護衛同士で争いつつも、一部は抜け出しカンナ王子に迫る!



その護衛達の前にライラがスッと歩み出ると、


華月流かげつりゅう  無刃術むじんじゅつ  月輪つきのわ


護衛達数名の身体が一回転して床に叩きつけられた!



「ぐはっ!」

「ぎゃ!」


床にのされた護衛達から悲鳴が上がる。



それを見下ろしながら、

「(私の)カンナ王子にお前たちなんかが触れられると思うな!」



「このっ!」

「ぐぅぅ」


顔を歪めつつ護衛達は顔を歪める。

そしてそれは護衛達の雇い主である貴族達も一緒であった。



ライラが今使った『華月流かげつりゅう』とは、父ハーデンから教わった剣技であり、その中には剣を使えない時の為の技もある。


月輪つきのわ』は飛びかかって来る相手を、手や腕、二の腕などで受け止め、同時に足を払う事で相手の勢いを利用して一回転させ床に叩きつける技であった。




「ライラ!」

怖かったのかライラの後ろからカンナ王子がぎゅっと抱きつく。



(ヒャッホゥーー)

心で吠える!


もちろん顔には出せないが……。




……しかし、


パチン!


指を鳴らす音がしたかと思った次の瞬間!


「!?」


抱き着いていたカンナの姿が消えてしまった。



「なっ!」

慌てて周りを見回すと……。


「マリー?」


いつの間に来たのか近くにマリーがいて、ライラに鋭い目線を向けている。


「もうカンナ王子に取り入ってるなんて、ライラ姉も手が早い」


腕を組みながら冷たく言い放つ。



「マリー……もしかして貴方が?」


「それに答える義務は僕にはないよ! じゃあね」


マリーはそう告げるとパチンと指を鳴らす!



すると……空気に溶けるようにその姿が消えてしまった!



「マリー!」

ライラが叫ぶもすでにその姿は影も形もない。


(ど、どうしよう!!!)

これは焦る……始まってそうそう王子を攫われてしまった!



焦るライラの耳にリアの声が聞こえてきた。


「マリーのやつ……『転移(テレポート)』だなんて……なかなかやるわね」


リアを見るとさすがの聖女様も焦ったような顔をしている。




「リア! マリーがどこ行ったか分かる?」

「気安く呼ばないでくれませんか? 虫唾が走るので」


(むぅ! でも今はそんな場合じゃない!)

「お願い! このままではカンナ王子が……」


リアは顎に手を当て少し考えたが、

「まぁ、私としてもマリーにカンナ王子を渡したくないですしね。 いいでしょう、貴方にはマリーの妨害をしてもらいましょうか」



そう言うと目を閉じて両手を胸の前で組む。

「聖霊の導きよ……()の者の居場所を教え給え……」



そうして目を開くと、

「カンナ王子はマリーの部屋にいるわ。 行きなさい駄犬!」


(誰が駄犬よ!)

そう思いつつもライラはすでに走り出していた!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ