第1話 可愛いお嬢さんから依頼を頼まれた
ジークは私の考える理想でカッコいい主人公を書いてみました。
初っ端からジークが事件に巻き込まれる話です。
それは十五年も前の出会いだった。
杖を持った長い白髪と白髭の老人……ジジイは【血みどろ】で【死にかけ】の俺に質問ばかりしてきた。
『小僧、何故逃げなかった?』
『……逃げても無駄だし、もしも逃げ切れてもあいつが下町をめちゃくちゃにしていた……今の王国の結界は不安定だし、騎士団もこの前の大襲撃でみんな疲れ切ってるし』
『死を恐れないのか?』
『死ぬのは怖いよ。でも、俺を育ててくれた下町のみんなが死ぬのはもっと怖い』
『自分が死んでもいいのか?ガキのくせに、夢は無いのか?』
『夢なんて、もうとっくに壊れたよ。何も無い……夢はダチに託した。ダチなら絶対に俺の分まで夢を叶えてくれる』
『両親は、家族はいないのか?』
『俺の両親はとっくの昔に死んじまったよ。俺は一人だ』
『……最後の質問だ。お前には三つの道が示される』
『道……?』
『一つはこのままここで死ぬ』
『オイ』
『もう一つは俺様が今ここでその傷を癒やして下町に帰す。だが、この先の人生は平凡なものだろうな』
『……いいから早くしろよ。眠たくなってきた』
『おいおい、まだ死ぬなよ?最後の道はお前の覚悟次第だな』
『あぁ?覚悟?』
『そうだ……今までの生活を捨て、俺様について来い!死すら生ぬるい地獄の日々を過ごした末に大いなる力を手にする道だ!』
『……あんた、もしかして悪魔か……魔神王の手先か?』
『んな訳あるか!?俺様はこう見えても正義と平和と自由を愛する善サイドの人間だ!って言うか魔神王は俺様がこの手でぶっ殺したわ!』
『……は?魔神王をぶっ殺した……?』
『まあその話は置いといて、小僧……今すぐに答えを出せ。俺様は気が短いからな』
『……俺を、連れて行け!その大いなる力を俺に寄越せ!』
『ほう、即答か!』
『俺の夢は壊れた……だったら新しい道を進むだけだ!』
『くっくっく……はっはっは!面白いぜ、そうこなくっちゃな!小僧、お前にはこれから地獄を味合わせてやるが……師匠として俺様の全てを賭けて、必ず弟子のお前を【最強】にしてやるから覚悟しておけ!!』
『上等だ、あんたに乗ってやるよ!ジジイ!!』
『ジジイと言うな!師匠と呼ばんか、馬鹿弟子が!!』
俺の……人生の分岐点とも言える出会いと決断をしたあの日の夢を見て、それからすぐに目を覚ました。
「あー、久々に見たな、あの日の夢」
たまに見るこの夢を見ると必ず何か大きな出来事があるんだよなぁ。
「前に見たのは……確か5年前の、【あいつ】とのガチバトルの時だったか?あん時はヤバかったな……」
あいつとの最初で最後の大喧嘩とも言えるガチバトルはどっちが死んでもおかしくないほどの壮絶なバトルだった。
まあそのガチバトルがあるから今の俺とこの生活があるんだけどな。
俺はベッドから起き上がって洗面所で顔を洗って歯を磨き、いつもの私服に着替える。
キッチンに置いてある朝食の林檎を皮ごと食べながら玄関のドアにかけてある看板を『CLOSE』から『OPEN』にして鍵を開けて朝日が登る外に出た。
「うん、今日もいい天気だ!」
俺の名はジーク・セレスティアル。
この店……便利屋『フリーダム』の店長だ。
便利屋『フリーダム』は簡単に言えば『何でも屋』で依頼があれば色々なことをする仕事だ。
何でもと言っても別に変なことはしない。
例えばレストランや商店などの忙しい時の店員のヘルプ、赤ちゃんの子守りやガキ共の遊び相手や剣術指南、更には荷物運びや壊れた物の修理……とにかくもう本当に何でもやる。
中でも一番忙しい時は農作物の収穫と祭りの手伝いだな。
収入はかなり不安定だが、とりあえず俺一人が普通に生活できる程度には何とかなっている。
まあ、そんな俺も二十五歳だ、嫁さん……はまだ無理そうだからせめて恋人は欲しいもんだ。
「おーい、ジーク!今日も朝早いねー!」
「女将、おはようー!」
便利屋の隣の宿屋兼飲み屋『大地の恵み』から女将のレベッカさんが出て来た。
レベッカさんはこの下町の母と呼べる存在で俺も小さい頃から世話になっていた。
「北の国から良い酒が入ったから今夜飲みに来な!」
「おう、良いね!女将、今夜も楽しみにしてるよ!」
大地の恵みは美味い飯と酒を提供するので金に余裕がある時は週に数回は必ず行くほどだ。
一応自炊はしていてそれなりの料理の経験はあるけど、女将と旦那の大将が作る味には敵わない。
何か不思議な秘策か調味料でもあるのかと疑問に思うほど美味い。
「さてと、今日も1日頑張りますか!」
林檎を食い終わり、残った芯をゴミ箱に捨てて今日予定している仕事に取り掛かる。
☆
今日は道具の修理を一日中やって終わった頃には既に日は落ちていた。
修理した道具は明日に依頼人に届ければ完了で、今日はもう店仕舞いをして大地の恵みに行こうかなと思った……その時だった。
「ごめんください……」
「んっ?あ、いらっしゃい」
タイミング悪くお客さんが店に入ってきた。
この時間に来るなんて珍しいなと思いながらそのお客さんの格好に違和感があった。
少し幼いが高い声だからすぐに女性だと分かったけど、全身をフードで包んでいて顔は極力隠すようにしていた。
だけど、俺には分かるぞ。
チラッと顔が見えたけど、綺麗な目と整った顔付き、そしてそのフードの下には……見事な果物が実っていると!
ジジイの影響だが、俺は大きくたわわに実った女性が大好きだ!
とまあ俺の思いの爆発このぐらいにしておいて、紳士的にお嬢さんと接しながら店の中に案内する。
この店には偶に『訳あり』の客も来るので俺はいつも通りに接客をする。
「お嬢さん。こちらの席にどうぞ」
「ありがとうございます……」
「今お茶を用意しますね〜」
「い、いえ、お茶は入りません!あの、すぐに話を聞いてくれませんか?」
「……分かりました」
お客のお嬢さんを来客用の椅子に座らせ、俺はその向かい側の俺専用椅子に座って早速話を聞く。
「それで、俺に何の依頼を?」
「……あ、あなたは、依頼を受ければどんな仕事も受けていただけるのですよね?」
「まあ、便利屋ですからね。あ、でも……暗殺とかは無理ですよ?人殺しは嫌なので」
「そ、そんなことは依頼しません!ただ、私は……あなたの使う【魔法術】でお願いしたい事があります」
「魔法術?」
魔法術とはこの世界の全ての生きとし生けるものが持つ【魔力】と呼ばれる自然のエネルギーを使い、発動する奇跡の術のことだ。
簡単なものだと火を放ったり、水を出したり、風を起こしたり、地を盛り上がらせたりと色々なものがある。
お嬢さんは俺の使う魔法術の力を頼りたいみたいだけど、残念ながら……俺のは魔法術とは【全く異なる力】なんだよなぁ……。
「それで、一介の便利屋の俺に何を頼みたいんだ?」
一応俺が魔法術を使えるという設定で話を進める。
するとお嬢さんは体を小さく震えながら唇を動かす。
「は、母を……」
「あなたのお母さん?」
そして、お嬢さんは勇気を振り絞って俺に依頼をしてきた。
「お願いです!私の母とお腹にいる弟を呪いから救って下さい!!」
どうやら、今夜は大地の恵みには行けそうにないな。
女将が仕入れた酒を残してくれて欲しいなと思いつつ店の外にいる複数の嫌な気配に気付いた。
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