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溺愛魔女と履行契約

アルバートの状態はあまり良くなかった。命の危機は脱したものの、吐き気、呼吸困難、悪寒は絶えずやってくるし、5日間の記憶は悪夢としてすぐに蘇る。常にそばにいて抱きしめてくれる存在感がなければ、耐えれなかったかもしれない。と彼は言う。

それでも、少しずつ発作のような状態の間隔が空き、身支度を簡単に整える余裕がでてきた。

調子がよい時に髪を整え髭を剃ってあげた。

ぼーっとして天井を見上げていた。調子がよいのだろう。なんの苦痛もなく、生きているだけで幸せという状態に信じられないほどの喜びを感じて茫然としているようだ。今、その視点は私に向かって定まっている。

水色の瞳の中に生きてる喜びが純粋に煌めいていて、とても綺麗。

存在が光に包まれ、純真な子供のよう。

素質の開花かと、

心の中で呟く。

今までもしかしたらこれを隠すために、わざと鬱屈させられてたかもしれない。

男も女も関係なく、すべての人が引き寄せられる。無垢な微笑み。これはどうしよう。

十全に伸ばしたらどうなるんだろう。


私はただただ子どもの彼を甘やかし、母親のように心を受け入れ続ける。

体の苦痛も、心が怖がっていることも小さな子供のように告白する。今日の夜が怖い。過去の夜が怖い。

生きているだけだ幸せなのに、急に前触れもなくそれは襲ってくる。それを聞き、ただ抱きしめてあげた。


彼の体調が良くなっていくと共に、少しずつ彼と私の箱庭は広がっていく。現実と重なる部分が増えてきた。

心の安定のため、心の杖として私は側にいたのだが、彼はいつまでたっても杖を手放さなかった。


ある日、現実に戻ったと彼は言う。

きらめく水色に瞳はとても澄んで穏やかだ。けれど、その眼差しに綺麗さと力強さを感じる。十全に花が開いた事に気付いた。

その日、彼は友人の一人に手紙を書いた。

「レミリア殿に渡してくれないか?彼女を経由したほうが早いと思って」

十全に…依頼主だとレミリアが教えてくれた。

契約は履行され、もう少しで終了する。

彼のお友達が迎えに来るまでの間、彼と言葉を交わすのは食事を食べさせるこの時間だけだった。

その他の時間に彼が何をしているのかまでは私の契約に入ってはいなかった。

この屋敷の中にいる限り、安全が保障されているのだから。


いつものように彼に食事を手づから与え、雛鳥のように開けた口に放り込もうとしたその時、彼のお友達が迎えにきた。

最後の食事が終わって、契約が終了したのだった。

ほっとした。二人とも。ギリギリ間に合った。

もう少しで取り返しのつかないところへ進むところだった。


しばらくして、自分の荷物をまとめようと立ち上がる。

「恐ろしい自制心だな。我が妻は。」

いきなり現れた旦那様に抱き締められた。旦那様の香りにクラクラする自分にも安心した。

「迎えにきたのだが、ティナ、一緒に帰ってきてくれるかな?」

ティナは泣きながら何度もうなづいた。

「レミリア殿には、借りは返した、次は自分がやれと伝えておく。最悪な女だ。」

契約終了と同時に連絡をよこした程、レミリアの方も切羽詰まっていたらしい。

真の依頼主から賠償報酬も送られてきた。

だからこそ、そんな男の側で心の奥底まで入り込んだ妻が自分の元に戻ってきたことの方が奇跡だとわかっていた。

彼女の口にキスする。深く長くもう止めることはできない。ティナは4カ月ぶりのあまりの甘さに気を失いかけた。

「しばらく部屋から出さないよ。覚悟するがいい」

彼は妻を抱え、屋敷を出た。

リーヘンベルク夫人の時間は終わった。





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