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第二話


どこからか聞いたことがある。

「30歳を過ぎて、純潔を守り切った男は魔法使いになる」そんな言葉を。


俺はこの言葉は、いい年こいて全く女性に縁のなかった残念な男に向けられた侮蔑の言葉なのだと勝手に思っていた。


しかし、目の前の小柄な魔女は言ってのけたのだ。


『お前は魔女になる才能がある』と。


しかし、魔法使いではなく、どうして魔女なんだ?


「疑問に思ってるな。俺の話が気になるんだろう?

そこ危ないからこっちにきな!」


少女はそう言うと、こちらを見ながらパチンと指を鳴らした。


すると、俺の体がみるみる浮いていく…。


「う、うわぁぁあ!?なんだこれ?」


「あんまりびびるなよ。簡単な浮遊魔法だって。


暴れんなよ?手元が狂って落ちても知らねぇぞ」


少女は呆れたような表情で言った。

この少女にはこの非現実的な光景が普通のようだ。

覚悟が決まってないのに落とされてたまるかと俺は体をばたつかせるのをやめた。


「よしよーし。いい子だ。」


「なんなんだよその小さな子をあやすような口調は…。」


少女は俺を安全な場所に下ろすと、言った。


「お前。名前は?」


え?あんたが聞くの?

俺のセリフじゃない?とか思ったけど、あんまり話が通じなさそうだと悟り、普通に自己紹介をする事にした。


「稲垣…。稲垣 透だ。」


「ふーん。トオルねぇ。面白くねぇ名前だな。まあいいや。」


「は?そこまで言うならあんたの名前はさぞ面白い名前なんだろうな?」


これまでの言動で非現実的な状況にも関わらずイライラしていた俺は、悪態をついた。


しかし、少女は全く意に介さない様子でニカッと笑顔で言った。


「俺の名前は佐藤 一郎って言うんだ。気軽にいっちゃんって呼んでくれ。」


「ヴぇ?」


すげぇ変な声が出た。

え?その見た目で!?


「え?その見た目で一郎なの!?露骨に男の名前じゃん…。」

「そりゃそうだろ。俺元々男だし。この体は俺の魔道の真髄を詰め込んだ合理的な体なんだぜ!」


一郎こといっちゃんは胸を張って言う。


「元男って…。

さっきの魔女の才能があるって言うのは聞き間違いじゃなかったのか…」


「まぁ、お前もそのうち分かるさ。どうして俺が女になったかってな。」


「え?その体でいろいろ楽しんでるんじゃないの?」


「バカ、そんなアホみたいな理由な訳あるか!これだから童貞は…。」


頭を箒で軽く小突かれた。


「いてっ何すんだよ…。あんたも魔女になったってことは俺と同じ童貞だったんだろ?」


「ん?まぁな。もう、昔のことだが。」


変に高いプライドを持っている俺とは異なり、意に介さないように彼女?は言った。


「この体はな。あらゆる魔術の叡智の結晶なんだよ。

あらゆる魔法に最適化されてるんだ。ここまで来るのに100年かかったぜ…。」


「100年って…。じゃああんた今何歳なんだよ!?」


「さぁ?しばらく数えてなかったが、もう130は超えてるだろうな。」


「…いろいろと信じられない事実が多すぎる」


「まぁ、すぐには無理だろ。

でも、これはチャンスだ。俺にとっても、お前にとってもな。それだけは認識しておけ。」


突然いっちゃんは真剣な顔になった。


その雰囲気に呑まれそうになる。


「お前が死のうとした理由は知ってる。俺は心を読めるからな。

生きている実感、理由がない。そう思っているんだろ?」


「…」


俺は少し間を置いて答えた。


「ああ。そうだ。今まで俺は欲と言うものを感じたことがないんだ。人は皆、欲があるから生きている。


欲しいものがある。喜んで欲しい人がいる。そんな欲があるからこそ、人間は生きていけるんだ。」


「じゃあ、お前には欲が無いとでも?」


「ああ。

生きるための三大欲求はそれなりにあるが、これまで生きてきて、色々なものに触れてきたが、どれとして興味を引くものは無かった。そんな俺が、生きている意味なんてあると思えないんだ。


…全く満たされていない訳じゃない。でも、何かが足りない。ずっとこの空白を知らないままで生きていくなんて俺には耐えられないんだ!!」


いっちゃんは俺の言葉を全て聞き終えた後、ボソリといった。


「やっぱりお前は俺と同じだ!」


そして、キラキラと目を光らせながら俺の両手を掴んだ。

思わず、先程の分厚い本を落としてしまう。


「お前!俺の養子になれ!」


「な、何を言ってるんだ!?」


「だから、お前は俺の子になるんだ!」


…唐突過ぎて意味がわからない。

どうしてこの人は急にキラキラとした目を向けてきた?

どうしてこんなに嬉しそうな顔をしているんだ?


そして、



どうしてこんなつまらない俺に興味を持ってくれているんだ?


気がついたら俺はボロボロと涙を流していた。


「ど、どうした?そんなに嫌だったか?」


いっちゃんは意外にも狼狽していた。


「いや、大丈夫。

嬉しかったんだ。働き始めてからずっと俺に興味を持つ人なんてどこにも居なかったから…。」


「ふふ。そんな事で泣いてたのか。全く。情けない奴だ」


「少しは慰めてくれよ…。」


俺は涙を見せまいとしゃがんでうずくまった。


「ったく仕方ねぇなぁ。ほら」


そう言っていっちゃんは両手を広げて俺を抱きしめてくれた。


俺よりもずっと小さな体。


しかし、抱きしめられた俺は、身体中を温かい何かで包まれたような気持ちになっていた。仕切りに頭を撫でられる。


俺は、何かが溢れて、涙が止まらなくなってしまった。


「う…うう。どうして…。こんなに涙が止まらないんだ…。俺、もう30なのに…。」


「別に大人が泣いてもいいんじゃねぇか?

その涙は恥ずかしいもんじゃないと思うぞ。お前は自分の気持ちに蓋をして、死を選ぶほど悩んだんだ。


今、その蓋は無くなった。そりゃあ、涙だって溢れてくるさ。


今日は俺が慰めてやるよ。もちろん、筆下ろしはしないがな」


いっちゃんはケラケラと笑った。


こんな時に下ネタかよ…。そう思ったが、これがこの人なのだろう。


彼女にとってもチャンスと言うことは、こんな俺に何か価値があると思っているという事だ。


それが何なのかはわからない。


でも、今は安心するこの小さな腕の中に抱かれていたい。

そんな事を考えていた。


そして、中身が男と分かっていても、俺の息子は無情にも反応してしまうのだった。


だってこの魔女。とてもいい匂いがするんだもの…。


「おい。いくら俺がかわいい女の体だからって犯そうとすんじゃねぇぞ。一応この体はまだ未成熟だからな。


せめて後3年は待てよ。あ、童貞だからそんな度胸はないか。」


「べ、別にそんな事考えてねぇよ…。」


泣きながらでうまく発言出来なかったが、言いたいことは言えたと思う。心が読めるなんて、全く、プライバシーもへったくれもない。


こうして、俺は魔女の元に行くことになった。


今思えば、俺の人生はここまで序章に過ぎなかったのかもしれない。


ふと、慈愛に満ちた表情で俺の頭を優しく撫でる魔女を見て思った。


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