その(4)
私の転校先での高校生活はとても幸せなものだった。特別良いことがあった訳じゃなくて、ただただ普通の毎日を送っている日常が素晴らしいものに感じられた。
「ねえねえ、今度の日曜日予定ある?」
始業式から数日が経ち授業も本格的に始まったある日の昼休み、雪音が人なつっこい目で私を見ながらそんな風に尋ねてきた。
「特には…ないかな。」
少し間を空けたのは暇な人間と思われるのは嫌だなあという無意識の自己主張だったのかもしれない。
「じゃあさ、私達と一緒に新しく出来たショッピングモールに行かない?」
「私達?」
「うん。私と亮介とそれからミッチー君…てゆってもわかんないか。ミッチー君てのは前の席の佐藤君のことなんだけど、この4人でさ。」
雪音と橘君が付き合っているというのはメールを始めてすぐの段階で知った。雪音の方から照れることも無く話してくれたのだが、話しを聞かずとも教室で二人を見れば一目でわかるラブラブカップルである。佐藤君はその橘君の幼なじみだそうで、今回のメンバーはその仲良しグループというわけだ。
「わかった。予定空けとくね。引っ越して来てから買い物は全然行ってないし欲しいものいろいろ買っちゃおうかな。」
「佐野ちゃんノリノリじゃん。また詳しいこと決まったら連絡するから、それまで何を買うかじっくり考えといて。」
彼女は私を“佐野ちゃん”私は彼女を“雪音”と呼び合うようになったのもメールを始めてすぐだった。数日前のことなのにきっかけもあやふやだが、そうして遠慮なく呼び合える友達がいることに喜びを感じる自分がいた。
そう。そんな些細な日常が心地良かった。のろけ話や愚痴を聞いて、休日はカラオケやランチを楽しんで…そんな高校生らしい生活が私の転校先での望みなのだ。今はうまく行き過ぎたスタートダッシュに自分自身とまどったりもするが、振り返らないでこのまま真っ直ぐ走り続けてみよう。
それから日曜日までの数日間、サンタクロースのプレゼントを待つ子供のようにわくわくした気持ちで私はいた。まだその時は気付いていなかったんだ。やっぱりサンタなんていないんだと気付かされることになるなんて…。