表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

その3

今日もだるような暑さだ。加えて強烈な睡魔が俺のまぶたを重くする。

昨日学校から帰った俺は彼女のことばかりを考えていた。正確には彼女とどうやって仲良くなるかについてだ。まずは話すきっかけを探そう。そう考えた俺は彼女とのファーストコンタクトにふさわしい台詞を一晩中考え続ける事になる。ああでもない、こうでもないと悩み果てた末に出た結論が、

「俺は光秀ていうんだ。信長さんとは何か運命を感じるんだよね。」

だなんて冷静になって考えると意味不明な台詞なだけに、睡眠時間を犠牲にした昨日の自分が恨めしい。


「ミッチー君、後ろ姿が切ないよ。」

暑さと眠気でふらつきながら登校する俺に背中から声が掛かる。ミッチー君。あだ名に「君」付けで俺を呼ぶやつはこの学校に一人しかいない。

「何だよ、津田。俺ってそんなに哀愁漂ってる?」

津田雪音つだゆきねは俺のクラスメートでありくされ縁、亮介の彼女でもある。

「何かあったのミッチー君?悩み事でも相談でもなんでも私が聞いてあげちゃうよ。」

「何にもないよ。ただ今日はちょっと寝不足でね。」

「恋の悩みだね?」

重く閉じかけたまぶたがビクッと跳ね上がるのが自分でも痛い程によくわかった。

「ミッチー君わかりやす過ぎ。亮介から聞いたよ。昨日の転校生ちゃんに一目惚れしちゃったんだって?青春だよね。」

「はあ?俺はあいつにそんな事は一言も…」

「目を見ればわかるんだって。あいつとは10年の付き合いだから何考えてんのか一発でわかるって言ってたよ、亮介。恋は素敵な事だよ。隠す必要なんてないじゃん。それともまだ引きずってるの?高校デビュー大作戦…。」


高校デビュー大作戦。それは初めて飲むブラックコーヒーよりも苦い俺の青春時代の1ページ。あれは入学式の後、亮介と二人で帰った坂の途中…

「はいはい、思い出すのは止め。」

「思い出そうとしてるなんてなんでお前にわかるんだよ。」

「なんとなくね。悪い思い出を振り返ってもいい事なんて何もないよ。それよりもさ、残りの高校生活をどうやって楽しむかを考えなきゃ。そ・れ・で!彼女のことやっぱり気になってるんでしょ?」

「彼女?」

急に話を戻されたので「彼女」が誰を指すのか一瞬わからなくなる。そんな俺を見た津田は、どうやら俺が話を誤魔化そうとしていると受け取ったらしく、

「とぼけないで正直に言っちゃいなよ。私、あの子ともう友達になったんだ。なんなら協力してあげてもいいんだよ?」

「それ、本当だな?」

「本当だよ。ってか今の言葉で全部認めちゃったってことでいいんだよね?そうと決まったらこの雪音ちゃんにまかせなさい。たんなるおせっかいで終わらせないんだから!」


ひとりで盛り上がる津田の横で、俺もふつふつと恋の炎を燃え上がらせていた。完全にペースを握られた気がしないでもないが強力な助っ人が得られたのは有り難い。出だしは順調。今度こそ念願の彼女を!信長ちゃんを我が手中に!!

校門に着いた頃には汗だくになっていた。汗でべとつくシャツが今日は不思議と心地よく感じられた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ