その1
そう。それは高校2年、2学期最初のホームルーム。まだまだ厳しい夏の暑さに負けないくらい俺の心は燃えていた。教壇には黒髪の美少女。色白で華奢な体、二重で澄んだ瞳、清潔感溢れるオーラ…ど真ん中ストライク!ガッツポーズを掲げようとする己の右手を懸命に左手で制しながら、彼女の立つ教壇を凝視する。
「二学期からこちらに転校することになった佐野さんだ。みんな仲良くするように。簡単に自己紹介しなさい。」
担任に言われ一歩前に出た彼女が少し恥ずかしそうに口を開く。
「京都から転校して来ました佐野信長です。よろしくお願いします」
へ?の・ぶ・な・が??興奮しすぎて聴覚がおかしくなってしまったのだろうか。いや違う。クラスの連中のざわつき具合から察するにおれの聴覚に問題は無い。女の子で信長…皆が何か言いたげなその張りつめた空気なんてお構いなしに担任は話を進める。
「席は出席番号順だから佐野は佐藤の後ろ、2列目の前から3番目に座りなさい。」
これが彼女との出会い、そしてこの俺、佐藤光秀の甘く険しい青春恋物語のプロローグである。
「おーい、ミッチー」
靴箱の前で背中を押され振り向くと肩から空のカバンをぶら下げた亮介がにやにやしながら突っ立っていた。ちなみにミッチーは俺の小学校から変わらないあだ名である。
「なんだよ亮介。今日は彼女と一緒に帰らないのか?」
橘亮介。こいつとは小学校低学年以来クラスもずっと一緒という腐れ縁だ。もちろん、高校も2年間同じクラスである。
「ああ。あいつ今日は女友達と寄るとこがあるってよ。それより転校生だよ転校生。名前にはびっくりしたけどマジでレベル高いよなあ。ミッチーもああいう子タイプっしょ?」
タイプなんてもんじゃねえ!!もう好きになっちまった!一目惚れだよ!と心の中だけで叫び
「まあ、いいんじゃない。」
と冷めた返事を返してやった。
「またまた。ミッチーはああいうおしとやかな感じの子がタイプなんだろ?それに信長と光秀だぜ。ん百年の歴史を越えた運命を感じるよなあ。」
「運命、ね。」
そうだ。これは運命の出会いなんだ。彼女は織田信長の、俺は明智光秀の生まれ代わりで現代に生を受けた二人は…だめだ!!光秀は信長を裏切る。そんな運命は繰り返しちゃいけない!
「ミッチー何遠く見つめてんの?まさか運命っての本気にしちゃった?」
亮介に言われ妄想ワールドから我に返った俺は遠くへ投げかけた視線を慌てて元に戻す。
「まあ、席も前後だし仲良くなれるようにがんばるよ。」
燃えたぎる内心を悟られないようそう答えて、俺は校門から駅へと続く下り坂を入学式以来の新鮮な気持ちで進んでいった。