第1話 死亡しました。
暗闇の中で息を潜める。
俺、葉桜天理は今仲間と共にとある廃墟に潜り込んでいる。
季節は春、冬が過ぎやっと暖かくなってきた時期ではあるがまだ少し肌寒い。
なぜこんな廃墟なんかにいるかと言えばここ数日の間で俺の住む街に数名の行方不明者がでてしまったからだ。
ただの行方不明ならば警察や探偵の仕事だろう、しかしこの事件に関わった警察や探偵の者達も行方不明である。
そこで俺が所属しているとある組織に国から捜索依頼が入り組織の者達が調べた所行方不明者達はこの廃墟に来てから連絡が途絶えていると判明した。
俺と仲間達は組織からの指示の下廃墟を調べに来たのだ。
この廃墟は昔から肝試しをする場所として地元で有名で、行方不明になった者達は胆試しをしにこの廃墟に来ていたようだ。
まったく、胆試しは夏だろうに、こんな時期に何をやっているんだか。
さて、折角なので俺が所属している組織について少し話しておこう。
まずこの世界には表沙汰に出来ないような者達がいる、物語で出てくるような天使や悪魔、鬼や妖怪といった者達だ、彼ら彼女らは人に化け人間社会に紛れ込んでいる、そんな人外の者達が悪さをした時にそれを取り締まったり始末するのが俺の所属する組織の仕事だ。
日本で言えば陰陽師、海外で言えばエクソシストのようなものである。
人が渦巻く現代社会、そのような人外的存在は決して認められておらず表舞台に出すことが出来ない。
そういった人外の者達を相手にするのが俺が所属する組織である。
スッと後ろに近づく気配がある。
「おい、天理、そろそろ動くぞ」
「了解、さっさと終わらせて帰ろう、俺学生だし明日は高校の入学式があるから」
「あのなぁ、俺もおなじだ、お前の幼馴染みなんだから」
「そうだった」
「お前はまったく、さっさと終わらせて帰るぞ」
俺は頷き素早く動き暗闇に消えていく。
ピッピッと携帯のアラームがなり、ダルい身体を起こす。
俺は昨日の廃墟での事を思い出し暗い顔をする。
犯人らしき者はいなかったが人外特有の力が感じられた、行方不明者の救出はできたもののかなりの血を奪われており死にかけている者もいた、そしてその血を使い魔方陣が壁に描かれていた、その魔方陣は悪魔召喚でつかわれる類いのもので嫌な感じがかなりしていた。
悪魔召喚が成功したか失敗したかは現在調査中だ。
よし、嫌なことは一旦頭の片隅に避けておこう。
今日は入学式、そして俺は今日から高校生になるのだ。
どうせ後日調査報告したり聞いたりをするのだ、考えるのはその時にしよう。
今の時刻は朝の7時、昨日のお仕事でまだお眠だけど支度をしよう。
ベットから降りようとすると何か暖かいものが腰に絡み付き俺はゆっくり布団の中を覗く。
「おはよ~、もう朝なの~」
そこには気だるそうな声をさせながらこちらに笑顔を向ける少女がいた。
「おはようございます、ところで姉さん、朝から何をしてるんですか?」
ベットに潜り込んでいたのは一つ上の姉、葉桜樹理であった。
「朝からじゃないよ~、昨日の夜からだよ~」
いやいや、昨日の夜からって、勘弁してほしい。
溜め息をつきながら布団を剥ぎ取る。
「姉さん、学校に行く支度をするので部屋の外に出てもらえますか」
「え~?、私は気にしないよ~」
「俺が気になるんです」
「気にしたら負けだよ~」
「負けでいいです、それに姉さんも学校の準備があるんですから部屋に戻ってください」
「まったくも~、我が儘だな~」
そう言いながら渋々俺の部屋から出ていく、まったくどっちが我が儘なのやら。
俺は制服に着替えてリビングに向う、そこにはすでに父さんと母さんがテーブルに座って朝食を食べていた。
「おはよう、天理も今日から高校生か、時がたつのは早いもんだな」
「そうね、あなたもアッと言う間にお爺さんかしら」
「ははっ、そうだな、俺が爺さんなら母さんも婆さんだな」
「あ゛っ?」
「何でもないです」
「私は永遠の22歳よ」
「そうだな、母さんの美しさは永遠だ」
うん、いつも通り平和だ。
「相変わらず仲が良いね~」
支度を終えた樹理もやってきた。
俺と樹理も朝食を食べ始める。
「お父さん、昨日の犯人はどうなったの~、捕まった?」
樹理の言葉にせっかく頭の片隅に追いやった出来事が思い出される。
実は樹理も昨日の廃墟で一緒だったのだ、何故なら彼女も組織の一員だからである。
ここまで言えば分かることだろう、父さんと母さんも組織の一員である、しかもかなり上の立場だ。
「まだ捜索中だ、なかなか厄介な相手みたいだぞ、複数犯であることがわかったんだが、逃げるのや隠れるのが上手いみたいでな、なかなか尻尾を掴めないでいる」
父さんはため息をもらす。
「そのわりにあの廃墟はザルだったね~、見つけてくださいって感じがしたよ~」
「父さん達も追ってるし警察も動いてるから何か進展があれば教えるよ」
「わかった~」
その後はたあいない話をし学校に向かう。
「「行ってきます」~」
樹理と共に家を出る、学校に向かう途中で3人の男女が待っていた。
「樹理さん、天理君、おはようございます」
そう言いながら深々と頭を下げる長身の女性、モデルみたいな体型で俺達が通う学校の3年生にして生徒会副会長、名前は赤羽由奈だ。
「樹理ちゃん、天理ちゃん、おはよう」
優しい笑みで挨拶してくれたのは二年の菊地まり、樹理の同級生で風紀委員長だ。おしとやかな女性で男女共に人気がある、ただし怒らせると怖い。
「おはよう、昨日はお疲れ」
最後の一人、名前は七崎聖夜、俺の同級生である。絵にかいたようなイケメンで頭もよく運動神経も良い、さらには性格もよく女性にモテまくりである、その反動で男性からは常に嫉妬の目を向けられあからさまに避けられている。
聖夜唯一の男友達が俺である。本人は男友達が欲しくてやまないがそっち系ではない。
この3人と俺に樹理でいつも行動していることが多い、そして彼等彼女らも組織に所属している者達だ。
俺達は昨日のような表舞台では対処できない対応をする裏方の人間である。
とは言え昼間は普通に学校に通うただの学生だ。
「昨日は誰も死人がでなくて良かったな」
「そうですね、かなり危うい人はいましたけど一命はとりとめたそうですし」
「ホントに良かった、ただ犯人の尻尾が掴めてないそうなので安心は出来ませんけど」
「そうなんだよ~、あんだけずさんな現場なのに不思議だよね~」
聖夜、由奈、まり、樹理は首をひねって考えている。
「犯人はすでに誰かに刈られてたりして」
俺の言葉に聖夜が顎に手をあて考えたと話しだす。
「どうだろうな、そう言えば少し前にこことは別の街で似たような事が起きてたらしいし、その時は死者もでたって話だ、犯人はいまだ見つかってなく捜索中」
他の3人も頷く。
「え?俺初めて聞いたんですけど」
「仕方がないよ~、私達の担当地区ではないからね~」
樹理に頭をポンポンとされる。
「じゃあ何で皆知ってるの?」
「私は今回の事件と似た情報を帰ってすぐ調べたからね~」
「昨日樹理さんから連絡が来ました」
「私も昨日樹理ちゃんから聞いたよ」
「俺も連絡がきたぞ」
知らなかった、ひょっとして俺だけハブられてる!
「姉さんなんで教えてくれなかったなんですか?」
「だって~、帰ってすぐ寝ちゃたから~起こすの悪いな~って」
「そうですか」
確かに帰ってすぐ寝てしまった、しかも凄いぐっすり眠れた。
「ぐっすり寝てたお陰でベットに侵入出来たし~やっぱり寝る前に飲んだ飲み物に睡眠薬入れといて良かったよ」
「「「「えっ!」」」」
「あっ!今のは聞かなかった事にして~」
「できるかぁー、何弟の飲み物に睡眠薬投入してるんだー!」
「勿論寝ている天理に、うふふ」
「何、俺寝ている間に何かされたの!」
姉弟のやり取りに三人は苦笑いをする。
そんな話をしながら学校が見えてきた。
信号が点滅しているので横断歩道の前で止まる。
すると前からランドセルを背負った小学生の女の子が横断歩道を走って渡る、しかしその途中で転けてしまい信号が赤に変わってしまった、さらに運が悪いのかスピードを出したトラックがその少女に突っ込んで来る。
「危ない!」
俺は咄嗟に少女を助けようと横断歩道に飛び出る。
「天理ダメ!」
樹理に声をかけられるが時間がない。
少女を抱えその場から離れようとした時急に身体が動かなくなる、まるで石にでもされたようだ。
「見つけた」
「え!?」
「それに捕まえた」
言葉を話した少女は生気のない笑顔で笑っていた、まるで何かに取り付かれているようだ。
俺は少女を抱えたままドンっとトラックに弾き飛ばされて地面に叩きつけられる。
「天理!」
樹理達が急いで俺の元まで来るのが見えたが俺はそのまま意識を失った、それがこの世界での最後の記憶になったのだった。
書き直しました。